第78話 エリクサー
彼女の涙を僕は初めて見た。まあ、猫だから、いたずらをして母さんに怒られている姿はあっただろう。
でも、猫又として、僕に感情がわかる姿で泣いている姿を見せるのは初めてだった。
『なぜ、そんなことをするの? 私が嫌いでしょ。なのに、どうして?』
「言いたくない。絶対に。私のプライドやアイデンティティが絶対に許さないから」
涙を拭いながら、マオウは答えた。勝っているのは魔王の筈なのに、彼女の方が負けているように見えるのは何故だろうか。
「そこまでにしておいたほうがいい。多分、もっと墓穴を掘る。少し見ただけだが、あなたは素直すぎる」
茉莉野さんが優しくマオウに話しかけ、ティッシュを渡す。
「まあ、わかっているけどね。だから、お嬢に言いたくなったわけだけど……我ながら情けないな」
マオウは自嘲するようにつぶやく。僕にはさっぱりわからない。けれども、それはとても自然なことなんだろう。
『私にはこれしかない。これしかないのです。だって――は――ないから』
「ガビガビ声になって大変だとは思うけど。治せばいいんじゃない? エリクサーで少しは治るんじゃ」
『いや、でも、それでは私のやってきたことにけじめが』
「僕が頼むさ。そ、そうだなあ、20万円おじゃ、おおおお、おじゃんににににいしてももも」
あ、涙出ちゃう。お金なんだもん。危険手当なんだもん。
「私の猫耳復活の為に、使うからダメだよ」
「そこを何とか。うさまたはかわいいし」
「か。かかかかかぁうぁうぃいいい? そんなこと言われても駄目だよ。駄目なんだから、うん。うん。駄目だねえ」
目が垂れてる。ほおが緩みまくり。しっぽフルフル。耳がへにょにょしてる。
「わ、わかりやすい。これほどわかりやすい反応は……あああ、あたしと踊らないでくれえ!」
「ふんふんふんふんぁ! ふんふんふんふんぁ~」
変な鼻歌しながら、社交ダンスっぽい謎ダンスでひっかきまわすのはやめよう、マオウ。茉莉野さんが困っている。
『でも、私は、こんなことをして許されるわけがない。だから罰を受けるべきで』
「あとでいい。ケジメは後で付ける、だって、あんたは雅弥のことを――」
と、そこで空に浮かぶ巨大な緑の網と二人の羽をつけた女の子が二人――ああ、二人とも19歳と成人女性――
「いってええええええええええええええええ! なんでこんな目にボクはそんな目にあってはいけないと思う。おい、娘! アリエス!」
「いってえええええええええええええええええ! こっちもいてえ。何でこんな目に合わなきゃいけないの私が! この毒親が暴走したのをフォローするなんて最悪!」
どちらとも、ほぼ成人というか、それなりの歳なのに、小学生みたいな会話しないでほしいな。
「エリクサーやってきたね。雅弥」
「ああ、うん。すっごいでかいけど。何人分何だろう?」
「1人分だな。あれで。王樹の1年分の天辺の超高級な葉っぱだが」
ローズさんが後ろからやってきて、伝えてくれた。
あへえ、あれで1人分とか、労力がかなりきつい。
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