第52話 荒事①

 強面のおっさんの運転するワゴンに乗せられ、高速であれよあれよと気づけば、観光地になっている山に入る。

 その山を少し歩いたところに用意された、ぐるぐる巻きのミノムシにされた僕の姿を模した人形。割とリアルでぐろい。

 しかも、崖に逆さにされた人形。

 

『ぎゃああっ助けて』

 となぜか収録されている僕の声はそっくりで、すごい辛い。


「色々と突っ込みたいのですが、どうして、僕はあんなことになっているのかな」

「知らんよ。仕込みはアリエルに任せていたから」

 ローズさん、部下の教育がなっていませんよ。

 しかも、助けての声がすごい切ないよ。


「泣いてますね。ほんと、すごい声」

「誰が作ったんだっけ」

「――誰でしょうね」

 目からハイライトが消える。何もかもをガン無視したハービィはどこにも向かない。


「誤魔化すなよ。何やってんだよ。訴えるよ」

「まあその、すいません。マオウさんがこういうのが好きだと聞いて。つい、悪乗りをしてしまい、申し訳ございません」

 つくづく、マオウは色々な影響を与えやがって。


「で、どうしてこんなことをしたのか、教えてもらってもいいか」


「ああ、それか。うちの組織と日本のわけのわからない地場組織が因縁をつけてきてね。うちのシマ荒らすなや! 的なやつ」

「ヤクザかよ」


 ローズはうんうんと頷き、ため息をついた。

「で、君んとこの猫又がそこに属していてね。ま、聞こうと思ったら、ドロン。ほとぼりが冷めるまで行方をくらます感じかな」

「猫だけに脱走といったところか。そういや、マオウも家猫だけど、脱走してたっけな」


「で、それと僕のあのリアルな人形(気持ち悪い)の大惨状との関係は? 後、僕を連れてきた理由は?」

 正直悪趣味すぎて、本当に訴えたくなるんだけど。

 

『ぎゃあああっ、助けてえええええええええええええええええええ』


 ちょっと黙ってもらえるかなあ。


「ま、慰謝料を込めたものだと思ってほしい。25万」


「札束で殴るのはたまらんです」

 痛い痛い。顔はにこやかなのに痛い痛いとはこれいかに。

 お金はいい。おかねはおっかねー。


「鼻の下伸びてますよ」

「アリエスさん。お金は強いんです。とーっても。痛くてもね。札束で殴られるって痛気持ちいいんですぅ」

 くねくね。痛い痛い。僕の顔はトロトロ。


「気持ち悪い」

 アリエスさんよ、言っておればいい。僕の金だ。


「これだけ正直になるとドン引きだが――まあいい。飛田さん。あんたの役目は人形の声に引き寄せられた猫又娘をどうにか、説得。仲間を連れてこられた場合はその護衛だね」


 ああ、うん。なるほどね。納得。こりゃ危険だわ。荒事になるかもね。

 







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