第11話 ししとう

今回の入院は1日で済んだ。

頭を強く打っており、やたら流血したが幸いにも当たりどころは良かったようで大事には至らなかった。ただ、頭と拳に包帯は巻かれ、輸血を少ししてもらった。

病院を出ると、イトウが待っていた。

「おっす」

「おはようございます。ご無事で何よりです」

明太郎は、凛々しくなったようなイトウに少し嬉しくなりながら、病院の駐車場の奥にある定食屋を指差した。

「メシ食ってくか」

「あ、朝飯はもう…」

「じゃあ、付き合うだけ付き合って」

イトウはうなづいた。


明太郎は味噌汁を啜りながら、定食屋でありがちな少し高いところに設置してあるTVのニュースを見た。

ドルルクの話だ。

今回は前回のような攻撃はなく、交通被害のみで済んだが、それよりもドーム内で闘っていた1人の男にフォーカスが当たっていたようだ。

パンツ一丁の男が中でザリガニの怪物と殴り合ってた!

パンイチの男は俳優の〇〇に似ている、30代くらいの男だった。

ドーム内を写真撮ろうとしたが、何度やってもモヤがかかってダメだった。

パンイチの男と化け物は、最終的に相打ちになってしばらくしたらドームと化け物が消えて、直ぐに救急車で男は運ばれていった。

名付けるなら、パンツでパンチだから、

パンチュマン!

「パンチュマンって…」

該当インタビューのネーミングセンスの無さに呆れる。

頼んだチーズハンバーグに手をつけ、その後飯を書き込む。朝からは重いメニューだったろうか?

いや、隣のイトウとかいう男は、朝飯食ってきたとか言ってたのに天ぷらうどん食ってるから大丈夫だ。オマケに、ししとうまでトッピングしていたし。

「そういえば、俺が最初にドルルクと戦った時もニュースってこんな感じだったの?」

「最初の時は、報道規制かけてました。今もそうですけど、未曾有の事過ぎて国も公表すべきではないと。通行人達にも決して口外しないように、と。でも2回目の光線攻撃で隠しきれなくなって、今回も…」

あ、とイトウは言う。

「今回のドームがなくなってからは、すぐに僕が佐々木さんの顔隠したので、身バレは大丈夫です」

「そりゃどうも…」

パンチュマン、が心に残る。

定着しないといいなぁ。

まるで幼児向けのヒーローみたいな名前だ。

こちとら、拳で闘ってるのに…。

あ、でもパンイチだからか…。全裸よりマシか?

少し、派手なパンツを選ぶべきだろうか?

…そういう問題ではないか。

俺だったらなんて呼ばれたいか、とどうでもいいことを考えていると、

「彼女とメシに行くべきですよ」

イトウは、ご馳走様でしたと手を合わせたが、

皿には食べかけのししとうが残っていた。

「…あ、もったいね」

貧乏性が板についてる明太郎は、咄嗟にイトウの残したししとうを箸で掴み、食った。

思った以上に苦かった。

当たり前だが、まるで甘くない。

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