第5話 VS最凶シスコンお姉ちゃん(ブラコン併発)

「ルミア、コーヒー」

「ほい連姉」

「ありがと」


差し出されたレトルトのコーヒーを優雅に飲みながら私は窓の外を見る...


「イリス、久しぶりだね、この景色を見るのも」

「確かに...前はあんなことがあったからね」


2週間前、色々あって行ったイリスとの遊園地デート、そこで私たちは一般JKを殺害しようとしてる危険な2人組と接触する。あの時は色々あって助かったけど、私達は入院を余儀なくされた...

そういうことで私達は2週間、ここを開けていたのだ。

まぁ復活ホヤホヤなので早速謎を解きに行きたいものなのだが...


「さてさて、その前に...この子をどうするかだな」

「家事から依頼までなんでもやります!採用してください!」

「うん元気は良いね」


傘谷さとこ、私とイリスが遊園地デートをするきっかけになった一般JKだ。


「連姉!私からもお願い!連姉がいない間の2週間、私と一緒に頑張って依頼をこなしてくれてたんだよ?」


そう...そこについてはガチで評価しないといけない...

どうやら私達が入院中に千恵さん(KIMIジャーナルの記者)が書いてくれた私達の記事がタイミング悪く載っちゃって、ぜひ依頼を受けて欲しいって話が事務所に鳴り響いたらしく、小規模なものであればルミアが頑張ってやっててくれたらしい...そんな中私達より1週間早く退院したさとこちゃんが、毎日手伝いに来てくれてたらしい。しかも来てから依頼の達成件数は2倍に跳ね上がったらしいのでホントに助かってる。


「とはいえ2人もバイトはなぁ〜」

「いいじゃないですか連兎やらせてあげれば」

「いやでも前みたいなことがあったりするとさぁ〜」

「それはルミアちゃんも同じです。採用しましょう」

「さてはお前...事務仕事押し付けようとしてるな?」

「別にそういう訳じゃないですよ、ただちょっと2週間の帳簿見てみたら普通にしっかり出来てたので...」

「やっぱ押し付けたいんじゃん!」

「あーもう!いいから採用しましょう!」

「そーだよ連姉!採用!」

「お願いします!何でもします!」

「「「採用!採用!採用!採用!」」」

「あーもううるさーい!分かったから!」

「「「いえーい!」」」

「ほんとコイツらッ!!」


まあいつまで怒ってても仕方ない、とりあえず心を落ち着かせよう。


「いい?さとこちゃん、やるからには真面目にやって貰うし前みたいな危険なことはしちゃダメだよ!」

「はい!肝に銘じておきます!」

「ならいいんだけど...」


まあとりあえず新メンバー追加ってことでいいかぁー、今日は取り敢えず仕事はなしd

トントントントン

誰か来たっぽいな


「こんにちは依頼人さん、今日はどういう言ったご要件で?」

「相変わらずの変わり身」

「すごいでしょ」


依頼人の前でダメダメな姿とか見せてたら信用されない、だから私は極力私情を挟まないように、それこそ慌てる姿なんてもってのほかだ、"あの人"から学んだ


「失礼します」

「とりあえずこちらに」

「はい」


入ってきた男の第1印象はなんか凄そうな雰囲気的だな〜だった。ちゃんとした素材で出来て居そうなスーツを着てるし立ち振る舞いも何処か大物感が漂う、何より目だ、目の奥に闘志が篭ってる、これから何かをしようという"男"の目をしている。


「それでご依頼は...」

「はい...私の名前は愛善満あいぜんみちるといいます。仕事は...ITubeの運営会社、DBNS《ダバンス》の社長をしていますね。」

「「「え...つまり...ダバンスの社長!?」」」


ITube、世界最大の動画投稿サイト、ネットと言えばとみんな聞いたら真っ先に挙げられそうな名前のひとつだし、ここに動画を投稿して広告収入だけで暮らしている人達

所謂ITuberなんて職業までものまでいる、そんなサイトの社長だ、そりゃあんな大物だよ。それにダバンスの社長なら私も接点が無いわけじゃない。

みんな驚いている、どうやらかなりの大物だと見抜いていたのは私だけだったらしい...

みんなまだまだだな...


「ほら、みんな落ち着いて...それでどんなご依頼でしょうか?」


これが大人の余裕......私はコーヒーを飲みながら優雅に依頼内容を聞く、今の私なら何があっても同様しないだろう...


「はい...私、大の魔法天使シリーズが大好きでして、ネタバレ防止にいつも番組はリアルタイムで見ようとしてるのです。」

「はいはいはい」

「しかし...魔法天使シリーズの特番が、来週の土曜日に入ってしまうんです!その日は完全にノーマークこのままではリアタイ出来ずネタバレを食らってしまう...」

「ほうほうつまり?」

「1週間後の午後1時半から午後3時半までの2時間どんな手を使ってもいいので、秘書を足止めしといて欲しいのです!」

「ぶっふぁッ!!!」


足止め?秘書を?


「あの...大丈夫ですか?」

「あ...全然大丈夫です。それより...今の話マジですか?」

「はい...ホント...少しの期間でいいので...」

「えっとちなみに秘書の名前を聞いても...?」

「はい...虹風世良にじかぜせらって言うんですけど」

「ああ...ああ...あはははは」


やっぱりだああああああああああああああああああああ!

もう無理だ無理だ無理だお姉ちゃんを止めるなんて無理!

この恐ろしさを共有しているルミアも私と同じくらい震えている、そうだ、お姉ちゃんと敵対なんて無理だ!

よし!今回は縁がなかったことで断ろう、よし断ろう!


「あっすいません、今は少し時間が無くて...」

「それじゃあここに印鑑をくれれば」


あれ?イリスさん?なんで進めようとしてるの?


「あ、はい」

「これで契約完了になりました。任せてください!止めるなんてお茶の子さいさいですから!」

「おお!なんて頼もしい!」

「ああ...終わった...」


絶望だ...それしか言う言葉がみつからない



〜***〜



「連兎ぉー、いつまでそんなガタガタ震えてるの」

「イリスはわかってないんだよ...私のお姉ちゃん...虹風世良と敵対するということがどういうことか、分かってないんだよ!」

「そうだよ!イリスさん!イリスさんはあの化け物の本当の恐ろしさを分かってないんだよ!」

「ルミアちゃんまで...」

「とは言いますがおふたりとも、私たちはお姉さんの恐ろしさを体験していません」

「そうか...なら教えてあげよう...恐ろしい恐ろしい...虹風世良伝説を...」

「「虹風世良伝説?」」



〜8年前〜



ある日私はとある理由で双子の妹の辰離たつりと喧嘩している途中に世良お姉ちゃんの大切な猫の置物を壊してしまった。

その時私達はすぐその場を去ろうとしたのだが...


「ねえ.........2人ともなんで私の猫の置物の残骸から逃げようとしてるの?」

「「いや!違くて!これは!連兎/辰離が!」」

「2人仲良く言い訳すんな」

「「はい...」」

「2人とも...ちょっとキツめのおしおき必要そうだね」

「「え?」」

「ちょっとごめんね」


ゴン!


私達はここで思いっきりぶん殴られて気絶してしまった。ほんとになんで気絶してしまったんだ...





「ここは?ってうわ!辰離?」

「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ」


私が目を開けると目の前には今にも泣きそうな顔の辰離が居て、ただひたすらにごめんなさないって呟いていた。

よくよく辰離の周りを見ると、足からお腹周りまでを拘束されていた、そして、それは私も同じだった。それより異常だったのが壊した猫の置物をボンドで治そうとしていた。しかしその手はプルプル震えていてとても治せそうにない雰囲気を感じさせていた。


「あっ」


辰離が必死にくっつけようとしていた、破片と破片が少しズレてくっついてしまった。


「ああ、あああ、ああああ、嫌だ!もう嫌だ!」


絶望したように慟哭する辰離、なにか声をかけようと喋り出そうとした瞬間。


「あれれー?辰離?また失敗しちゃったの?そんなに欲しいんだ♡ご褒美♡」


部屋の扉を開けてお姉ちゃんが入ってきた。


「嫌っ違、ごめんなさい!ごめんなさい!許して!許してくだんーーーーーーー」


入ってきて早々、辰離が失敗したのを把握すると突然辰離に対してキスし始めた。それもやばいぐらいべろちゅーを


「んー!んー!んんんん!んんーんんん!(連兎!助けて!息!出来なく!死ぬ!じぬぬぬううううう!)」

「え?え?え?え?」


私は体を震わせながら目の前を恐ろしい光景を見ていた

辰離が白目を向き始めるとそっとキスを終わらせてお姉ちゃんは私の方をむく


「あら?連兎?起きたんだ♡」

「ごめんなさい...ごめんなさい!許して!」

「うーん、口先だけじゃ伝わらないなぁ辰離と一緒にあれ治してよ」

「む...無理だよ絶対直せない...私も辰離もあれを完成させるほどの技術力はないよ...」

「へーだったらこれから丸一日間私とキスし続ける?」

「ひっやだやだやだやだやだやだ!わかった!やる!やるから!」


私は急いで破片を持ってくっつけようとするが失敗する。


「あーあーやっちゃったねぇ?」

「あ...あ....嫌、来るな!やだ!やだー!!!!」



〜***〜



「あとは察して...」


話すために思い出す度にあの息の詰まる感覚が何度も何度も私の体の動悸を引き起こす。思い出す度に身体が震えて呼吸もままならなくなる、かなりのトラウマだ。


「連兎?大丈夫ですか?」

「うん...なんとかね...」


イリスがかなり心配してくれる、ほんとにいい相棒だよ全く...イリスにならアレ...打ち明けても...いや今はそこじゃないか


「そんなにヤバいんだったら今からでも取りやめに...」

「いや、ダメ」


私は体の震えを何とかとめながらイリスの方を向いて宣言する!


「ダメなんだ...1度受けた依頼を辞める事は探偵として最低の行為だ!私にはそんなことは出来ない!」

「連兎...」


あの人と約束したんだ!こんなところで折れる訳には行かない!久遠探偵事務所の誇りと威信をかけた決戦だ!



〜***〜



「それでは!虹風世良対策会議を開始する!」

「「「はい!」」」

「まず現状わかっていることを報告します。」


イリスは立ち上がり、先程百均で買ってきたと思われる孫の手を指示棒代わりに使いながら報告を始める。


「まず世良さんは当日社長室で愛善社長と一緒に仕事をしています。社長曰く仕事中の彼女はめちゃくちゃ厳しくてトイレに行くにもその直前で待機して逃げられなくするようです。ちなみにこうなった原因は過去にトイレに行くと嘘をついて逃げようとしたかららしいです。」

「100、社長が悪いじゃん」

「今回私達はその悪いことに加担するわけだけどね」

「確かに」

「なので今回はもう社長室の時点で仕掛けます。」

「はい!」


ルミアは元気よく背筋をピンとさせて手を上げる


「元気がいい!ルミアちゃん!」

「社長室でどうやって世良姉から逃げるんですか?」

「よく聞いてくれました!その方法は...」


私達はゴクリと固唾を飲みながらイリスを見る


「連兎とルミアちゃん!そして胡桃くるみにメイド服を着て貰い!油断を誘います!」

「「え?」」

「大丈夫!胡桃にはもう許可は取ったから」

「いやいやそこじゃなくて!いやそこもだけど!」


突然末恐ろしいことを告げたイリスに私達は驚きをかくせない...


「なんで私達がメイド服なんて...」

「なんでって連兎は知らないんですか?」

「え?」

「世良さんの部屋に皆さんの体格や身長が再現された抱き枕があるって話」

「初耳だけど!?」

「あれ?胡桃から聞いてなかったの?」

「聞いてない聞いてない全然聞いてない!」

「胡桃がどうせみんな知ってるって言ってたんだけどなぁー」

「いやいや知らない知らない、何そのこと本当にしらなかったんだけど!?」

「だったらこれ以上知らない方がいいかもしれない...」


ちょっと青ざめたような顔で話すイリスを見るとドンドン追求する気が失せていく、とりあえずこのことは後で胡桃本人から聞こう。


「それじゃあ話を戻します、と言えっても後の流れは簡単です。油断してる隙にこの喰らえば1時間は動けない!スペシャルビリビリ電撃銃(定価117800円)※これは経費で落としています。」

「そんなもんどこで売ってたんだよ」

怒臨気ドリンキ

「まじかよドリンキ何でもあんな」

「これを食らわせた後は全力で逃げるだけです」

「うっわ簡単、でもこれで行けるのか?」

「はっはっはっ電撃銃食らってまとも動ける奴がいたらやばいですよ」

「イリスさんにそれフラグって奴ですよ」

「そういう不安になることは言わないでねさとこちゃん」

「はーい」


ほんとにこれで大丈夫なのだろうか?何も無いといいんだけど...



〜当日〜



「ふぁあああねむぅ」


さとこが眠そうに目を擦る、無理もない今は午前5時、社長曰くこの時間が1番人が少ないらしい、確かに人気もあんま無いし準備する時間としては完璧だろう。


「そーいえば秘書は良いですけど他の社員達に止められるとかないんですか?」

「ああ、過去に何回も脱走を試みてるからもう社員たちもいつものかって慣れてくれてると思うよ」

「それ社長としていいんですか...?」


イリスは社長のアホみたいな回答に呆れながら困惑する。

まあ私も大丈夫かなと思ったが、こんなんでも許される程の実力があるからこそ社長なのだろう。


「まあまだ時間もあるし色々この会社のものを紹介紹介しようかな、さあ!入って入って!」

「はいはーい!」


胡桃が元気よく入っていく。


「私も同行しよう」

「直ぐにも出発じゃあー!」

「行くぞ!」


みんな寝起きだからか変なテンションに鳴ってるな〜、まぁ多分私も大概か...

こうして私達はそのまま会社入っていった。



〜***〜



「まずここがロビー兼巨大駐車場のロビーガレージ!」

「うわでっか!」


まず入った先にあったのは円形にビルの天井まで開けている巨大な駐車場だ、開放感が半端ではない。

ただ実際の大きさもかなりのもので、ちょっとしたデパートの駐車場ぐらいは余裕であるように見える。


「そしてその真ん中にあるのがススキT20だ。50年前のバイクで、私の1番好きなバイクだよ」

「だからこんな駐車場のど真ん中にめっちゃかっこよく置いてあるんすね。」

「勿論!しかもちゃんとメンテナンスも欠かしてないないからいつでも乗れるよ」

「へー」


ルミアがいかにも興味が無いみたいな顔で返事をする。やめてやれよ、オタクは興味無い態度を取られるのが1番結構傷つきやすいんだぞ。


「それじゃあついでにどっか行ってみたい場所とかある?」

「はい!私サーバー室見てみたいです!」

「おお!いいよぉ!」

「やったあああああ!」


さとこが勢いよくガッツポーズをとる。

確かに、世界一の動画投稿サイトのサーバー見てみたいなも


「ここがサーバー室でこことサーバー室前の待機室は地面に送電タイルを敷くことで漏電を少なくしてるよ」

「多でけぇ!さすが世界一のサーバー!このタイルってどけだけ溜め込るんですか?」

「まあ大体なら耐えられるかな?」

「つまり雷とかが落ちてきても...」

「それはどうだろう...耐えれるだろうけどタイルは全滅しそうだね、タイル1枚だとスタンガン1発を耐えられるぐらいだからね」

「そんな上手く行かないもんなんですね」

「上手くいかないもんだよねぇ...」


頭の中の理論は完璧でもなかなか現実では上手くいかない、よくある事だ...今回もそうならなきゃいいんだけど



〜***〜



そろそろ時間になったので、私たちは社長室に来て、みな定位置に隠れる......のだが、その前にチーム虹風の人はメイド服に着替える。そう姉妹で仲良くお着替えだ!


「なんか思ったより着やすいなこれ、結構いいかも」

「そっか連姉だけだもんね、この中でメイド服着たことないの」

「逆に2人は来たことあるんだ」

「私はメイドさん達が主人公のアニメのOP歌ったからね、そのイベントとかでよく着るよミュージックビデオでも着た。」

「え...アニメのOP歌ったことあんの?」

「まあ、魔界冥土 メイドンナってアニメ」

「やっば聞いた事ないわ」

「まぁー世間でめっちゃ盛り上がったかって言われるとそこまでだしね、でもアニメ界隈での盛り上がりが凄かったよ、今度2期やるし」

「凄!」

「ちなみに私はDVDもブルーレイディスクもってます。」

「近くにファンおったわ...てか胡桃はなんでメイド服きた経験あんの?」

「えーさっきの話に比べたらめっちゃ見劣りするから言いたくないんだけど」

「いいからいいから!」

「えー、だってメイド喫茶で働いたことあるだけなんだもん」

「ごめん...思ったより見劣りした」

「確かに、OPに比べたら大した事ないかも」

「ほらー!だから言いたく無かったのよ〜!」


そんな和気あいあいとした会話を私は淡々と聞き続けている...ああ幸せだ...幸せがエクスタシーだ...


「さとこちゃん...ブレないなぁ」

「何言ってるんですか!百合とは無限の可能性!私はこの世の全ての百合をただ眺めていくのが幸せなんです。その為の努力は惜しみません!それにしてもメイドンナのOPやっぱルミアちゃんだったか〜道理でめっちゃ聞いた事ある声だな〜って思ってたんだよなぁ〜」

「めいどんな?ってなんなの?」

「知らないんですか?魔界冥土メイドンナ!魔王によって&非暴力的侵略を命じられた悪魔のイドンナがアキバのメイド喫茶で働いてる少女鳴動芽依と協力しメイドとして世界を侵略するお話ですよ、百合アニメとして最高傑作レベルの作品です。」

「ほぉーそんなのがあるのか...」

「原作小説はつい最近完結して合計50万部の大ヒット!

人気百合小説家、離れドラゴン先生の最高傑作です!」

「ほんとに百合が好きなんだねぇー」

「はい!百合の可能性は無限大です!」

「ちなみにささとこちゃんに野暮なこと聞くようで悪いんだけどさ、自分の恋愛とか興味は無いの?」

「無いですね」

「即答か〜」

「私は別に良いですよ、女の子達にイチャイチャしてもらいたいです。」

「君も女の子だよね?」


そんなこんな雑談を混じえながら、準備を勧めて...ついに決戦の時がきた。



〜1時25分〜



カタカマカタカマカタカタカタカタカタカタカタ


「ねえ世良君」

「はい?」

「もう今日の重大な仕事っておわらせたよね?」

「まあ1番大事なものは」

「もう帰っていいかな」

「馬鹿ですか?まだまだ仕事はあるんですから頑張ってください。」

「嫌だ!」

「は?」

「私は今日もう帰らせもらう!」

「何を言って...」

「今だ!」


合図を聞きつけ私、ルミア、胡桃はタンスから飛び出す。


「「「世良お姉ちゃん!萌え萌えきゅーん!」」」

「え...」


私達が手をハートの形にして棚から勢いよく飛び出す。


「え......??????天使????????」


お姉ちゃんは何がなんだか理解できない様子で血反吐を吐いている

まじでこの作戦効果あったのかよ!


「ああえぇぇととにかく胡桃!打っちゃって!」

「あいあいさー!喰らえ世良姉!スペシャルビリビリ電撃銃(定価117800円)※これは経費で落としています。!!!!!」


バン!

大きな銃撃音が鳴る...倒せたのか?


「はーそーいうことね完全に理解したわ、社長がまさかここまでしてくるとは夢にも思わなかったよ」

「えっなんで動けて...あんな血反吐吐いてたのに...」


胡桃の震え声が辺りを包む、お姉ちゃんは銃を掴み、無理やり銃口を下に向けていた。それで回避したのだ


「そーいうやり方ならこっちにもやり方があるよ?」


そう言うとお姉ちゃんは何処からか1本の鞭を取り出し、胡桃に浴びせる


「ぴぎゃあああああ!?」

「え!?...」


私達はその光景にただ唖然とする。


「これね...この前知り合いに作って貰ったの...名前ビリビリムーチくんらしいけど...それじゃあダサいから私が名前をつけるわ...」


お姉ちゃんは鞭を地面に這わせながらこちらの方を向く


「名を冠するなら!サンダービュート!」


バシン!と鞭を打ち付けると辺りに電撃がほとばしる...その光景を見た誰かがこういった。


「みんな!一旦待避ぃぃぃぃ」


みんな大急ぎで逃げ出す。どこへ向かうかも決まっていない状態で...



〜***〜



「とりあえず逃げたけどこれどうするんですか!?」

「どうするって言ったって逃げるしか無いのでは...」

「あの鞭の射程距離は多分1mくらい、そんくらいなら走ってるだけで逃げ切れると思う。このまま外に出よう」

「いや...ダメだよ...連姉...無理だ...」

「え?」

「まさか...」


ルミアに言われて私達も後ろを向く......後ろには...かなり早いセグウェイに乗ったお姉ちゃんが超高速で迫って来ていた。


「逃がすわけないじゃない!必ず追い付く!」

「「「「「うわああああああああああああああ」」」」」


私達はとにかく駆け走る、お姉ちゃんに追いつかれようにひたすら早く...


「もうだめだぁぁぁもぉ終わりだよぉぉ」

「もう!さとこ!そんな顔しないでよ!まだ捕まって無いんだよ!」

「でもあれと徒歩だ、そのうち捕まるのは明白だぞ!」

「だからといって世良さんを倒す方法なんて...」

「ある。」

「「「「え!?」」」」


驚く私達を尻目に愛善社長は説明を始める


「次の所を右に曲がってサーバー前待機室へ行く!」

「でもそこって入口から反対方向じゃ...」

「ああ!そういう事か!」

「え?どういうこと?」

「さとこ、ルミア、忘れてない?サーバー室とサーバー待機室前に敷いてあるタイルのこと」


〈「ここがサーバー室でこことサーバー室前の待機室は地面に送電タイルを敷くことで漏電を少なくしてるよ」〉


「そういうことか!」


私達は大急ぎでサーバー前待機室の扉を開く。


「そうみんなサーバー前待機室へ出ろ!送電タイルが最初の電撃を引き受ける!」


ここで仕留めるしかない、ビリビリ銃は回収している。

これを叩き込んで仕留める!


バン!


すごい勢いで扉が開く音がする。


「きた!」

「こんなとこで集まって...勝てるわけがないってわかった?」

「さぁ?どうでしょう?」

「さぁ?どうでしょうだぁ?舐めるんじゃあないわよ!あなたが私に鬼ごっこで1度でも勝てたことがあったかしら?連兎!!!!!!あれは別にあなたの身体能力が低いから負けた訳では無いわ、貴方は遅いのよ!昔から!貴方は常に何かが起こってからの対応していた!その遅さが!今ここで悲劇を起こすわ!」

「いいねいいねぇ!いい感じにハイテンションになってきたよ!だったらここで倒してやる!私に攻撃してこいよ!」


超高速旋回で私達の周りをグルグル回るお姉ちゃんに私は挑発する。これでお姉ちゃんは間違いなく私を攻撃する、そこが狙い目だ!それにしても黙って聞いてたら言いたい放題言いやがって...ここで仕留めてやる!


「それじゃあさっさと倒れてもらおうかしら!」


ものすごい勢いでムチが私にぶつかる!しかし私は胡桃のような情けない声は出さない、電気は送電タイルに送られ私は何のダメージも受けない


「へぇ...そう来たか」

「これで終わりだよ!喰らえ!スペシャルビリビリ電撃銃(定価117800円)※これは経費で落と......」


銃を撃とうとした瞬間

嫌な予感が背後を駆け巡り後ろを向いてしまうそこには、今にもサンダービュートを受ける直前のイリスが立っていた。2本目を持っていたのか!なんて用意周到な!

いやそんなことより、イリスは私と同じタイルを踏んでいる、つまりここでイリスが喰らってしまえばイリスはそれまでなのだ。

しかし私は探偵、そんなこと気にせずに依頼達成のみに注力すればよかったのに...思わず...体が動いてしまっていた。


「イリスぅぅぅぅぅぅぅ!!!!ぅおおおおおお!!!!!!」

「二手...遅れたようだね...」


私はイリスをおしのけ......そして......


「ぴぎゅるるるるあああああ!?」


情けない断末魔をあげてぶっ倒れてしまった............



〜***〜



連兎が.........倒れた!?


「サンダービュートは1本じゃあない!3本だ!!」


世良さんはそういうと、連兎に絡まった2本のサンダービュートを手放して3本目を取り出し社長へと向ける。


「さあ社長これで終わりだああ!!」

「させない!ぴぎょあああああ!?」


三本目の攻撃をルミアちゃんが必死で受け止めて気絶する。


「くっ邪魔が入ったわね...しかし次はどうかしら?」

「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい終わりだ終わりだ終わりだ終わりだ終わりだ終わりだ終わりだ終わりだ」

「落ち着いてさとこちゃん!」


とはいえこの状況...1体どうすれば...逃げてもセグウェイで追いかけられる...


「さあてこれでジ・エン...」


バン!!


突然の銃声に辺りが静まり返る。

恐る恐る銃声をした方向を見るとルミアちゃんが電撃ビリビリ銃をセグウェイに撃ち込んでいた。


「うっ......しゃ.........成.........功...今の......内...に....私...を連れ...」

「ありがとうルミアちゃん!」

「この恩は忘れない!」

「虹風ルミア!僕は君の行動に敬意を表する!」

「い...や...私も......え...いっ......ちゃっ...た」

「自分を犠牲に仲間を助けるなんて......成長したわねルミア」

「いや......違......」

「でも普通にアウトよ」

「ピギャ」



〜***〜



「はぁ...はぁ...はぁ、このまま突っ走ればエレベーターなんでしょ!」

「そうだ!このまま突っ走れればだがな」

「ほんと行けるのかな?心配に...」

「ダメだよさとこちゃん!こんなところでしょげちゃ!」

「どうしても心配なんだ...あの人たちがあんなに恐怖してた世良さんがここで終わるわけがないと思うんだ...」


確かに...それは私も思う、それでもやるしかない、私たちは『託された』のだから...


ドッドッドットトトト


「この音はまさか...」

「あとエレベーターまで少しなんだぞ...まさかこんなタイミングで...」

「終わりだ...終わりなんだ...」

「セグウェイを破壊した如きでこの私を止められると思うなああああああああぁぁぁ!私はそんなことでは全くへこたれんぞぉぉおおおお!因果を未来へ持って行くことは出来ない!」

「「「きたあああああああああああ!?」」」


世良さんはその恐ろしい脚力でこちらに迫ってくる......

このままでは捕まってしまう...

しかし

だが逆に!その危機的状況が!私の体に覚醒を促した!


「はぁはぁこれは......」

「イリスさん......身体に赤いラインが...」

「それって前の...」


なぜ今体が赤く光ったのかは分からない...でもそれでいい...

今ここで覚醒したことにきっと意味がある、依頼人を確実に逃がすという意味が!


「ついた......みんな乗って!」

「うん!」

「ああ!」

「よし、乗ったね?」


ポチ


私は扉が閉まるボタンを押して、その地点で立ち止まる


「え!?何してるの!イリスさん!早く!もうそこまで来てるんだよ!」

「2人で行くんだよ...さとこちゃん...この先に続く出口を...大丈夫...逃げ切るのよ!あなたは希望!」

「イリスさあああああん!」


扉が閉まり、ふたりが下の階へ下っていくのが分かる。

ははは、ここで終わりかなぁ〜それ怖いなぁ...でもやるしかない!もしかしたら万が一で私のこの深紅のラインの力がなんとかしてくれるかもしれない...


「あら覚悟はできてるかしら?」

「さて...ここが私が食い止める!来い!世良お姉さピギィィィィイ!」

「あんたに義姉さんと呼ばれる筋合いはないわああああああああ!」


私の悲鳴が5階に響く...一瞬だったけど...足止めには成功したかな?



〜***〜



「はぁ...はぁ...ロビーに着いた...」

「ここまで来れば...」


私たちが乗ったあとすぐにイリスさんの悲鳴が聞こえた...だからこそわかる、状況は絶望的だ以前変わりなく...


「ただこの扉さえ開けば...開かない!?」

「そんな馬鹿な!?故障か?いや...そんなはずは...」

「もしかして世良さんがなにかしたんじゃ...」

「管理室だ...管理室で扉をしてたんだ...無理だ...そうなればそっとやちょっとのショックじゃ扉は開かない!」

「嘘でしょ...」


そんなの...より絶望的じゃん...


スタッスタッスタッ


「社長さん!急いでバイクかなんかの陰に隠れて世良さんが降りて来た!」

「わかった...」


スタッスタッスタッ


「ねぇ、さとこちゃん...もう諦めたら?今場所を教えてくれれば貴方だけは助けると約束するわ、貴方はもう十分に頑張った、もう諦めたらいいじゃない...」

「断る!まだ勤務初日だけど...それでも探偵なんだ...そして探偵は...諦めが悪いものなんだ...」

「あら、言うじゃない!でもダメ!の世の中はね!仕事こなすことこそ幸福なのよ!それを今から分からせてあげる!」


そう言うと世良さんはサンダービュートを私の方向へ振りかざす...

この時をまっていた!


「ふん!」

「避けた!?」

「世良さん...あなたのせいで扉がしまって開けられないのなら貴方に開けてもらう事したよ」


私が避けたサンダービュートはロビーの扉に叩きつけられる。そうそれ即ち


「ロック解除だあぁああああ!」

「なあああにぃイイぃぃぃぃ!」

「サンダービュートの電力!人1人気絶させる程のショックなら流石にエラー吐いて開くと思ったよ...」

「なんだとぉぉぉぉ」


ぶるん!ぶるるるん!


奥からバイクが唸る音がする!ナイスタイミングだ!


「まっまさか、止めろ!止めるんだ!さとこちゃん!仕事をしっかりこなすことが幸福だということを思い出してくれ!」

「私は高二でバイト初日だ!労働なんて知るかあああああぁああああ!!!!行っけぇぇえええええ!!しゃちょお!ピッキュギュ!」

「分かった!」


私は目がぼんやりしながら周りを眺める、よかった出発し...た...



〜***〜



ガチャ


私は息絶え絶えに扉を開ける、私の目は半分死にかけの目で、完全に疲れ切っていた、大丈夫、ここは絶対に秘書にバレていない自信がある。こんなところで負ける訳には行かない。まだ放送まで15分ある、少し休もう。


「何とか逃げきれた...」


安堵の感情が私の心を包む、彼女たちがいなければ私の目的は達成出来なかった...ほんとに感謝するべきことだ...そして何よりあの悪魔から始めて逃げることが出来た、とにかくその事が嬉しかった...ただ...その嬉しさが命取りだった...


「社長、ちゃんと休憩できました?こちらコーヒーです。」

「ああ、悪いね、虹風く......え?うわあああああああ!?」

「何もそんなにビビらなくても」


気づけば私の後ろには秘書がいた...何故だ、ここは絶対にパれていないはずなのに!?


「なんで...ここに...」

「そりゃ脱走防止用のGPSつけてるからですよ」

「え!?」

「先代の秘書からの引き継ぎの時にそれを強く言われましてね、ちゃんときつく行かせてもらいました。」

「あいつぅうううう!」

「ちなみに今飲んだそのコーヒー、少し仕掛けがあるんですよ」

「何?」

「睡眠薬って言うんですけど」

「え?」


急激に視界が暗くなる...そんなあと少しだったのに...


「ゲームオーバーですね。」


その声がこだまする中...私は眠りに着いてしまった、すまない、探偵諸君...




〜***〜



「ん?ここは?」


確か、イリスを庇って倒れたはず...私は視界をゆっくり開ける。

その光景は...私のトラウマを呼び起こすものだった...

目の前には死にかけたような目で仕事を行うイリスと愛善社長。ふと私の机を見るとそこには会社の事務作業が山積みにされていた。


「ひっこっこれは...」

「あら?1回受けたことがあるでしょ?だったら大体わかるはずよ?」

「今回はこれをやれと...」

「ちなみにガンキチョどもには課題をやってもらってるわ」

「抜け目ないこと...」

「ええ、びっちり12時間ね」

「12時間!?」

「ええこれでも加減した方よ?最後最後で私達を出し抜いたあなたたちに敬意を評して」

「嘘でしょ...嫌だ...やりたくない...」

「あらそんなこと言っていいの?もしサボるようなら、死なない程度に電撃を浴びせるわ」

「ひっやります!やります!やらせてください!」


私は急いで目の前の資料に取り組み始める...ああ...絶望だ...


「あら?ここミスってない?」

「え?」

「電撃追加〜♡」

「は?え?ま?」

「はいビリッと」

「ちょっとまぴぎゃあああああ!!!」


こんなやり取りを私たちは半日続ける羽目になるのだった...









〜12時間後〜



「はい!12時間経過!お疲れ様〜」

「ヤダ...もう...仕事したくない....」

「もぉやだよぉ...お兄ちゃん...助けて...」

「やっと...終わった...」

「もぉーみんなボロボロだなぁ〜」

「誰のせいだと思ってんだ誰の」

「ごめんごめんって、ほらみんなにいいものあげるから」

「え?」

「まず社長、はい、番組録画したCD」

「え?いいの?」

「別に良いわよ、途中で仕事を放棄したことが許せないだけだし」

「ありがとうございます〜」

「次にさとこちゃん」

「え?私も?」

「勿論いいわよ〜」


お姉ちゃんはみんなに一つ一つプレゼントを渡す、そうだった、恐怖ばっかりで忘れていたお姉ちゃんのいいところ



〜過去〜



「「やっどでぎだあああああ!」」

「お疲れ様♡これに来れたらもう喧嘩しないこと!」

「「はい」」

「それならよしほらコレ」


お姉ちゃんから私たちはプレゼントボックスを貰う、私達はそれをその場で開ける。


「あ!これ欲しかった小説!」

「これ...前に言ってたぬいぐるみ?」

「そう!2人とも欲しかったんでしょ?頑張った記念だよ」

「「うう......ありがとおおお!」」



〜現在〜



思い返してみてもなんか洗脳感はあるがそれでも、お姉ちゃんの優しさが心に染みる。


「はい!連兎にはコーヒー!」

「何?私だけしょぼくない?」

「だって私じゃほんとに連兎が欲しいもの、あげれないし」

「何さそれ」

「今でも彼を待ってるんでしょ」

「別にそんなんじゃないよ、ただ考えるだけで頭がモヤモヤするだけ」

「それが求めてるってことなのに」

「わかんないよ私でも」


私はバツが悪そうな顔でコーヒーを啜る。


「まあ!彼以外にそれを埋めてあげる存在はいるんじゃない?」

「は?誰よそれ」

「さあ?誰でしょう?」

「え〜」


お姉ちゃんはそう言うと何処かへと去っていく、埋めてあげられる存在ってなんだよ...


「まあ今はいいか、いりすぅー!」

「なんですかー?」

「そろそろ帰ろ」

「てかそもそも今何時なんですか?」

「深夜1時」

「私たち、だいぶ長いこと働いてたんですね」

「まあね」


今はいいや、だってイリスと話していれば寂しくないし、今はあの人の探偵事務所を守ることの方が


大切だ。

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