第79話 戻るか、戻らないか

 賢者の石、エリクサー。ネクタル。

 色々な力をもたらすモノというのは存在している。そこにあげられる、エリクサーはこの王樹で作られるという。

 もちろん、希少性が高いのもあるし、


「手間が酷いんだアレ。二人のハービィの飛ぶ力というか、魔力をエルフの薬で底上げして、てっぺんまで行く。王樹の元気な葉を採取させるのも相当労力がかかるが、新鮮なものを1時間程度で魔法で生成させる。こんな風に」


 ハービィたちがとってきた、エルフの女性たちが魔力のフラスコで混ぜ混ぜしながら、ガラスのような結界を張る。相当苦しそうだ。

 あとは重いせいか、茉莉野さんも補助で支えている。オオイ、強すぎるだろ。


「時間が命だ。しかも、それを連れてくるだけでも相当面倒だった。感謝しろよ。一人が死にかけた結果のお詫びで作るのは割に合わないんだ」

「恩着せがましいなあ。ケチケチするから、そこのお嬢が嫌がらせしに来たんだからさ――ま、欲しかったようだけどね」


 僕から見えるぐしゃぐしゃの彼女は何も答えず、俯いている。


「ケリはついたのか。大分派手にやってたが、体は大丈夫か?」

「僕が死にかけた。死ぬかと思ったよローズさん。遅すぎますね」

 危うく妖怪の火で焼き殺されるところだったわ。


「あーうん。そうなんだ。あのハービィたちを恨んでくれ、と言いたいところだが、恨むとか恨まないとかでなくて、時間が無くて無理だから。あの場所に罰として、先行させていたロリババアがいたとしても、1トンは集めなきゃいけないんだ。時間はかかるわ」


「だったらみんなで」

「エルフにとっては聖地中の聖地。てっぺんでも特殊な場所で秘匿された場所だからな。人数は限らせたい。ハービィたちはそれなりに懇意にしているから特別だ――実際、そこの女にバレそうになっていたから、無理だな」


 ローズさんの視線に、お嬢はキッとにらみを返す。


『教えてくれたっていいじゃない。それで終わりなの。共有しないなんてずるいじゃない! 私は少しもらえたって』


「そう言って、暴走したのがあんただ。しかも、欲深い連中はどこにでもいる。お前らみたいな関係性もない奴らに教えることなんてできない。まあ、シマを荒らしたのは悪かったから、エリクサーを渡す。それだけだ」


 お嬢はぐうの音も出ないようで、黙り込んでいる。

 代わりにマオウが言葉を返した。


「少しだけこの子に分けてくれない? どうもいろいろな呪いに悩まされているようで。エリクサーなら緩和くらいできるはず。ほら、あんなに多い――すごいちっちゃいけど。あ、ムリかも?」

 

「出来上がったが、これくらいしかできない。それでも?」

 栄養ドリンクサイズになった緑色の薬。これがエリクサー。


「やっぱり、やめようかな?」

 マオウ、弱気になるな。一応格好をつけたから。


「うーん、これは口移しで共有をして、だな。それなりに効果が。あと、女の子同士でエロい! たまらなくエロい! 眼福だ」

 茉莉野さん、本音駄々洩れ駄々洩れ。やばいから。発言が酷いから。


「まあ、どうするかはマオウ、お前に任せるよ。ウサマタは嫌なんだろ」

「雅弥に任せるよ。それよりも雅弥の呪いが解けるかもしれないと思うけど」


「やめておくよ。僕はこの呪いと呪紋がないと生きていけない。アラサーの一般人と行きたいようだけど、それなりにやりたいことができたから。お嬢に飲ませよう」

 僕はそう言って、薬を作る為のスポイルを取り出し、そいつをお嬢の口に寄せた。


「エロい」

 茉莉野さん。お兄さんに言っておきますよ!


 ごくりと唾をのみ、お嬢はぺろぺろと舐め始める。チロチロと蛇のように舐めて、目が少し恍惚としている。


「ああ、ドSに目覚めそう」

 茉莉野さんが毎回うるさくて、辛い。


「いや、私も目覚めそうだにゃん」

「アタシもだ」

「私もチラっとみたく」


 なんで、そこまでして、残念になりたがるんだコイツら。


 お嬢が嚥下したエリクサーの効果。


 それは。


『あ、あ、ああ。声が私の聞こえる声はどうですか』


 それは鈴を転がすような声だった。だが、その代わり、彼女の姿がどんどん薄れていく。


『センパイに近づけない呪いが発動したようですね。今度は一体、どこに行くのでしょうか。まあ、私の知っているところでしょう』

「何でそんなに平然としていられるんだ。どうして?」


『さて、どうしてでしょう? 呪いを解いたらわかるかもしれませんよセンパイ』

 僕の顔にモザイクのかかった彼女の何かが近づいて、頬に何かをして、


「いにゃあああああああああああああああああああああああああああ! キスウウウウウウウウウウウ!」

 マオウの血の涙を出さんとばかりの叫び声が聞こえて、お嬢の姿は消え去った。


「約得かね。僕の」

「知らんわチョップ!」

 痛い。あと、ひっかくな。痛い痛い。痛い痛いーっ。


「コホン。それよりも飲まないんですか。エリクサー。これでウサマタの呪いが解けるんですから――治らないかもしれませんが」


「それは勘弁。アリエス、不吉なことを言わないで」

「ま、自業自得ですよ。あんな人にエリクサーをちょっとでも飲ませたんですからね」

 アリエスは不満らしい。仕方ないけど、僕も言ったら、許してくれ。


「飲んでみて、効果を試すよ。女は度胸グイッとね!」


 マオウがエリクサーを飲む。

「うえっ、まずいっ。あ、耳が? しっぽが光る! ようし、これで戻る!」

 

 マオウの耳やしっぽが光に包まれた。


 結果は――



 






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