第8話 私道

コーリン次長に対し、ドルルクと戦うにあたって明太郎が出した条件は以下の通りだ。

①次のドルルクの出現場所は最初に出現した場所とヤマを張り、待機する事。

②待機中は一番近いジムにてトレーニングをしつつすぐに動ける状態にさせてもらうこと。

③ドルルクの件に携わるときは、給料を出してもらうこと。

④常にオッさんのうち誰かが明太郎に付かないといけないのであれば、イトウさんについてほしい。

コーリン次長は、明太郎が提案してから少し協議こそしたようだが、その日中にはいずれも認可してくれた。

それから、5日ほど明太郎とドルルクが戦った市道のすぐ近くのジムでトレーニングを続けた。

何故か、イトウも明太郎と一緒にトレーニングをしていたが、特につっこまなかった。

「麹林次長が、ドルルクが別の場所に現れたときどうするか、って頭抱えてましたよ」

ダンベルを持ち上げながらイトウは言った。

ランニングマシーンで走りながら明太郎は苦笑いした。

「俺、1人しかいないしなぁ。その時は全力でそこ向かうけど、ここに来るって信じるしかないって」

「なんというか、佐々木さんって適応力というか、生命力高いですよね」

「イトウちゃん、生命力強くなさそうだもんね」

「自覚してます。だから、こうやって一緒に筋トレしてるんです」

「そうだったんだ」

ムッ、としたイトウはダンベルの重さを一段階重くした。なんだかんだで最近ずっとイトウと一緒にいるが、意外にも負けず嫌いのようだ。

「そういえば佐々木さん、退院したのに彼女とは会わないんですか?」

「あぁ、あの人ね、彼女じゃないんだよ。ドルルクの事もあるし、仕事も休ませてもらってるから、強盗2人の容疑者が見つかったから警察にしばらく協力してる、って言ってる」

「そう、ですか」

少しイトウの顔が曇った。

明太郎は察した。美友に対して嘘をついてるから表情が曇ってるわけではないのがわかっていた。

しかし、その理由をイトウから明太郎へ言うわけにはいかないんだろう。

もしかしたら、こんな筋トレもただの気休めでしかないのかもしれない。

それをわかっていながら、明太郎は筋トレをしている。もちろん、為すべき事を為すべく為に鍛えているのだが、イトウはそうではないのだろう。

イトウは、きっと、自分自身の為に筋トレをやっているのではない。

明太郎にとって、イトウは、友と呼ぶべき存在なのかもしれない。

明太郎も、ランニングマシーンのスピードを上げた。

直後、外から爆音が響き、地響きが起きた。

市道で何かが起きたようだ。

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