第70話 突破③

「兎耳。ああ、ジャンプで飛んできた。やっぱり、うさまただから、ああ――ジャンプ力があったと、す……」

「はい、やめよう。私は猫又ですぅ。ボケなんて、聞いていませんよ。今やることをよく考えて空気を読んで、きちんとやりましょうね」


 真面目に答えたつもりだったが、駄目らしい。


「ハヒィ、ふぅ。ハアハア。魔力で飛ばしてやったけど、まさかのスタイリッシュな登場。何かの主人公かよぉ。うさまた」

 ヘロヘロなローズさんと残ったトレントたちを倒しながら、エルフたちが後から、駆けつけている。


「うさぎちゃうわー。猫! 天丼は二回まで。三回目は死あるのみ」

 エセ関西弁やめろ。あと、セリフが剣呑すぎる。


「はいはいはい。どうでもいいや。で、お嬢、――の気配とかわかるのか」

「ああ、そうだ。あの――はどこにいるのかでしょ。一応、鈴はつけているのよ。あ、私が猫とかけているわけじゃないから」

 兎耳なのにね。認めないと。


 マオウは鼻をすんすんさせる。

 その周りにエルフの方々が護衛として集まる。


「まあ、一応狙われるかもしれないから、ね」

 ローズさんがふと言葉を漏らす。


「気配を察知させるだけなのに、においを探す。何だろうねえ。エッチですねじゅるり。エルフは女の人ばかりと聞いたけど、これほんと百合の気配じゅるり」

 茉莉野さんが舌なめずりをしながら、喋っている。オーガか、これが。うーん、これが女好きの由縁。


「何という趣味。変態なだけでしょうね。ドン引きです」

 いつの間にか、僕の後ろにアリエスさんが隠れるように回っていた。言葉が相当ひどいけど、まあ、うん。

「アリエスさんだめですよ。ほんとのこと言っちゃいけませんよ」


「じーっ。あああああっふぅ、ふつくしい。でも、あの男の娘の方が一番、いやでも、これもまた」

「どうにかならないのか。この空気。あと、アタシ達を卑猥な目で見ているすごい美人さんがいるんだがどうなんだこれ」

 ローズさんが自分を凝視する茉莉野さんにドン引きしている。


「委縮するよりまし。それよりもこの状況を打破するためにもアイツを探さなきゃ」


「そ、そうだな。うんうん。うん? 本当にいいのか? うまく丸め込まれていないか? アタシ」

「いいと思います。多分、恐らく?」

 僕はマオウの言葉に賛同するが、何とも言えないところもあるので、ローズさんの問いに具体的なフォローができず、言葉が出ない。


「シーッ……黙ってよ。私が集中できない、こっち?」


 その先は煙の濃い場所のように見える。


「煙はありますが、何の変哲もない沼のような……」

「アリエス、ここは木の上だ。一時的な水たまりはできても沼のようなものはできない。不自然だ」


 そう、ここは王樹と呼ばれる場所であり、水たまりはできても一時的なものでしかない。水は木に吸われる。だから、おかしい。


「あとは煙が若干濃いような気がするから。先に進みましょう。あいつが何も話しかけてこないのも気になるから」


 さきほどは僕に話しかけていたはずなのに、いきなり消えるなんて何かがあるような気がしてたまらない。

 逃げることも選択肢だが、逃げるには時間が足りない。進むしかないのだ。


 何が出るか。正直わからないけれども。

 この事態を突破するために必要なことだ。



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