第1.5話「退院 1 週間前と家族関係」
あのストーカー事件から三週間程経ち、私は既に退院、連兎も退院まで後 1 週間いうところまで来ていた。私は退院以降ほぼ毎日連兎の見舞いに行っている。理由としては特にこれといったものはないが彼女が居ないと事務所も回せないし何より暇なのだ。
「後 1 週間で退院かあー思ったより早かったなー」
「これでやっと仕事が再開できますね」
「でも退院したらまず髪切らせて」
連兎は入院中に伸びに伸びた真っ黒な髪を自分の指にぐるぐる巻きつけて遊んでる。この病院の名誉の為に言わせてもらうがこの病院にはちゃんと週一で来る出張理髪店があり、ふつうはそこで髪を切る、ではなぜ連兎のショートヘアーは伸びにのびっきて完全にロングになってしまったのか...そう連兎が普通ではなく大のひねくれものだったからだ。
「まあ入院を気に髪型変えるわ」
奴はこう言って散髪を勧める私の提案をことごとく断った。入院を気にイメチェンをする馬鹿がどこにいるのだろう別に入院は夏休みでも何でもないのだ。
「ほら結局しっくりこなかったんじゃないですか。ちゃんと私みたいにしっかり散髪しておけばよかったんですよ」
私は金色に染めた自慢のロングを華麗に振って見せる
「なにおう!そっちだってロングじゃん!そんなの切っても切らなくても変わんない
よ!」
「はあ~?あんたの中にはショートとロングの二択以外何もないんですかあー?」
負けじと連兎も反論してくるそれに私も反論しこうして私たちの議論がヒートアップしていって...
「はあはあはあ」
「もうなんかどうでもよくなってきました。」
「私もー」
もう二人とも息切れしまくって連兎はベットに私は床にそれぞれぐったり倒れる、看護婦さんにで見られたら怒られそうだ早いとこ起き上がろう、多分 1 時間ぐらい議論していたと思う。
その後しばらく二人でくつろいでいた。すると連兎がちょっとした質問をしてきた。
「そういえば私の家族とあったりした?」
「いや見てませんね」
連兎には 5 人の姉妹がいる一人は弟らしいけど、私がこの久遠探偵事務所で働いているのも連兎の妹で 3 女の虹風胡桃(くるみ)の紹介によるもの、まあなんかいろいろあって大学を退学した私にこの探偵業を薦めてくれた。まあ実際は私を連兎のお目付け役にしたという認識のほうが正しいらしい...働いてみて連兎のあまりのがさつさに私はすべてを察した、とわいえ今の仕事は楽しいし紹介してくれなければニートになっていたところなので本当に感謝している。
「でもわざわざ会ったか聞くってことは来てはいたんですか?」
「そそ、みんな 1 回は顔出してた、おねえに関してはイリスにも引けを取らない回数来てる。」
「おねえ...確か世良(せら)さんか」
虹風家の長女で確か大企業の秘書かなんかをしていたはず...正直一度お見舞いに来ることだけでもかなり難しそうなのに...
「よっぽど家族想いなんだね世良さん」
「まあ家族想いっていうか想いすぎてもはやシスコンレベルっていうか...」
連兎は乾いた笑いを浮かべながら返事をする。
「そう言えばイリスにはいないの?兄弟とか姉妹とか」
「ええ、一人だけとっても頼れる兄がいます。」
私は自信満々に答える、私のおにいちゃんはだらしない、部屋は散らかすししょっちゅう授業もさぼっていた。でも私にとっては自慢の兄だった。
私は幼い頃両親を亡くしている、それ以来母方の祖父母に育てられた。正直私には両親の記憶がほとんどない、両親がいない生活が私にとって普通だった、全然さみしくもなかった、きっとそれはお兄ちゃんのおかげだろう。お兄ちゃんは両親が死んだ現場に居合わせていた。14 年前に開催されたツアー“わくわく夢の星を見つけようツアー”、これにお兄ちゃんと両親は参加していた、お兄ちゃんは出発の瞬間まで私を連れていけなかったことを悔やんでいたらしい、当時の私はまだ5歳で急な発熱により一緒に行けなかったらしい。私をおばあちゃんの家に預け三人はツアーに行ったらしい、でも結局私はそのツアーに行かなかったほうがよかった事が後から分かった。事故が起こったのだ近年まれにみる大事故で生き残ったのはお兄ちゃんを含め僅か 6 名の子供達。生きているのが不思議なぐらいな状態で全員発見されたらしい。
お兄ちゃんが戻ってきたのはその事件から 1 週間後の事であった、それ以降私たちはずっと母方の家で暮らしていた。おばあちゃんもおじいちゃんも忙しいので授業参観なんかこれなかった、だからお兄ちゃんは授業をさぼってでも私の授業参観を優先してくれた。運動会も学芸会も必ず来てくれたし、高校に入ってからは毎日お弁当も作ってくれた。反抗期ゆえの八つ当たりも全部受け止めて優しく微笑んでくれた。
「本当に馬鹿みたいに頼れる兄貴です」
「へえーお兄ちゃん大好きなんだ」
連兎は優しく私に微笑んだ
「授業参観にもよく来てくれてたみたいだし」
「あ、え?なんでそのこと知って」
体の内側から恥ずかしさがどんどん募っていくのを感じる。
きっと今の私は顔をとっても赤くしている。
「さっきから心の声駄々洩れだよ?ブラコンイリス」
「ちちちちちち違います!あれはただの感謝の気持ちであって私がブラコンということにはならないです!」
「顔真っ赤だよ~」
やっぱり私の顔は赤くなっていたみたいだ。
「もういいです帰ります早く傷を治して復帰して来てください失礼しました」
「じゃあねー」
最後まで軽くあしらわれた気がする。
もういい明日は絶対来ない!私はそう決意して病院を出る。
結局、事務所にいてもやることがないため明日も仕方なくお見舞いに来てしまう私だった..
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