第2話 お酒は飲んでも吞まれるな

「ぷはあああ!酒がうまい!」

連兎はチューハイ片手にソファーに寝っ転がっている。

「連兎、言っておきますけど貴女これで 4 缶目ですからね」

連兎は 4 日前にやっと退院し探偵業も 1 日前に再開したばかりである。

「貴女まだバリバリ病み上がりなのわかってます?」

「いーじゃんいーじゃんあと少し今日は終わりなんだし」

確かに今は午後 11 時、あと 30 分程で今日は閉める予定だ、しかし

「“まだ”終わってませんよね?そんな感じだからうちは向かいの探偵事務所に客取られる

んですよ」

「むっそれは聞き捨てならんな」

おっ食いついた、連兎は向かいの探偵事務所「蛍火」に異常なまでのライバル意識がある。

これでお酒飲むのやめて真面目に働いてくれr

「今から酒もって突撃じゃあ‼」

「なんでそうなる‼」

思わず敬語をつけるのを忘れて突っ込んでしまった

「うへへへへへへ」

「だめだ完全に酔ってる」

こういう時に姉妹たちはどう対処していたのだろう謎が深まる

チリリン

「こんにちは、依頼人さん今日はどういうご依頼で?」

呼び鈴の音がなるやいなや連兎は速攻で仕事モードになっている

「あんたの切り替え速度だけは尊敬しますね」

あいつの中の酒は都合よく蒸発するようになってるのだろうか

「あのー」

「アッすいません要件をどうぞ」

依頼人が自己紹介を始める

「私の名前は北村修二といいます、大木野商店街で酒場ポレレを経営しています」

大木野商店街...確か商店街の大半が居酒屋で出来ている酒好きの天国みたいな場所だ...

“くるみ“もそこで働いていたはず

そんなことを考えていると北村さんが依頼を告げる...しかしそれは我々の想像を絶する

ものだった。

「たのんます‼酒吞童子を倒してください‼」

「え?」

酒吞童子?もしかして私達は伝説上の生き物を退治しなければならないのだろうか...

「え?酒吞童子!?化け物かなんかですか...?」

連兎も動揺してる。

「あ、いや酒吞童子は異名みたいなものでして」

「良かったーてっきり本物の化け物と戦わされるのかと」

連兎が安堵の声で話す、わたしも心の底でちょっと安心する

「それで酒吞童子とは?」

連兎が依頼内容について聞き始める

「酒吞童子というのはここ数瞬間、不定期に大木野商店街にやってくる女のことです。

彼女は酒場や居酒屋にいく度酒を全てタダでよこせと言ってくるのです」

「ほう、タダで...別に、はいそうですかと実際にくれてやってるわけではないのでしょ

う?」

「いやそれが、この話を聞いた店主さんがみんな口をそろえて言うんです、奴が耳元で何か

を話すと気分がぼーっとして気付いたら酒をタダで渡してしまったあとらしいのです。」

北村さんが話した内容に今度こそ私達は動揺を隠せない。

「言葉で相手の意識を奪うとかそんなことできるのか???」

「分かりませんしかしこれは骨の折れる仕事になりそうですね」

私達は小声で会話する

「とにかく、次は自分のとこなんじゃ無いかと思うと心配で心配で...こんな話だから向かいの方々は全く信じてくれなかったし...」

「とはいえそんな依頼...どうすれば...」

「分かりました!やりましょう」

私が悩んでいると連兎が速攻で承諾する

「ちょ、連兎?いいですか?落ち着いて相手は言葉だけで相手に言うこと聞かせられる化け物なんですよ?ちゃんとわかってます?」

「わかってるって考えてもみなよ蛍火の奴らも手を引いた依頼だぜ、これを無事解決すれば私達は蛍火より上ってことになるぜ!」

ダメだやっぱり酒が入ってる、しかし生計を立ててる側としても少しでも多く依頼はこなしておきたい

「はあー分かりました」

「それでは受けてくださるということで?」

「はい!」

こうして連兎にあるトラウマを抱かせる世にも奇妙な鬼退治が始まった

まず私たちは大木野商店街での聞き込みを開始した。

「結局概ね北村さんが言った内容と変わんなかったですね。」

「新しい情報も特になし、せめて次狙われるとこが分かればいいんだけど」

「うーん情報によると店を片っ端から狙ってる訳でも何か規則性があるわけでもないですしねー」

「はあーもうちょい聞き込みをするべきなのかなー」

「まあ辛抱強く頑張りましょう」

「ていうかこの町のうわさなら私の家族経由で大体耳に入ってくるはずなんだけどなあー」

「ああ...確かに」

連兎には彼女を含めて 6 人の兄弟姉妹がいる

まず長女の虹風世良(セラ)

次女で双子の連兎(れんと)と辰離(たつり)

三女の胡桃(くるみ)

長男の梨菜(なしな)

末っ子で四女のルミアと連兎からは聞いている。

「まあそれはしょうがないので、地道に調査しましょう」

「まあそれしかないしねー」

「取り敢えずまた片っ端から聞き直しましょう」

「はあーこっちは来るのを待つしかないのかねえ」

連兎がつぶやくように小声でしゃべる、その時...私の頭に一つの考えが頭の中によぎる

「そうだ!それですよ!酒吞童子も何かを待っているんですよ!」

私は興奮気味に連兎の肩に手をかけ話しかける

「え?え?何?」

連兎はすごく困惑している

「いや待っているというより狙っているといった方が正しいか、とにかく!その方面で聞き込み調査を再開しましょう!」

それから私たちはもう一度聞き込み調査を行った。特に店主さんには襲われた日何か特別なことがなかったかを重点的に聞いた...その結果

「酒吞童子が襲った店には大木野商店街でもなかなかお目にかかれないレアな酒「鬼龍殺し」を仕入れていた...つまり酒吞童子はその酒を飲むために居酒屋を襲撃していたのか」

「まさか完全に読み通りだとは...」

「今回は大手柄だねイリス」

「今回はたまたま運が良かっただけですよ」

「その運の良さで人が救われてるんだからいいことじゃん」

私が謙遜すると連兎は間髪入れずに返してきた、全くこの人は...

「調子いいんですから」

「ん?なんか言った?」

「何でもないです!それより早く探しますよ」

「探すって?」

「ふざけてんですか?」

「ごめんごめん冗談、「鬼龍殺し」を今販売してるところでしょ」

「はい、おそらくそこが次に襲撃されますから」

「んじゃ、早速探しますか」

こうして私達は「鬼龍殺し」を仕入れたお店を探し始めたのだが

「普通に 10 分もせずに見つけちゃったよ、「鬼龍殺し」までたどり着くのには 5 時間もか

かったのに」

「しかもここって...」

「どんな運命のめぐり合わせだよ...」

連兎はあきれたような愕然としたような何とも言えない顔をしている

それもそうだたぶん私も似たような顔をしているなぜなら

「何で今晩酒吞童子と対峙するであろう場所が...よりにもよって妹の職場なんだよー‼」

連兎は遠吠えのように夕焼けに叫ぶ...それもそのはずここ「居酒屋ほっぺ」は虹風家族の三女にして私の中学からの大親友虹風胡桃(くるみ)のバイト先なのである...

「こんな面白いことってあるんですね」

「ほんとにね...居酒屋でバイトしてるとは聞いていたし、お店の名前も知ってたけど、場所までは知らなかった」

「大木野商店街と聞いた時からまさかとは思っていましたけど、ほんとに行くことになるとは」

「とりあえず中入ろうか」

「そうですね」

そして私達は入店する、すると...

「らっしゃっせえーってイリス!」

胡桃は私達の来訪に驚くとその勢いで私に抱き着いてきた

「ちょっくるみ...くるし...い」

「えっあごめんつい嬉しくなっちゃって」

「へえーお姉ちゃんの来訪がそんなにうれしかったかー」

連兎はニヤニヤしながら胡桃に話しかける

「それで、イリスは何の用事?」

「アレー?胡桃さーん?無視?流石に無視は傷つくなー?」

「何かの調査?それとも私に会いに来てくれた?」

連兎を華麗に無視しつつ私に質問を投げかけてくる。

「ねえ...何か反応だけでも」

「ん」

「...(半泣き)」

あまりの胡桃の冷淡っぷりに連兎も結構泣き出しそうになっている

「胡桃、流石に連兎が可哀想もっとまともに反応してあげて...?」

「で...要件は何?くそ姉貴」

「...(ぱあ)」

やっとまともな反応をもらえたからか連兎の顔は一気に明るくなった。

「あーまず酒吞童子って知ってる?」

「うん、なんかお酒を無償でよこせと脅してくる人でしょ。しょーみいつうちに来るか分かんないからちょっと怖いんだよね」

「あのさー言いにくいんだけど、多分今日ここ来るよ」

「はあ⁉どういうこと⁉」

胡桃は驚きを隠せないようで動揺している。無理もない、今商店街を騒がせている正体不明の怪物がこれから来るよなんて言われたのだ...

「ちょ、くそ姉貴悪い冗談はやめてよそもそも何を根拠に...」

「今日ここに鬼龍殺しが入荷するでしょ多分それ狙ってくる」

「は?そんなのわかんないじゃん‼ただの偶然かもしれないし」

中々現実を見ようとしない胡桃、これだけでも酒吞童子が商店街にとってどれだけ恐ろしい存在かがひしひしと伝わっている。

「あら?お客さん?」

そんな話をしていると後ろから来た野太い声が聞こえる。

「あっ店長」

胡桃がいち早く反応する、どうやらこの人が店長らしい

店長は正に細マッチョっといった体格で顔もかなりのイケメンだ

「オネエだ」

連兎はぼそっと呟く

「ちょっ失礼ですよその辺気にするにする人もいるんですから」

「いやいや別に気にしなくていいわよ特に気にしているわけでもないわ」

店長はきさくに許してくれた、良かった優しい人で

「その様子だとただのお客ではないらしいわね」

「はい、“私“の可愛くてかっこよくて頭もいい最高の“私“の親友のイリスとくそみたいな姉貴の連兎です」

明らかに偏った紹介をしている。そして胡桃がなんか怖い

「それで、二人が来た理由なんですけど...」

それから胡桃は連兎から来た内容をそのまま話した

「あら...それは大変ね」

「なのでできれば鬼龍殺しの販売をやめてほしいのですが」

「それは無理な話なのよ、鬼龍殺しは息まで酒気を帯びるといわれている極上のお酒なのよ今更なしにはできないわ」

「残念」

「なら連兎さんたちに護衛頼もたのもうかしら、それならいいでしょ」

「それなら勿論‼」

こうして私達は酒吞童子撃退のための準備を着々と進めていく...

とは言え来るまでの時間マジで暇なのでほぼお店の手伝いをしていた。

「あっそうそう聞きたかったんですけど」

「何?」

私は小休憩の間に連兎に質問をするどうしても聞いておきたいことがあったのだ

「何で胡桃ってあんたにあたりきついんですか?」

「あーそれは多分、いやこれ言っていいことなのかな?イリスも気づいてないし、私から言

うのも野暮なんじゃ」

連兎が小声でなんかつぶやいている、複雑な家庭事情かなんかがあるのだろうか

「いや、言いにくいことに事なら別にいいんですけど」

「いやあれだよ?別に複雑な家庭環境とかではないよ?」

「そうなんですか?だったらなんで?」

「まあ多分嫉妬なんじゃないかなあ?」

「嫉妬?胡桃が連兎に?何故?」

「あ~こりゃ全然わかってないな(小声)」

「何か言いました?」

さっきから連兎に上手くはぐらかされてる気がする。

「もーそんなはぐらかさないで早く教えてください‼」

「待ってそれは私から言うべきことではないというべきかあまりにもイリスが鈍感というべきか」

「なんか今私サラッと罵倒されました?」

こんな口論をしていると

「うわああああああああ‼酒吞童子だ!逃げろ!」

その声を聞いた私達は急いで声のする場所へ向かう

そしてそこにはたくさんの酒瓶を紐で腰に括り付けている 11 歳ほどの背丈の少女がにやりと笑い、店長に語り掛けていた

「このお店のお酒全部ちょーだい」

「渡すわけないじゃない」

店長が気丈に振る舞う

「だよねえーだったら」

突然店長に飛び掛かり息を漏らしながら酒吞童子は囁く

「ねえこのお店のお酒全部ちょーだい」

するとさっきまで気丈に振る舞っていた店長が急にぼーっとした顔をしながら告げる

「ええ、いいわよ」

「やったあ!それじゃあ案内してね」

酒吞童子はにやりと笑いながら案内をする店長についていく、まずい!このままだと!

「ちょっと待ったー!」

もう駄目だと思ったその瞬間連兎が大声で静止した。

「何い?別に本人がいいと言ってるんだからいいでしょー」

「本当に本人の意思ならね...」

「は?どういうこと?」

「つまり、今の店長には本人の意思なんてない、なんたって何も考えられなくなるぐらい酔

わされてるんだから」

「ウゲッ⁉」

連兎の推理酒吞童子はいかにもな反応を見せる。

「酔わされてる一体どういうこと?」

少し遅れて駆けつけてきた胡桃が問いかける

「ああ、酒吞童子は吐いた息は酒気を帯びている」

「はあ?息にお酒が?んなわけないでしょ」

「そのんなわけないがあり得るお酒ひとつだけあるでしょ」

胡桃が合点が行ったかのような顔で告げる

「鬼龍殺し!」

「そう鬼龍殺し、あのお酒は息まで酒気を帯びるといわれている最高級のお酒、流石にずっと酔わせ続けられるわけじゃないだろうけど、お酒をとる時間確保までなら十分でしょ?」

「あっちゃー全部ばれてんじゃん、だったら」

そういうと酒吞童子は深いため息を吐く

「早く口と鼻をふさいで‼」

そういわれた私と胡桃は素早く口と鼻をふさぐ

次の瞬間元々ほっぺにいた客や騒ぎを聞きつけて来ていた野次馬などの大勢の人達が酒の飲み過ぎでべろんべろんに酔ったように恍惚の表情を浮かべていた。

「うそッ...こんなこともできるの?」

「つくづく化け物ね」

「アハハここまでは予想外」

私たちは三人とも苦笑いを浮かべる

「ちっ、ねえみんな」

酒吞童子はわざと大きい声で叫ぶように告げる

「あいつらつぶして」

その声を聴いた人達はすぐにこちらを向き徐々に迫ってくる

「ちょっとこれやばくない?」

「ちょっどうするんですか連兎」

私と胡桃は凄く焦るしかし連兎は余裕な態度で酒吞童子に話を持ち掛ける

「ねえ酒吞童子さんこのまま私たちを叩いてもいいけど、そうなれば確実に傷害事件になるよ?それはまずいんじゃない?」

「何が言いたい?」

「このままじゃ両者とも得策じゃない、だから勝負しない?」

「勝負?」

「種目はそうだねえ、飲み比べとかどう?絶えず飲み続けて 1 分間酒を口にしてなかったほうの負け」

「飲み比べかあ、私はいいよ、でもハンデはいらないの?はっきり言って私に有利すぎるケド」

「じゃあお言葉に甘えてハンデをもらおうかな?こっちで飲めるのは...」

連兎がこちらのほうを見てくる

「私は 19 なのでまだギリギリ飲めません」

「私はもうはたちだから...まあ飲める...」

私たちはそれぞれ答える、しかし胡桃の声がややぎこちなく感じる

「ってことで私が倒れたら胡桃が続投するこの形式でお願い」

「ふふ、たった二人か案外楽勝そうだね」

「今のうちに言ってろ」

互いに煽りあいながら席に座る二人、私は互いに酒を渡す

「勝ったほうが負けたほうにいうことなんでも聞かせられることにしよう」

「いいねえそのルール」

「じゃあ」

「飲み比べ」

「「開始」」

二人とも酒をぐびぐびと飲んでいく、互いに一歩も引かない飲みあいに思わず圧倒される

「ハあああああ」

「アレ?もうバテた?」

「はっお酒なら毎日飲んでんだよ」

さらに二人は飲み時続ける

「酒吞童子、なんであんたはみんなからお酒を奪おうなんてした」

「そんなこと聞いてどうなるの?」

「単純に知りたかっただけだ」

「そっかそっかなら教えてあげるよ、私はね、お酒が大好きなんだよ、でもある日気づいた、お酒が足りない...全然足りない...って」

「へーそれで奪うことを思いついたんだ」

「そそ、最初のうちはこうやって勝負して奪ってたんだけど、そしてそのうち鬼龍殺しを使えばわざわざ勝負しなくて簡単にお酒を手に入れられることに気づいた」

「流石酒吞童子といわれるだけあるね...うっぷ」

連兎に限界が近づいている、いくら毎日酒を飲んでるからって流石に酒吞童子には及ばない。

「やっぱり...私が行くしか?いや無理だ...」

「胡桃...もしかして無理してる?」

「うん、実は結構弱くてさ...それが原因で大学の飲み会とかにも参加できなくて、そんな自分を変えるために居酒屋で働き始めたんだけど全然成長できてないの」

「胡桃...」

考えてた可能性の中で一番最悪なのが現れた。

「まずいこのままだと負けちゃう」

「ごめん!私のせいで!」

「いや...胡桃は悪くないよ!好き嫌いは誰にだってあるし」

私達の話し声はあちら側のにも聞こえていたようで

「おいおい探偵、もう一人はやる前に脱落しちゃったぜ?」

「どうかな?私はそうは考えていないよ?」

「は?」

「胡桃!」

連兎は胡桃に呼び掛ける

「なに?」

「昔のこと覚えてる?」

「昔?」

連兎は胡桃との過去を話し始める

10 年前の私は毎日何にも考えずボケーっとしながらそこら辺をうろついているような典型的なクソガキだった、ある日そんな私はふと気分転換に公園をうろついていた。しばらく徘徊していると泣いている少女をふと見つけた。

「なんで泣いてるの?」

私は少女に問いかける、すると少女は泣きながら半ば懇願するように事情を話し始めた

「あのね、あのね、風船がね、あのでっかい木のてっぺんにね、引っかかっちゃったの」

その木は全長6~7mはある樹木で、少女の見た目は外見的には小 2 程、とても上って取りにけるような高さではないことは当時中 1 で期末テストが最下位だった私でも容易に想像がついた。

「この高さかー私でも絶対にとれないよなーこれ」

因みに当時の私の体育の評価は2絶対に無理である。というか 5 あるやつでも出来るのかわからないぐらいにはその木の高さは圧倒的といっても差し支えなかった。

「うえええええええん」

少女が再び泣き出す、よほどあの風船がお気に入りなのだろうとは言え私にもどうすることも出来ない為何とかなだめることしかできない。しばらくこんなやり取りが続き気づけばもう一時間は経っていた。

「ああホントどうしようかな」

私が頭を抱えていると

「私がとる」

後ろから聞きなじみのある声がする、胡桃だ。この頃の胡桃はまだ小3ほどの年齢で少女ほどの年齢ではないにしろとてもあの木を登りきるなんて不可能だ。私は必死になって彼女を止める。

「胡桃さすがに無理だよ...あれは、それにあんた高所恐怖症じゃん」

「じゃあ今ここで泣いてるだけの少女をそのままにしておけとでもいうの?」

胡桃から強めの語気でそう返された。ずるい、そんなこと言われたら私は何も言い返さないではないか私は少し頬を膨らませむすっとした態度をとった。今思うとなんか恥ずかしい

「よっと」

そんなことをしている隙に胡桃が木に登り始める。しかし 3 メートル上ったか上ってないかぐらいの高さで落ちてしまう

「ほら言わんこっちゃない!」

私はすぐに胡桃に駆け寄る、多少擦りむいた程度のけがだったが一応 3 メートのところから落下したのだ体にどんな後遺症が残っていてもおかしくない

「取り敢えず一旦落ち着いて」

「まだ...まだ!」

胡桃は立ち上がり私も抑えられないような力で私を振り払い再び登り始める。自分の体力のなさと貧弱さが情けない。それからも何度も何度も登り続ける。そして

「とれたあ‼」

苦節 1 時間遂に胡桃は風船を捕まえ下すことができた。

「おねえちゃんたち、ありがとお‼」

少女が私達にお礼を言いながら帰る。

「全く何であんな無茶した?」

「やっぱり泣いてる子を見過ごせないじゃん」

あの時の胡桃の言葉は今でも覚えてる

「だから胡桃‼あんたなら‼絶対に大丈夫!だって困ってる子を見過ごせないんでしょ?」

そういいながら連兎は地に倒れる

「連兎‼」

「あらあらついにリタイアっぽいねどうする?お酒飲めないんでしょ?」

酒吞童子がここぞばかりに煽ってくる、すると

「私は行くよ...」

胡桃が力強く宣言する、その姿にはさっきまでの弱弱しさはもうなくなっていた。

きっと連兎の言葉が心に刺さったのだろう、胡桃が今、リングに上がっていく

「へえ酒が弱いあんたが私に勝てるとでも?」

「確かに勝てないかもしれない...」

「だろお?」

「でも、負けない!」

「どっちも同じ意味だろうが!」

互いに酒を飲み始めるしかし、胡桃はすぐにぐらつき始めるやっぱり本当に彼女はお酒に弱いのだ。でも...それでも胡桃は食い下がらない、もうあたりに飛んでいるお酒の匂いだけでも酔ってしまいそうなぐらい闘いは熾烈を極めるものとなっている。

「はあ、はあ、はあ、うっぷ」

「そろそろ限界も近いようだねえうぷっ」

「そっちも」

さすがの酒吞童子も二人相手となると無理もあるのだろうもうかなりふらついている。しばらくの飲み合いが続いていると

「ぅ...」

遂に胡桃がたおれてしまう

「まだだ、まだ飲める」

胡桃は再び立ち上がりお酒を飲み始める

「もう無茶だよ!これ以上は!」

彼女は顔が赤く染まりいつつぶれてもおかしくないまでになっていた。

「駄目!私がここでつぶれたらこのお店や商店街が完全につぶれちゃう...だから飲めないなんて言ってる余裕はない!」

力強く胡桃は宣言し無理やりお酒を胃に流し込む。しかしそんな様子だったからか

「うっっっ」

今度こそ勢いよく机に倒れる胡桃

「こてで私の勝ち確定だなあ」

ここまでしても勝てなったのか...いや

「......」

高らかに宣言した酒吞童子はそのままつぶれ倒れるすると

「まだ!倒れな...い」

胡桃が起き上がりルールの 1 分が経ち胡桃が勝利した

そのあと私たちは眠りに着くように倒れた。胡桃はもちろん私にもいろいろ限界がきていたらしい、私が慌てて起きた後には酒吞童子の姿はなかった約束は守るタイプの人らしい、そして飲みに飲みまくった連兎と胡桃はまた入院する羽目になりしばらくお酒を控えるようにとドクターストップまでかけられたらしい、その後 1 週間ほどで二人は退院、ちなみに医者は連兎がまたお酒を飲みだすことを懸念していたがその心配はないと思う。何故なら...

「連兎―、北村さんからお礼のお酒、届いてますよー?飲みます?」

「いやいいよ、今ドクターストップかかってるし...」

「あれ?珍しいですね、普段ならドクターストップがなんぼのもんじゃいとか言いながら飲みそうですけど?」

「そうかなあ?普段からそんな飲んでないと思うけど」

明らかに連兎は動揺しながら話している私はやっぱりと思い一つの仮説を連兎に話す

「連兎、もしかして前の一件でお酒若干トラウマになっていません?」

「そそそそそそそんなわけけけけけけななないじゃんんんんん」

アホみたいの動揺してる。

「だったら飲んでみてみてくださいよー」

「いやあそれはちょっと」

ここまで縮こまった連兎は初めて見たしなんかかわいい

「ほらほらあお酒ですよー」

「ちょっ近づけないで」

なんかどんどんいじめたくなる小動物的なかわいさを連兎から感じる

私はどんどんお酒片手にどんどん迫っていく

「お酒だぞー」

「イヤ、イヤお酒イヤアアアアアアアアアアアアア!もうお酒はこりごりだああああああああ」

その後連兎は猛スピードで逃げ出し朝まで町内を駆け回っていたらしい、半泣きでかんかんに怒りながら帰ってきた連兎を見てやりすぎたなーと私もちょっと、反省した。



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