第7話 始動

ほどなく美友は落ち着き、面会時間の終わりが見え始めたので美友は帰宅準備をした。

明太郎がみかんの皮は千切らずに一枚皮のまま綺麗に剥く派に対し、ボロボロと雑にみかんの皮を剥ぐ派の美友に若干のカルチャーショックを明太郎が受けていると、

「じゃあ、帰ります。あ、そうだ。退院したら、お祝いにご飯行きましょうよ」

「はい…え?」

「ごめんなさい、嫌でしたか??」

「え、あ、いや!全然!…嬉しいです。」

「良かった。退院する頃に、連絡しますね」

美友は微笑んだ。そういえば、今日初めて笑顔を見た気がする。

もしかしたら、美友の笑顔を見るのが初めてだったかもしれない。普段は会社の中ではビジネススマイルのようなもののような、そんな感じだったと、美友の笑顔を見て明太郎は思った。

「じゃあ、お大事に」

明太郎は、笑顔で見送った。

しばらく余韻に浸り、真顔になった。

即座にベットの上に立ち、すぐさまシャドーボクシングを始めた。

間髪入れずに扉が開き、イトウが病室に入ってきた。

「何やってるんですか!佐々木さん!安静にしとかないと!」

「こんなケガ、もう治ってますよ。イトウさん!

さっきのドルルク、見ましたか?」

「映像見ました。佐々木さんの言ってたドルルクより、よほど危険で…」

「アイツ、きっと前回は俺が邪魔してたから周りに攻撃出来なかったんです。でも今回は違った。ドルルクを止められるの、たぶん俺だけです」

オッさん達も薄々そうじゃないかとヤマ張ってて、自分をマークしてたんでしょ?とは、この気弱なイトウに言うのは酷だろうと思った。

人々の悲鳴、警察官の死、美友の涙、そして自分の拳。

明太郎にはこれだけあれば、動くには充分だった。

パンイチでドーム内に侵入出来たという事は、逆に言えば武器は持って入れない。ならば、やはり、頼れるのは己の身体のみだろう。

なら、寝てるわけにはいかない。

明太郎は、先ほど見た現場の惨劇を見て、救助しに行こうとは全く思わなかった。

あの街には、命を張って人々を守ろうとした警察官がいた。

あんな警察官がいるのなら、あの姿を見たのなら、

あの街の住民、いや、この国の人達は、あの街の復興に力を貸さないわけはない。

明太郎は、人を信じていた。

見たこともない、話したこともない人達を、

明太郎は信じてるのだ。

だから、明太郎は、自分に出来ることに専念出来るのだ。

「イトウさんの上司のあのキメ顔するお偉いさん誰でしたっけ?」

「あっ、麹林次長のことでしょうか」

「そう、その…コーリン次長に言っといてくれませんか。俺、ドルルクと戦うんで準備手伝ってくれって」

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