第69話 突破②

「あびゃあああああああああ、早い早いひぃえええええ。涙が目にはいってぇ! あああっ、痛いっ痛いっいたいいいいっ」

 相変わらず騒がしいアリエスさんの声とともに僕は穴の外に飛び出した。


 一時的な風による吹き飛ばしで、空が晴れて、死屍累々と化しているトレントの集団を見つける。

 だが、まだ健在のトレントたちがいる。


「これまた、大量。王樹にたまる木人。何というか、シュールな。こんな飲みたくはないのですが。メスばかりならば、と思いましたが、汚いですね」

 余裕ありますね。茉莉野さん。

 息を切らさず、荷物アリエスを背負っているのに息を切らしていない。


「まあ、オーガですから。あとは昔はよく丸太を持って、ゴブリンをぼこぼこにしておりましたので。野生児とか言われてました。なのに、どうして、あいつらはオーガである私を狙うのでしょうか。ハーフとはいえ、オーガを狙うだなんて。他の汗臭い男たちは狙うことをしないのに。女もハーフではないオーガを狙うことも無いし。よくわからないですね。野生児とか言われていた私ですが」


 情報が色々と錯綜しているけど、見た目はいい。オーガには見えないから狙われないのかと。野生児なのに美人これいかに。


「とにかく早く逃げましょう。ゴーレムの制御は割と魔力を使いますんで。早く逃げないと僕の体がもたない」


 トレントが迫っている。僕の体もどうも魔力の減り具合を実感しているのか、疲労感があって、体のだるさが抜けない。時間は限られている。


『あら、仕方ないですね。もう少しお付き合い願いたいのですが』

 また、あの声。聞いたことがあるけど、思い出せない声。

 何故かぶるっと体が震える。


「お前は一体、誰だ」

 僕は体の拒否反応を無理矢理抑え込み、声に問う。


『試練を与えるものです。勇者には試練が必要です。だからここにいるんです。会えないのはとても寂しいですし、今の状態には不満があります。まったく忌々しい。ケイのせいで、こんなのことになるなんて」

「ケイを知ってくっ、頭が痛い』

 頭がしくしく痛む。西遊記の孫悟空のわっか、緊箍児きんこじを思わせるあれだろうか。


『ああ、思い出したら体が苦しみますよ。私もセンパイに近づいたら、痛いですからね。ゾクゾクしますが、ある一定の距離で激痛から、体が弾けるそうです。非常に怖い怖い』

 と言いつつも、声には恐怖の声音は無く、淡々と告げる言葉のニュアンスの中にある快楽しかない声音、こちらの方が怖さを覚える。


『さて、どうされますか。逃げますか? 煙、ああ、モンスターの怨霊をかき集めた百鬼夜行です。さきほどは外殻で煙のようにはねのけましたが、次はいけませんよ』


 思い出すねえ。アンデッドに囲まれたことがあったな。仲間は皆、ピンチになって。そういや、思い出せない状況が続いているんだっけ。

 でも、こういう時に出てきた誰か――ああ、頭がまた痛い。

 

「さて、どうするかよ」

 返す言葉は何もない。アンデッド属性がわかる。何かあった気がするが、どうもその辺はあいまいで思い出せない。


「考えている暇は無いですから逃げましょうよ!」

「そうはいかないだろう。アリエスさん。明らかにトレントの動きがおかしい。私が力押しでやろうと思ったが、どうも頭を使わなくてはいけないようだ」


 茉莉野さんが視線をずらした先には、トレントが大量にいる。ゾンビのごとく、僕たちを囲うに歩みを進めている。

 心なしか、幹も黒い感じがして、不気味だ。


「これまたややっこしいねえ。あんたがやったのか」


『もちろん。大切にしてくださいな。お召し上がりくださいな』

 少々うれしそうな声音が腹ただしい。

 多勢に無勢。でも、まだなんとかやれば。


『でん! とばかりに怨霊の復活ですかね。今度は生きのいいものをもってきましたよセンパイ』


 あ、すごい重い煙ですね。目が光っている感じがしますね。

 煙が何か手の形をとって、B級ホラーみたいに迫ってくるのはやめてくれませんかね。


「まずいですまずいです。抵抗できますかコレ」

 アリエスさんも考えて。後、空飛んで逃げるとかできないのかな。


「空もいっぱい怨霊の煙でいっぱいです」

 メンドクサ。逃げようにも逃げられず。

 ゴーレムはトレントを割とせき止めてくれているけど、どうもね、力が出ないね。魔力ガス欠かな。

 

「さぁて、どうしたもんだか」

 僕も考えることが出来ないね。


「あれ、空から何かが飛んできてませんか?」

 へ? どういうこと、アリエスさ――


「どおおおおおおおおおおおおおっせいっ!」


 と思っている間に何かが落ちてきた。


「私の出番かにゃああああああ、痛いよう」

 トレントを落ちてきた衝撃で何体も叩き潰しながら、落ちてきたそれは。


「ウサギが言うセリフじゃないよ。マオウ」


「ウサギじゃなくて、猫だから!」

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