第80話 憐れ

「アッハイ。もどった、わけないとかああああああ???」

 

「えっと、ぷぷっ。耳が猫になったけど、しっぽは相変わらずポンポンみたい。あとはプホッ、耳が意味不明にキラキラしていて、何というか、平成では無くて昭和のおばちゃんみたいな」

 酷いくらいに笑っているアリエスさん。うん、確実にこれはやられるな。


「アリエス。痛い目に合わせるから」

「もう合わせていますから。いたいイタイイタイーッ! 頭を片手で逃げるな。頭がもげる。もげますから。ご勘弁くださいッ!」

「お前は飛べばいい。そうすれば楽になる。ほら、今度はああ、首を絞めて、お空に意識を飛ばしてあげようか――とてもいいアイデアだ。どうかな、ルアンヌ。これで、せいせいするだろう? こんなところで重労働をさせて娘への復讐として」

 瞳を黄金色に光らせ、口角を上げた猫夜叉がそこにいる。明らかに怖い。


「ひいいいいいいいいええええええ。許してください。何でもしますから。娘を、娘を食べないで。許してください」

 性格は何か強気なのに、根は同じくらいヘタレ親が土下座をしている。ああ、本当に無残なり。


「あたしはその姿でも可愛いのでかまいませんが、どうでしょう。むしろ、ご飯3倍は行けるんですが。ああ、それよりも抱き着いて、しまいたいとおもうのですがいかがでしょうか」


 茉莉野さんは通常運行だった。どうすんだこれ。


「お気持ちだけにしておきます」

「いえ、お気持ちではなく、本気で言っているのですが」


 質が悪いということに気付かないこのオーガーの方、どうしようもないですね。


「まあ、あの男の娘の君さえいれば問題は無いのですが。どこにいかれたのでしょうか。一応、世界を大分走り回ったのですが、探すことが出来ず。本当に残念です」


 茉莉野さんはずっと残念であればよいと思います。色々な人が幸せになりそうな気がします。


「ええっと、収拾がつかなくなったけど。これで一件落着ってことでいいのかな。20万円とか、もらえちゃうと嬉しいなあと僕は思うわけですが、アリエスさん?」


 アリエスさんの目がなぜか、僕を見ない。ずっと見ない。なぜか見ない。どうしても見ない。これほどに見ない。どうして、見ないのか。いけないよ、僕の期待はお金だけなんだ。これだけ苦労したのに、どうしてかな。


「エルフ、連れてきましたよね。いっぱい」

「うん。それが何?」

 僕はじっとアリエスさんの背中を見つめる。目を合わせないから、顔を合わせないから、そうするしかない。


「エルフを呼ぶための手間賃ってわかります?」

「いや、それはエリクサーを詫びでローズさんが呼んだわけで、僕には知ったことが無くて」

 ざわ……ざわざわ……なんだ、この嫌な予感は。

 保守が終わろうとしているのに、ソフトがインストールできない謎にぶつかり、2時間くらい待たされそうな嫌な予感は。


 なんだ、これ。



「でも、最後にエルフにエリクサーを作る為に特急で人を集めるって言ったじゃないですか」

「誰が? 誰だっけ、ローズさんかな? 多分」

 思い出したら、そのはずなんだ。はずなんだよ。絶対。


「いや、飛田雅弥。あんた、だったよ。その手間賃とけがを治す薬とか、結構荒れちゃったこの辺の土地の修繕費とか、もろもろで」

 ローズさん、駄目だ。言っちゃだめだ。駄目なんだ。僕は、


「全部ty」

「いやだああああああああああああああああああああああああああああああ! 知らない僕は知らない僕は僕はッ! お金が欲しいいいいいいいいいいいいい!」


 僕は最大限駄々をこねた。子供のように、幼稚園児のようにただをこねた。抵抗をした。必死に交渉をしたんだ。

 なのに。


「残念だけど、無理」

 ローズさんは残酷だった。

 憐憫を含めた複雑な表情をしていて、僕の心をえぐってきて、非常に。


「ついてねええええええええええええええええええええええええ!」

 と僕は憐れな涙を流しつつ、叫ぶしかなかった。

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