第19話 オーガの村で出会った第一村人

「なんじゃあごるあぁ。ごんなあごどあるがよおぉ」

 というだみ声を上げた赤銅色のプロレスラーと見まごう大男。髪の色は白く、二つの頭から生えた角。

 年はわからないが、まあ、若いという感じはしない。60前のおっさんといったところ。だけど、


「なんか臭そう」


 という猫又の答えは失礼だが、僕も同意したい。

 思っても今言うことじゃあないだとしても、だ。


「なんが言っだがああ?」

 だみ声プラス大声に、やばさが加えられる。ヤクザ映画とかに出てきそうな凶悪な面にステテコのようなズボンをはき、上半身はサラシとデカい包丁のようななもの。これはまさにヤクザ。


「ひいい、何でもありません。ありませんよぉおお。でも、ごめんなさいいいいい」

 案の定、アリエスさんだけはヘタレた反応をする。

 ジャンピング土下座とか、できるんだなあ。パービィなだけに。

 すげえかっこ悪いけど。


「いやまあ、櫓を壊したのは悪かった。けれども、交渉したいことがあって、ここにやってきた」

 交渉のときはビビったら負ける。別の異世界で学んだことだ。

 オーガの咆哮ごときにビビっていたら、今の僕は生きていない。修羅場はそれなりに踏んできた。

 ただの犬の遠吠えにしか聞こえない。


 というか、会社で怒鳴られるほうがどれだけ肝が冷えるか。会社の評価、落ちればクビかもしれないから、僕は割と落ち着いていた。


「なんだぁ、お前。あと、ハービィ。ああ、宝珠があ。悪いが返せない。なくしてしまっだもんでなああ」

 恫喝からのなし崩しの誤魔化しとか、最低だな。


「あんた、借りたものを返さないとか最低だぞ」

「どいわれでも、ないものはない。金は渡しだがら、ぞれで許してくれろ」

「あんたらの都合はわかったが、金で返せないものを壊して適当に誤魔化すとか、マジ最悪だぞ」


「なら、力づくでもやるが?」

 オーガ、それなりに脳筋だとは思っていたが、ここまでテンプレだと、笑ってしまいそうだ。

 その喧嘩、買ってやるよ。


「ちょっと、雅弥。頭に血が上りすぎ。私の役目だよ。喧嘩売るとか」

「あまりいい思い出はないんでね。こういう手合いには。契約とか守らないとか、仕事をしないエンジニアとか。クレームを客から言われるとか。色々と嫌な思い出があるからさ。やってらなんなくなる」

 なんか自分で言って、泣きたくなるわ。

 あ、もちろん、非道な山賊とか、ぶちのめしてきたからさ。舐められたらわかるのもわかってる。


「えっ、あっちょっ。早いって。マジで」


 悪いがマオウ、先に手を出したのはこっちだけど、あっちもどうしようもなさそうだ。ほれ、


「話が早ぐでいいなあ゛!」」

 あちらのオーガさんも振り下ろす拳が僕に向かってきている。

 不意を突いたつもりだろうが、そんなもんどうってことはない。


「なんて大振りなッ!」

 左のくるぶしに込めた呪紋に魔力を込めて、走る。


 瞬間的な筋肉の増強の呪紋。電気が駆け抜けるような幻通が体をめぐるが、無視。

 振り下ろされた拳の拳圧の衝撃による土砂をものともせず、僕はヤクザオーガの懐にもぐりこむ。

「せえのっ。魔力、1のせの拳!」


 右手中指の呪紋に魔力を込める。

 純粋な魔力を右拳に込めて、ヤクザオーガの鳩尾に叩き込む。

 大振りすぎる上に、完全に僕をなめてたのが悪い!


 ヤクザオーガがうめき声をあげ、後ろへと下がる。だが、ヤクザオーガは鳩尾を抑えながらも、自分を奮いたたせるように、吠えた。


「この野郎があああ!」


 さて、どうする僕!


「待て! バカ者どもっ!」

 そこにいたのは。


 小太りのオーガとは縁のなさそうな男の。


「赤井主任?」


 僕の会社の上司だった。

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