第51話 黒エルフの囁き

 通されたのはシャープなビルの地上云々階ではなく、地下だった。

「いやあ、ここ駅近だけど、地下だけは安くてね。暗いけど、まあ、それなりでしょ」

 まあ、そうなんだけど。なんというか、そのねえ。施設はそれなりなんだろうが、ね。


「言いましょうよ。ここはゴミ屋敷だってね。いっでええええええええええええええええええええええ、何しやがるですか! 頭が悪く」

「そのやり取りは天丼――というか、ゴミ屋敷じゃないし。ないし。ないし……うん。そうだね」


 ローズさんとアリエスさんのやり取りは置いておくとして、汚いのはまあ納得なんだよね。

 お菓子のゴミやら、本やらが適当に置かれている。地価の閉塞感も相まって、窮屈に感じる。


「何か、変な工場のおっさんの更衣室みたいで嫌なんですよ。ここにいる地縛霊のお侍さんも嫌だって」

「アリエスさん、今おかしいこと言わなかったかな。確実にやばいっすよ」

「変な工場のおっさんの更衣室は汚いと?」

「違う違う違う違う。そこじゃないって」


 何かずれてる。明らかに変なこと言っているけど。

 ここ、地縛霊がいるのぉ。いやいやいやいや、怖いって。何言っているのか理解したくない。


「まあ、事故物件だけど、おっさんとは仲がいい。おかげで家賃がクソ安い。他のことに金を回しやすくて、いいことづくめだ。ハッハッハッ!」


 どうしようこの人たち、おかしいよ。何を言っているのかな。しかもこの場所が事故物件の土地だって、言っているのがもう色々とおかしすぎて、理解が本当に追い付かない。


「帰っていいですか」

「いやいやいや、待て待て待て。話をしていない。この美少女ローズ様を置いて、それはないってば」

 自分で言っている時点で明らかに違う。とても違う。あと、見た目と歳があわない黒エルフに言われても何の効果もないわけですが。

 ルックスはいいし、性格もさばさばしていて、常識は――壊滅か。あと、ゴミ屋敷を作ったのはローズさんのようですし。ハイ。

 僕は決心した。


「いいえ帰りますね」

 触らぬエルフにたたりなし。


「日給10万円の話は聞いた?」


 ――あ。


 黒エルフの邪悪な笑み。悪役がするような腹黒い笑み。駄目だ。これは。


「こういう事務所だからね。予算はそれなりにあるわけでね。1日だけ付き合ってくれるだけでも、お金は潤沢にあるわけ。異世界帰りの英雄というわけなら、それなりの報酬はあげるから、どうよ?」


「ど、どうといいましても」


「新しいPCとか、買うなら、考えているって聞いたことがあるわ。今から拘束と、そうね。明日の夜だけでも、付き合ってくれれば20万円で、考える?」


――黒エルフの囁きは非常に魅力的だった。


 二日で、20万だと?

 いやいやいやいや、おいしい話には何かがある。

 だけど、20万とか、何それ、おいしいの。


「イ、違法性はナイノデスカ? 危険性とか」

「違法性はない。危険手当と思えば。でも、異世界の危険と比べれば安いものだとは思う。で、20万が二日で、よ」

 

 にじうまん。にじうまんが危険手当。

 死にかけたことがいっぱいある僕の今までに比べればあ、ね。


「お金、おいちいデス」


 僕は囁きに堕ちた。

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