第10話 地星間問題
ドルルクが気づくと、既に上司に定期連絡をする時間から30分過ぎていた。
周囲を見渡す。
寝具の水槽と、ドルメガルク産のパハーヌナの甲羅…ざっくりと言えば、50センチくらいの亀の甲羅だと思ってくれればいい。それも黄色と紫の。が、何個か床に散らかっている部屋だった。
ここは、ドルルクの社宅だ。
ドルルクの種族に時計の概念はないが、約束の時をすっぽかしたときの危機感は人類に共通している。急いで空を両手で切ると、空中に業務用のホログラムが現れた。夥しい量の通知が来ている。このホログラム内で連絡してくるのは、ドルルクの上司のリラロラ(人類でいうところの係長という意味)しかいない。
恐る恐る最新の通知をタップすると、怒り120%のお叱りメールが長文かつ乱文で現れた。
内容を読まなくてもわかる。
ドルルクはゲッソリしながら、左手で円を描くと、クライアントから支給されているリース品の半透明の球体が宙に浮いた状態で現れた。
実際に手に取り、傷がないか入念にチェックする。
この球体は、地球の地上にて展開していたドームバリアの発生装置だ。このドームバリアを展開すれば、外からバリア内の様子を見られることなく、バリア内の操作にて外への光線を出し攻撃できるという兵器だ。
ただ、末端の末端のそのまた末端の平社員のドルルクですら一目でわかるほど古い型で、ドームを展開すればドルルクはドームから出られないし、ドームそのものは展開場所から移動できない。つまり、ただの砲台だ。
ドルルクの種族は、生身で別生物と戦えるほど屈強ではない。武器を使う文化はあるが、武器を作る習慣というか文化というか概念というか、思想がない。自らで作るより、取引して誰かから武器を借りよう精神だ。
だからこそ、このドームバリアをリラロラは選び、レンタルし、社員のドルルクに貸出した。
地球への派遣を命じられたときに、このドームバリアは移動こそできないが、人類の攻撃は全て効かないし、誰もこのバリアに入ってこれないと言われたので、少し安心した1ヶ月前の自分をドルルクは呪った。
とりあえず、傷がないかチェックして、早くリラロラに報告せねば。
これに傷があれば、来年の年俸から賠償させられるのだ。
幸いにも、傷はなかったのでリラロラへ報告のメールを送った。
「本日はポイントAにて攻撃のリベンジ。人口の多いポイントの為、今回は何とか攻撃を成功させたかったが、先日の人間が再び現れドーム内に侵入。ドーム内にて交戦となり、光線発射出来ず。ドームバリアの展開時間の限界が来た為、社宅に帰宅。報告忘却していたこと深く謝罪」
メールを送って数分後、リラロラから映像通話が来たため、応答する。
「なぜポイントAにいるその人間にバリアが突破出来たかは知らないが、クライアントに人間がバリア突破してきて仕事出来ませんとは言えん。とっとと提示されているプラン通りにポイントAを攻撃しろ。人間1人倒せんのか?」
ドルルクは3時間くらい叱られた。
ドルルクとしてもさっさとポイントAを攻撃し、他のポイントに攻撃しないといけないのはわかっているし、光線1発で簡単に倒せる人間ごとき、自力で何とかしたいが、あの人間、何回殴っても倒れないのだ。ドルルクだって殴り返してるし、一回目は勝つ寸前にバリアの展開時間の限界がきた。2回目に戦ったときは相打ちのまま気を失い、時間が来たようだが…。
ドルルクは文句を言いながら、甲羅を食した。
人間は言葉が通じない。何度か何で入ってきてるんだ!とか怒鳴ったが、まるで通じてなかった。
話さえ通じれば、バリアから出てもらい、こちらは仕事を済ませばもう戦わなくて済むのに。
ドルルクは、球体のエネルギーチャージをホログラム内で開始した。
次こそはポイントAで仕事を果たさなくては、クビになってしまう。
ドルルクの個人用のホログラムが勝手に映像通話が起動し、ドルルクと瓜二つの顔が現れた。母さんだ。
「今日は、お前からの連絡が遅くて心配してたよ」
堪らず、ドルルクは涙を流した。
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