第16話 再会

冬が終わりに近付く。もうすぐ春になろうとしていた。



「タカハシと申しますが・・・・」

久しぶりにこの台詞を口にした。




キャパ5000人の大きな会場だ。

改めて自分とハルの距離を測ることができる。


(これでもう吹っ切れそうだな)


「ミズタニさんから伺ってますよ。こちらへ」


やはり誰もいない部屋でミズタニを待つ。


誰かがドアをノックする。いや、1人しかいないのだが・・・・。

「おお!ナツさん」


「どうも、ミズタニさん」

タカハシの無表情は変わっていない。


「いやあ!久しぶりですね!」

「ところで最近、何聴いてますか?」


ミズタニもまったく変わらない。

相変わらず音楽が大好きで楽しそうだ。


「最近あんまり聴いてないんですけど、えーとLOVEとかAshの新譜です」


「相変わらず雑多ですね」

「私はメンフィスの・・・・・」


楽しそうに、物凄い勢いで話し始める。

タカハシもやはり、楽しい。

そう、楽しいのだ。失われた感情はいつのまにか戻っている。





「なんだか盛り上がってますね」


一瞬で緊張する。汗が滝のように吹き出した。

「久しぶりですね。ハルさん」


久しぶりに見るハルは、最後に会った時よりも随分大人びていた。

ハルがミズタニを見る。


「2人にしてもらえますか?」


「もちろん、そのつもりだよ」

本当にいつも通り・・・・・いつも通りの笑顔だ。


「・・・・・・・マジですか?」


「マジですよ。ハルだっていつまでも子供じゃないんです」

そう言うとミズタニは部屋を後にした。






(気まずい・・・・・・)


やはり口火を切るのはハルだ。

「大学、受かりました」


「おめでとうございます」


「1年ぶりぐらいですよね?」


「・・・・・そんなになりますか」


「教えてください」


「何をです?」


「とりあえず、この1年間のこと」


「(とりあえず?)えーと、仕事で忙しくて・・・・・あ、曲も作ったりしましたよ。ハルさんのようにはいきませんけど」


「ほんと?聴きたい!」


「(しまった・・・・!)いや、いいですよ。そんな大したものじゃないです」


既にハルの姿はない。すぐにギターを持って戻って来た。

こういうのも相変わらずだな。


「じゃあ、こんな感じなんですけど・・・・」


いくつか作った中で最もシンプルな曲だった。4つのコードで展開する。


「お、いいじゃん」


「・・・・どうでしょう?自分ではどうにも・・・」


「今日演る。歌詞書いて」


「ええ???」


この頃のハルのライブはバンドセットが殆ど無くなり、大半はアコギの弾き語りスタイルになっていた。

その時は自分の気分次第で色々な曲をやっていた。


「ミズタニさんに許可は・・・・・・取らないですよね」


「あはは。ミズタニさんの言った通りだ。わたしの性格わかってるって」

「そういう訳で、もちろん勝手にやります!」


「知りませんよ、どうなっても」


「まだ聞きたいことがあるんですけど」


「何でしょう?」


外からコンコン、とドアをノックする。


「あ、時間だ・・・・ライブが終わってから・・・・また話せますか?」


「(敵わないな・・・・・)・・・・僕も話したいです」





変わらない笑顔で部屋を出て行く。

いや、変わって行く。タカハシもハルも変わり続けている。

今この瞬間も変わっているのだ。


入れ替わりでミズタニが入室する。


「こういうのも久しぶりですね」

「さ、行きますか」

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