第56話 荒事再開

「うちに特になることは? そもそも、先に喧嘩を売ってきたのはそちらさん――土御門同盟だ。それに対して、ちょっとこちらがジャブをかましただけだ。顔を潰そうとしてきたのはあんたらだってことを忘れもらっちゃあ困る」

 ああああん、とばかりに黒エルフさんが低い低い声を出す。見てくれは可愛いのに、声だけはヤンキーだ。


「顔は潰さない。私の所有物まさやに手を出した時点で、本当はあんたの顔を潰したくて仕方ないけど、どうなのかなぁ」

 対抗するマオウの言葉もなんかチクチクしていてなんかやだなあ。


「僕は所有物じゃないぞぉ。あと、20万円くれるから、あんまりローズさんを刺激しないでぇ」


 コホンとマオウは咳払い。


「目がお金のマークになっている雅弥はほっといて――適当にケリをつけないと」

「穏便に終わらせるために、あの人形を作成したり、お金の亡者を準備したんだけど、あれだけ哀れなくらいだと、ねえ」


 なんだ、マオウとローズが憐憫を含めた視線を僕に出している。フン、笑うなら笑えばいい。

 僕は金欠ではないが、アニメ、漫画、ネットでの買い物でそれなりにお金は使っているわけだ。金は天下の回り物だ。


「とりあえず、20万円はください。今度、新しい●ンプラも出るし、ああすごい造形がいいんでほしい。あ、ローズさん、靴拭きましょうか」

 土下座をしてもお金は守るぞ。


「あそこ迄悲しい姿を見せるとは。わからないでもないけど」

「ごめんなさい」

 おい、露骨なやり取りはやめろぉ。

 あとおっさんたちも何気に引いている。

 

 ヒソヒソ。あいつ、やべえぞって声、聞こえてんぞ。


「まあ、仕方ないでしょう。滑稽ですから雅弥さんの姿」

 トドメをありがとう。アリエスさん。辛いっす。


「で、リターンは何? まさか、ここで引く事だとかいうわけが」

「――のエルフの禁所踏み入りを禁止にすること。これでどうよ」

 ローズさんの眉がピクリと上がる。


「おい、お嬢のやっていることをやめさせるってことか。それは」

 餓鬼のおっさんたちが大分ざわついている。それなりのインパクトのある事、なのだろう。

「割と強く出たね。一応、こちらの刺激を行っている原因を取り除くと。一応、――の動きが一番うっとおしいからね」

「代わりに機構の持っているダンジョン一つ譲って――」


 ゴッ


 地上に穴が開いた。魔力のこもった強烈な穴。

 ローズさんがマオウに向けて、拳を叩きつけたのだ。


「お前、パワーバランスわかって言って、いるのか? うちの後ろにはそれなりの亜人やこの世界の他の人間もついているぞ」

「闇に隠れる土御門連盟には関係ないよ。どうせ雲隠れすればいい。私はまあ、どうにかするよ。とりあえず、今は後ろのおっさんたちは納得しないということも忘れずに」

 じりじりとおっさんたちが僕たちのところに寄っていた。


「ダンジョンってそれなりにいろんなものをドロップするからね。取られたら、大変だろうね。呪紋何がいいかな」

 一応、雇われた立場ですので、仕事ですかね。マオウと餓鬼相手は結構疲れそうだけど、どうにかなるかはよくわからん。

 20万はどうにかこうにかほしいので、それなりに手を抜かずに、やるだけやりましょうか。


「まあまあ落ち着け若人ども。どれだけ喧嘩っ早いんじゃ。困るのう……これ、厄介すぎじゃろうて。本当に困るわい。ああ、だるいわい」

 アリエスさんの口調がロマーヌさんに切り替わっていた。

 

 手元に持つのは天秤。

 どうも、声はダルそうなだけだが、目が据わっている。これ、あかんやつか?

 


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