第3話 私闘
怪物は、相変わらず「ドルルルルルルルルルク!」としか言ってこない。
この化け物はこれしか発せないようだが、それでもその鳴き声には怒りの念が篭っているようだ。
怪物…ドルルクとでも呼ぼうか。
ドルルクの拳は止まらず明太郎を襲い続けている。
明太郎も、オラァ!と言ったり、あのクズ係長が!!とかの怒声を浴びせつつ、日頃の鬱憤を拳に乗せてドルルクに応対している。
どれくらい殴り合っているだろうか?
殴り、殴られ合いながら気づいたことは、この壁は半球のドームのように展開されていること、そしてこのドーム外にいる通行人達は、ドーム内の出来事を目視出来ているようだが、このドームは音を通さないようだ。ドーム外で通行人がこちらを指差し大声を出しているようだが、まるで聞こえない。
聞こえる音は一つだけ。
「ドルルルルルルルルルク!」
「うっせえ!何言ってるかわかんねぇ!」
気づけば左目が額から出た血によって開けずらい。口の中にも血の味がする。おそらく、鼻血か口の中を切ってしまっているんだろう。
対するドルルクは血は出ていない。
が、確かにダメージはあるようで、たまに明太郎の攻撃の後によろめいたり悲鳴を上げたりしている。どちらにせよ、ドルルクとしか鳴かないが。
両者、このまま殴り合っては保たないと思ったのか、次第に攻撃スピードが上がっていく。ラストスパートをかけたいのだ。
一つ一つの攻撃は雑だが、数を当てる攻撃をお互いに繰り出す。本当は雑な乱撃より、渾身の一撃を喰らわせ、KOを取るべきなのだろう。
しかし、明太郎は喧嘩はずぶの素人だ!
瞬間、何となくだが、当たれば手応えありそうなパンチをたまたま明太郎が放った。しかし、ドルルクは流れるような動きでその拳をいなした。
直後、ドルルクの拳がアッパーとして明太郎に向かっていく。
やられる。
死ぬことへの嫌な直感も、これを食らったらまずい、と思うこともなく、ただ。
これを食らうのなら仕方ない。
素直に拳を喰らうことを受け入れようとする明太郎がそこにいた。
ドルルクの拳が明太郎の顎を砕くその一瞬前に、
瞬く光とバリバリという音が鼓膜を刺激し、
明太郎は再び目の前が真っ白になった。
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