第54話 荒事③

「なんだ、この感覚」

 ぞくりとした。


 舌がざらつく感覚。遠い場所からの束縛。

 あなたを襲いますああああああ、やめてください。ストーカーとか、ヤンデレとか二次元だけで十分です。どうして、そんなことをするのかな。その魔法を僕にぶつけるとか一緒に死にましょう。永遠に愛が結ばれるのです。


 手に持っているのは何ですか。うん、僕を捕まえる縄を持たないで下さいよ。舌舐めるのはやめて。


――センパイ。センパイ。センパァイ。先輩大好きですよ。

 ハイライトはいってないよ。死んだ目で僕を見つめないであああんっ、魔眼がいた気持ちいい。溶けちゃう。溶けちゃうよ。


 ガダガタガタガタガクガクガクブルブルブルブル


――中に誰もいませんよ。

 血の付いた杖でメスモンスターの腹を裂いて、目からハイライトがやっぱりない。嫉妬するのはラメええええええええええええええええ。


「ひいいいいいいいい。ヤンデレ、束縛は嫌だあああああああああ。僕の中に入ってくるな。一緒に死ぬとかしたくないですうううううう」

 思い出せない何かがある。でも、かゆいところで何かが防いでいる。思い出したら危険だと。言葉に言い表すことが出来ない闇の深さ。覗き込めば死んでしまう。


「ど、どうしたんですか。顔が真っ青大丈夫ですか」

 アリエスが驚いた顔をしている。まあ、あたりまえだけど、僕は震えが止まらなくてそれどころではない。


「おおぅ、何だろう。過去に重要なことがあったんだけど、何かが防いでいるんだ。でも、そうしないと駄目だと僕の中の何かが叫ぶんだ。ヤンデレは怖いヤンデレには近づくな世界が終わると」

 終わらぬ寒気。――は駄目だ。ヤンデレは怖い。


「もういいか。見ていて辛くなるわい」


 と言いながら、腹の膨らんだおっさんが山の草むらから、数名現れる。

 似たような顔をしており、ああ、これは戦闘員かと思われる感じに見える。


 リーダーのおっさんは派手な作業ズボンをはいた大工みたいな風貌だった。


「うーん、ここは工事する場所じゃないんですが、どうしてこんなにいるんですかね」

「いや、空気読めよ。普通にこんな場所に現れるわけないだろ。こんなきったねえおっさんたち」

 小声でローズが言うが、あちらには聞こえているようで、少々顔が引きつっているのがわかる。哀れな。


「あのな、俺たちはお嬢の頼みでお前を助けに来たんだが、ひどくないか」


「知らんがな。こっちは被害者だけど、被害者じゃないし、キリッ。あ、でも、慰謝料でもう少し挙げて欲しいな」


「流石に20万からはちょっとね」

 ケチイィっ。


「まあいいさ。あんたら、妖怪だっけな。餓鬼とかそういう類いの」

 ローズさんの目がおっさんたちを射抜く。


 おっさんたちはにいっと剣呑な笑みを浮かべた。

「どうすんだ。喧嘩か?」


「それはそちらの反応次第かな」

 ローズさんの後ろに気付けば、強面のスーツを着たおっさんたちが気づけば集まっていた。


「ま、10万円もらっているし、仕事はしちゃうよ」

 僕は肩を回した。


「反応が怖い」

 アリエスさん、ストレスって簡単にたまるものだからね。そういうときもあるのさ。


「まあ、待ってよ」

 そこに現れたのはマオウだった。


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