第58話 さいていの結果

――ゴクリと辛うじて動く口が勝手につばを飲み込んだ。


 天秤はどちらに傾くか。


「さあて――どうすうっ」

 天秤をロマーヌさんは落とした。代わりに苦しそうな顔と泣きそうな顔をしたアリエスさんの表情が現れる。


「いや、空気読めよ」

 マオウが思わず突っ込んだ。


「嫌ですううううううううううううう。うちのクソ母|ルビを入力…《ルアンヌがどうせ、アホなことをして、大体こういうのはこっちが悪いことになることが大体なんですうううううううう。あの業突く張りがどうせ、どうせ、アタシのシマではノーカンとか言って、変なことをしているんですぅうううう」

 (´;ω;`)ブワッ。と泣き顔を見せまくるアリエスさん。うん、そういや、闇が深いとか言ってたな。ロマーヌさんが。


「ああうん、まあ、無限回廊でアイテムを荒稼ぎじゃああああと言って、ルアンヌが色々とやろうとしていたのは事実。うん、事実なんだよな。でも、しっぽを掴ませなくて困っている――何だろう。すごい辛い」

 ローズさん、大変なんですね。なんかすごい大変そう。アホな部下とその母が真っ黒。頭悪すぎだろ。


「えっぐいなあ。なにやってんの、ハービィさんたち」

「わかってくれるか。飛田さんよぉ――ただな、あちらもあちらでなぜかエルフの禁所の泉で身を清めている女をのぞこうとしたりするんだよ。あれ、きもいんだよ。聖地であり暴力禁止だから何もできないんだけどさ、やばくね? あと、ナンパとか、しつこいしさ。白エルフがうっせえんだ。キャーキャーキーキー。お猿じゃないんだから、あたしを経由で文句言うんじゃねえよ」


「エッ、アッ、ハイうん。どうすんだこれ。ローズさんが壊れちゃった」


 僕の顔に当てて、鼻水ずるずるして、拭くのはやめましょう。顔は美少女なのに、ひどい愚痴まみれ。ブラック企業の管理職みたいで歳が相当上に。

 酒を飲んでべろんべろんに酔ったおっさんみたいに。


「どうして、こんなにアタシは不幸なんだ。これ、最悪じゃん。うええええっ、どうしてぇええ」

「まあ、仕事ですから仕方ないですよウン。愚痴は色々聞きますから」


「それ以上はいけないッ」

 アリエスさんの鋭い声が聞こえた。


「あ、ええっと、僕何かしちゃいました?」

 何もしていていないつもりだけど。まあ、ローズさんを慰めはしましたが。


「天秤がすごい揺れてる」

 マオウさん、どうされましたか。天秤はロマーヌさんの力の権限であって。消えているんじゃ。


「天秤の結果がローズ室長の負のパワーで混乱しているアアアアッ頭痛い」

 アリエスさん、頭抑えて、ありりりり?


 フワアアアアアっと、光の柱がアリエスさんに降り注いで。

 その姿は後ろの羽と相まって、天使のようで。

 ふわりと浮いた姿はどこかの宗教画のように見える。神々しいという言葉はこのためにあるのではないかと思えて仕方ない。

 そこから喋ることは――


「――お姉ちゃんを信じなさい」



 え? どういうことですか?

 裁定の結果だけど、最低の結果だよこれ。

 

 

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