第2話

『真瀬海斗様、郵便物を受理いたしました。』


肉声と聞き分けのつかない合成音声と共に、領収書のデータを受け取り、郵便局を後にする。データでのメッセージならわざわざ外に出る必要ないのだが、紙を転送するとなるとデータ上だけでのやり取りでは完結はしない。こうして手間をかける必要があるのはまだまだ技術が進歩できる余地とも言えるだろう。


「お!おーい!真瀬ー!」


かすかにした声の方を振り返ると、約50メートル先、俺が薄目を開けてやっと見えるくらいの所に男が1人立っている。

以上な視力に気さくな雰囲気を持つ友人を、真瀬は1人だけ知っていた。


「佐竹か。久しぶりだな」

「全くだよ、最近はずっとからなあ〜」


気がつけばあてもなく2人は街の中をぶらぶらと散策していた。車は通るがどれも無人、大通りなのに人の通りもほとんどない。労働や教育を受ける必要がなくなり娯楽が溢れかえっている現代では、移動する必要なんて皆無に等しい。

佐竹が外出している理由も、仮想生成装置にのめり込みすぎが故に息抜きを必要としているということだった。


「あれはすごいぜ。自分が望んだ事が、寝るだけで実現されるんだ。しかも五感は全て鮮明にあって……俺は現実では目しか効かねえが、匂いとか味とか触覚とか、特にうまい飯とかを食べるときなんかは、もう現実よりもで済ませちまってる」

「へえ、人間の五感も相当研究し尽くされてきたな」

「そうなんだよ!もう俺はほとんどの時間を仮想の世界で過ごしてる」


真瀬が相槌を打つと佐竹はどんどん得意げになって、自分が発明したかのように流行りの娯楽の話をしていた。

人間の究極の幸せが手に入るとか、もうこの世界なんて必要なくなるとか……最後の方には相槌を打つ気力すら無くなった真瀬に、佐竹は続けた。


「なあ……お前も個人で研究開発なんてやめてさ、仮想生成装置で……」



「それだけはだめだ」



「……ごめん、そうだったな」

「こっちこそごめん、いきなり怒鳴っちゃって」

「全然大丈夫だぜ、っと、もうこんなところまで歩いてきちゃったんだな」


気が付けば二人の家から2キロほど離れた公園まで来てしまっていた。ここまできてしまうと、家に帰るまでも歩いて20分以上はかかってしまうだろう。


「俺はそろそろ帰るけど、間瀬はどーすんの?」

「帰って調べたいことがある」

「―――奥さん想いなのはいい事だが、お前自身のことも大切にしてやれよ」


幸せになる手段なら、今なら他にいっぱいあるのだから。

そう言って佐竹はまた、能天気に仮想空間で起こったことについて語るのだった。

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