第10話 寿司と美女

「にゃっにゃにゃ~ん、回る寿司っていいよね」

 そうだよね。舌鼓を打ちながら、マオウの機嫌のバロメーターが上がっていくのがわかる。でも、トロとかはやめてくれないか。僕の財布が割と痛いんだけど。

 あと、着ているブラウスは醤油で汚すなよ。クリーニングをしなきゃいけないとかなったら、まじでやだよ。


「これくらい、たまには出してくれる人はいないのかな。色々とうるさい人は嫌だ」


 僕に言いたいことはそれか。だが、家でFPSをどんどんぴゅんぴゅんやったり、なければ外で野良猫を従えて遊んでいることは僕が知らないわけがない。

 この居候が。失礼な奴め。


「これくらいは経費で落としましょう。というか、お詫びですから」


「アリエスさんありがとうございます。あ、その美味しそうな若鶏の唐揚げ注文したのは僕ですね」

「私の前で鳥とかいうのはどうかと思います。似た者同士ですね。ホント」

 すみません。反省しています。でも、若鶏のから揚げはおいしいのです。正義です。


「とはいえもったいないよね。性のつくものを作るって言って、アリエスさんが作ったウナギのかば焼きがあんなにまずくなるなんて。天才じゃないですか」

「うう、面目ないです。何で、焼くだけのかば焼きを作って持ってきて、あなたたちのアパートで味見をしたら」

「苦味やら、あまったるさのハーモニー。すべてが合わさって、世界がぐるぐるになっていくだったもん」


 大体のやり取りは理解した。ただ、アリエスさんはなんで性のつくものを持ってくるわけでしょうか。僕が子供を孕ませてはいけないのではなかったのでしょうか。


「なんか孕ませるとか破廉恥です」

 と言いながら、アリエスさんは羽と腕で自分を守るようなしぐさをする。何かかわいいけど、原因はあなたですからね。


「あ、ウナギ寿司が回ってきた。アリエスさんが注文でもされて」

「いえ、違いま、でも、取って食べていただいたほうがよいかもしれません。何故なら、私だって、魔王は生まれてほしくないのですが、正しい誰かに産んだ真っすぐな誰かを早く生んで世界を救ってほしいのです」

 はあ。それでアリエスさんがウナギを僕に食べさせようとしたことと何のつながりがあるのでしょうか……ハッ、まさか、アリエスさんというロリを襲わせて天使でも受胎しようと。

 僕の頭の中に天使アリエスさんが降り立とうとしたような幻が。


「なんかもうどうでもいいのですが、言い方が毎回破廉恥ですね。大体は正解ですが。そこの中トロばかりを狙っている猫又よりは絶対にましだと思いましたから」

 とはいえ、アリエスさんは10台前半。


「19歳ですから。ほら、ウナギ寿司をとって」


 と、その前にウナギ寿司は近くのスーツの似合う女性に取られてしまったようだ。

 長い赤い髪の毛をポニーテールにまとめた彼女はウナギを食べると席を立ちあがる。

 上背は僕が175センチ程度だが、彼女はヒールも履いているせいか、それを少し通り越す程度。それでいて、出ているところは出ているという完璧なモデル体型。

 浅黒い感じの肌からして、ここら辺の人には見えない。外国人か、異世界の人からな。

 うーん、できれば、僕が性的に襲われるならアリエスさんおこちゃまより、ああいう人に襲ってもらったほうがいいなあ。


「鼻の下伸びてる。ようし、私も誘惑を」

 はいはい、僕の鼻の下をもっと伸ばさせないでマオウさん。あと、僕の足に絡むのはどうかな。すべすべて気持ちいい。


「はやくうなぎ寿司を頼んで帰りましょう。迷惑です」

 アリエスさんの目が鷹のように鋭くなる。


「はい、ごめんなさいです」


 しかし、先ほどの女の人、もう帰ってしまったのか。もう少し見ていたかったな。

 特にお尻とか、絶対にきれい。胸もあるし、顔も一瞬見えたけど、ものすごくきれいな整った顔に艶々した唇がセクシーだったな。


お誕生日にあの人に襲ってもらうとか、ありじゃないか。うん、あり得るっ!


「私、ウナギを食べてぬるぬるになって、雅弥を篭絡する!」


 マオウさん、中トロ(300円)を食べながら、わけのわからないことを言うんじゃありません! ほかの人たちの視線とアリエスさんが顔を真っ赤にしているじゃないか。


「あ、でも、確かに美人だけど、大食い。50皿、よく食べるね。財布持つかにゃん? 雅弥」


 マオウさん、テンション下げないでください。お金ほちぃ。

 あれくらい女の人におごれる男になりたい。

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