その後の二人、そして
あれから変わった事。それは引きこもりがちだった僕が外へ出かけるようになったこと
なぜかって?
それは、彼女は本当に雪女だったから
え?だからなぜかって?
まず、あの初めて出会った寒い寒い雪の日
ホテルを出た僕はそのまま仕事に行くため
連絡先だけ交換して一旦彼女と別れた
もしかしたらこのまま会えなくなるかもな、
なんて思ったりもしたけど、仕事が終わった
あと、彼女と会えた時はちょっと泣きそうだったけれどそれは内緒だ
そして2人で手を繋いで僕のアパートへ
それだけで内心ドキドキでニヤけそうになる
のを我慢するのに体力を消耗する僕…
いや、仕方ないですよ、耐性ないから……
そして部屋に着いて「2日ぶりだなー」なんて思いながら当たり前のように僕はエアコンの暖房を入れる
すると「ピッ」という音と共に消される
え?
僕はまた暖房を入れる。寒いもん
するとジト目の彼女からエアコンのリモコンを奪われそのまま消される
「えっと……」
「私雪女なんで」
うぉっ…!
無表情のマジトーン……
…なるほど。暖かいのはダメだと……
「え、まじか…」と思っていると
「あ、でもね?」と言って僕を抱きしめる
あわあわとなる僕をそのままギュッと抱きしめる彼女
「うふふ…ずっとこうしてあげるから♪」
くっ!!
破壊力がやばい。とにかくヤバい
「あん♪もう!待ってよ~」
あまりの出来事に動揺し、咄嗟に彼女から離れようとする僕を嬉しそうにまた抱きしめる
「つ~かま~えた♪」
もう無理。可愛すぎ。頭おかしくなる
そのまま僕たちは、まあ、その、うん…
そういうわけでまたするんだけど……
え?ああ、そうそう
なんで引きこもりじゃなくなったのか?
でしたね
それは、
外の施設なら暖房ついてるから
もちろん彼女も一緒なんだけど、恨めしそうに僕を見るその表情もまた、なんというか…
うん、可愛い………
でもいつもいつも僕に合わせてもらうわけにもいかないから、そういう時は僕の部屋で過ごすことになるんだけど、それはそれで、またくっついて暖めてくれようとするから、その、なんというか…はぁ…もう無理……
でも、
実は彼女は可愛いだけではなくて、僕のためにごはんを作ってくれたり、家の事をしてくれたり、まるで、その…奥さんみたいで…
僕も僕なりに彼女のために出来ることはしてあげてるつもりだったけど、やっぱり不安になるから一度聞いてみた
すると
「あなたは本当に優しいよ?いつも私のこと気にしてくれて、そして、想ってくれてる。私には分かるもん。だって、雪女だから…」
普段の計算されたようなあざとさは全くなく
素直に照れながら、そして少し悲しそうにそう言う彼女は本当に綺麗だった
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
それから季節は移り変わり春
ぽかぽかと暖かくなってきたな
なんて思ってると
「ピッ」
え?
「もう暑くなってきたね」
「いやいや、まだ春じゃん」
「そう?」
「しかも設定温度20℃とか早くない?」
「え?そう?」
コテン、と首を傾げる彼女
くっ!…可愛い……
「でもさ、今からそれだと夏どうするの?」
「え?帰るよ?」
「は?」
「は?」
「いやいや、どこに?」
「雪の国だよ?」
「え?なにそれ。どこにあるのさ」
「うふふ…な・い・しょ♪」
と、悪戯っぽく微笑んだ
いや、その顔も可愛いんだけど、
え?じゃあどうなるの?
それからも彼女にそれとなく聞いてみるけど
「うふふ♪」といつもヒラリとかわされ続け
気がつけば梅雨も開ける頃になった。
「はぁ…さすがにもう無理かも…」
「え?」
「あ、うん。いつもはもっと早く戻るから」
「あ、雪の国、って言ってたとこ?」
「そう。でも、今はあなたがいたから…」
俯いてもじもじする彼女の破壊力に、いつまで経っても慣れることのない僕
すると「ねぇ…」と僕に抱きつきながら言う
「一つだけ方法はあるの…」
「え?」
「私達がこれから先、ずっと一緒にいられる方法が…」
「あるの!?だったら…ん!」
僕の言葉を遮るように、彼女は僕の唇にその唇を重ねる。そして、
「でも、これはダメなの…」
「は?なんで?」
「ごめんね。本当は言うつもりなかったの」
「でもね」と、嬉しそうな、そして悲しそうな、今にも泣き出しそうな表情で彼女は言葉を続ける
「あなたが…あなたの事が、本当に好きになっちゃって…わ、私、私もう……」
そのまま僕の胸に顔を押し付けるようにして震える彼女は、余りにか弱くて、儚くて、
「じゃあ、僕はどうすればいい?」
「え?」
「君とこの先ずっと一緒にいるには、どうすればいいの?」
「だめ!」
「どうして?」
「…だ、だめだよぉ……」
「僕のこと、嫌い?」
「そんなわけないよ!」
「僕も、君の事が好きだよ?いや、違うな、君を愛してる」
「っ!」
彼女が息を飲むのが分かる
でも、どうしようもないくらい好きなんだ
誰からも相手にされてこなかった僕に微笑んでくれて、優しくしてくれて、そして包んでくれて
そんな人は今まで誰もいなかったんだ
今だって会社での扱いは変わらない
雑用を押し付けられてサービス残業ばかり
みんな僕を置いて先に帰るじゃないか
そんな僕をいつも優しく出迎えてくれたのは
君だけじゃないか
彼女は雪女?だからなんだっていうんだ
彼女は、雪子は、僕のかけがえのない、大切な女性なんだ!
「…もう…声に出てるから……」
!?
え?うそ…そうなの?
やば…恥ずかし過ぎる……
「もう…ばか……」
そう呟いた彼女にまた唇を塞がれる
でも今度は、僕も彼女を抱きしめる
すると彼女も僕を抱きしめてくれて、
暖かくて、力を込めたら壊れそうなほどに
柔らかくて、
「…はぁ…ねぇ、もう私、離れたくない…」
「うん。僕もだよ」
「だめなのに…ごめんね…好きになっちゃって、ごめんね……」
「ばか、そんなこと言うなって」
「だって、だって……」
「ねぇ、聞かせて?」
「え?」
「ずっと一緒にいられる方法を」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ずっと一緒にいられる方法
それは僕も雪女になること
あ、僕は男だから雪男か
「ね?無理でしょ?」
「え?なんで?いいよ?」
「はい?なんで即答なのよ!」
「え?なんで?」
「いやいや、だからなんではこっちのセリフだってば!」
「もう!」と怒った彼女も可愛い
ああ…僕もたいがいだな
もう君のいない生活なんて考えられないよ
「で?どうすればいいの?」
「はぁ…まったく、本当にいいのね?」
「いいよ。君とずっと一緒にいられるなら」
「っ!…もう!……もう…ばか…」
呆れたように「ばか」と言った後、嬉しそうに「ありがとう」って口が動いてたけど、それは見なかったことにするね
「私の冷気をあなたに注ぐの。それをあなたが受け入れれば、もうあなたは……」
「分かったよ。じゃあ、お願いできる?」
「分かった。最後にもう一回だけ聞くよ?
本当に、本当にいいのね?」
「ああ。ずっと一緒にいよ?」
「ええ」
彼女は微笑んで、そして唇を重ねてきた
そのキスはこれまで何度もしてきたのとは違っていて、たぶん彼女が言ってた冷気?が入ってきてるのが分かって、でも、暖かくて
「ん…」
気がつけば僕は夢中で彼女を抱きしめていて、彼女も抱きしめてくれて、それが凄く嬉しくて、心地よくて
「はぁ…。もう!そんなにされたら…、
その…したくなっちゃうじゃない…」
恥ずかしそうに照れながら言う彼女は、
やっぱり誰よりも可愛い
でも、あれ?なんか暑っ!
「これで、もうあなたも私と同じよ?」
「あ、僕も雪女…じゃなくて雪男になれたってこと?」
「そういうこと」
「じゃあ…」
「ええ、行きましょ?」
クスッと笑う彼女と手を繋ぐと、今までは
少しひんやりと冷たく感じたその手は暖かくて、柔らかくて
「もうこれからはずっと一緒よ?」
「もちろんだよ」
この先何十年、もしかしたら何百年も彼女と一緒にいられるのかもしれない
そう思うと僕は嬉しくて、この先の長い長い時間が楽しみで仕方がなかった
可愛い彼女は雪女 月那 @tsukina-fs
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