第61話 ウサマタ

 マオウが目が覚める。意識が覚醒して、起き上がる。

 死の淵に達していたことに気付いたのか、体を震わせている。だが、僕の顔を見ると安心しきった顔をマオウは見せる。

 だが、何か違和感がある。どこだ、どこだと体を触りまくる。胸を触るのはやめよう。ああ、うん変わって無いとほっと息をつく。股間を触るな。これも何も変わっていないほっとする。何でそこなんだよって、非常に突っ込みたいが、かなりしぐさが早いので突っ込むことが出来ない。

 そして、自分の耳の感触が変なことに顔が青ざめた。

 ああ、しっぽ。しっぽが丸い。丸い。あれ、これ何? という顔がどんどん、真っ白に近くなる。

 目がぐるぐる回る。やばい、これ、頭が相当混乱している。

 いやわかる。とてもわかる。自分の姿が気づいたら変わっている。普通は混乱して当然なんだよなあ。常識的に考えて。


「悪いんですけど。手鏡か何かありませんか――ああそうだ。スマホがあるね」

 と僕は周りの気の毒というか、気まずそうで何もできない状況に仕方なくため息をつきながら、スマホを取り出す。

 マオウに無言で渡す。

 カメラアプリを見せると、頭の上には茶色い兎耳。白耳じゃないのはまあ救いだろうが、まあ、どうでもいいよね。


「ぬわーーっっ!!」


 死ぬ直前のおっさんのような悲鳴を上げ、頭を抱えた。


「大丈夫か。大丈夫なわけないよな。うん」

「わかっているよねえそんなの!」

 声が震えているのもよぅくわかるし。

 いや、色々やりたいんだけど、何というか、状況は何も変わっていないから、誰もかれもが動けない感じになっている。


「こんな時にもめてどうするの! 私、ね・こ・ま・た! 兎じゃない!」

「ハイソウデスネ」

 服の襟掴んで僕に怒られましても、他人の僕にできることは何にもなくて、ですね。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。なんですかコレエエエエエエ!」

 アリエスさん起きました。しかもすごいうるさいです。耳が痛いです。ただでさえ、変なことになっているのに。


「大丈夫なのか。アリエス」

「ローズ室長。多分大丈夫じゃないです。なんかお姉ちゃんってすごいうるさい声がたまに聞こえて、頭がおかしくなっちゃいそうです。あ、また、聞こえる」

「こちらの懸念点はまだ、か。まあ、詫びはお前んとこの母ちゃんにしてもらわないと、な」

 ローズさんの顔が美少女ではしてはいけない顔になっている。うん、中身やばいな。


「はいいいいいいいい。母には謝らせますよおおおおお」

 泣きながら土下座。似合いますね。アリエスさん。

「あとはお前も治さないとな」

 ローズさん、ヤレヤレ主人公っぽくいっていますけど、さっきまでの残念なところは忘れていませんよ。


「それよりも兎耳!」

「それは詫びるよ。兎耳になったウサマタ? エルフの禁所に入らせてやる。そこの飼い主とびたさんと一緒に入るなら許可をやる。ただし、アイツはいれるな。マジで終わるからな」

 何気にマオウがウゥとうめく。

 ローズさん、酷いね。


「私のアイデンティティが壊れるから早く行かせろ!」

 確かにね。


「でも、明日平日ですから無理では?」

「有休取れ!」


 ええー有休は大事な時にしかとりたくないのに。


「今でしょ!」







 

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