第62話 移動

 ポータルと言われている場所がある。

 そこはポータルだとか、ゲートだとかいう人もいる。

 

 あるのは神殿の柱のような場所であり、そこには数名しか入れない。魔力をぶち込めば、別世界に飛べるというトンデモ装置。

 誰が作ったのかはよくわからないけれども、どこかの異世界帰還者が作ったのだというのが大体の帰還者ネットワークの考えだったりする。


「ここのポータルはエルフ特製です帰還者でないです……おかげで変な女がやってきて、色々と圧力をかけに来て、ローズ室長が切れたのですが」

 アリエスさんが複雑そうな顔をしている。


「そこは何とかしてあげるよ。でも、ダン……ま、それは後でゆっくりと詰めたほうがいいかぁ」

「こちらもお母様を差し出しているんです。それで手打ちにさせてください」


 まあ、アリエスさんに引きずられながら、泣き叫んでおびえまくっている姿がアレすぎて、気の毒なんだけど。自業自得なんだよね。指を詰められるくらいに。


「私のところの組織を何だと思っているの?」

「ヤクザ? 半グレではなく、任侠ヤクザ。チンピラヤクザもいて、オーガの里がソレ」

 ホモ上司もいて怖い。あっ、寒気がする。


「酷い言いよう。どっちにもチクる?」


 やめないか! と言ってビンタができたらいいのに。僕ができることは――

「お願いしますやめてください死んでしまいます」

 土下座。

 確実にボコられる。

 最後にコンクリ詰めにされて、どこかの海に沈められそうな感じもする。


「よろしい。で、許可を出したローズさんは……」

「先行しています。行けば迎えてくれるでしょう。で、どうして後ろになんかすごい顔をした人がいるんですが」

「チンピラヤクザのお嬢さんがいるけど」

 やめて。ほんとうにやめて!


「ふんふん。エルフ。エルフって綺麗な百合とかあるよねえ♪ あたしも交じりたいけど、それは見つめるだけが命なのぉ。それが最高なのぉ」

 鼻の下を伸ばし、目が少し赤く充血していますよ。赤髪も何でそんなにつやつやしているんですかね。頬がてかてかしすぎ。


「いや聞かれたので。オーガの族長に。どうして、知っているのか教えて欲しいくらい」

「僕の上司ですので。有休の理由を伝えるしか無くて。まあね。うん、うん。いやほんと、申し訳ないです」

 

「行きますよ茉莉野さん」

「はいはぁ~い。戦力としてはそれなりなんで。有休が1日しか申請できないなんて大変ですね」


 20万は2日でって、ことなので。それ以上のただ働きは嫌だというのと、仕事がね、それなりに詰まっているから無理だという悲しさです。自分の身分が泣けてきます。

 サラリーマンですから僕。悲しいけど、これが現実なのよ。


「え、ええっと、ポータルに向かいましょう。室長が待っています」




 

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