第21話 後輩の部屋を訪れた。
「でっけぇ~……」
「ひぇ~………」
我が家から一駅離れた所に存在する、この県でも指折りの一等地。
江本の自宅はそんな場所の中でも一際大きなタワーマンションの中だと言う。
うちのちょっと小綺麗なくらいのマンションとはえらい違いだ。
「……あいつすげぇな……」
俺はオートロックのインターホンを鳴らす為に江本にマンションの前に着いたと連絡を入れる。
すると、江本から着信が入った。
「江本?どうしたらいい?」
『あ、先輩!ご足労ありがとうございます!今から私そっちに向かいますから待ってて下さいね!』
「おっけー、助かるわ。んじゃ切るな」
『はい!!』
通話の切れたスマホをポケットに入れると、手を繋いでいたひなのが飛び跳ね始めた。
「パピー!超近未来みを感じるぞ!!」
「なにそのギャルっぽい喋り方」
「ひなは影響を受けやすいタイプなのだ」
「誰の影響だ誰の」
俺達がそうして5分程待っていると、エントランスの奥から江本が小走りでやって来た。
「先輩~!あ、それに先輩の娘っ子」
「急にすまんな」
「ひなはひなだぞ!浮気相手」
「だ、誰が浮気相手ですか!本妻です、ほ・ん・さ・いぃ!!」
「じゃあお前は盆栽だ」
「なんで!?」
子供相手になにやってんだこいつ。
「江本、盆栽が好きなのは分かったから案内して貰えるか?」
「いや全然好きじゃないんですけど。はぁ……とりあえずこっちです……」
そうして俺達は江本に案内されるがままエレベーターに乗った。
まさか最上階にでも住んでいるのかと思ったら、江本の部屋は2階の角の部屋だった。
特に眺めが良いとかは無いが、何と言うか豪華さが凄い。
まず部屋に入るまでが高級ホテルの廊下って感じで、マジでこれ家賃いくらなんだろ……
「先輩、ここが私の部屋です」
「お、おう。それじゃお邪魔します……」
「邪魔するぜ」
丁寧に靴を揃えて脱いだ俺達はリビングの方へと通された。
「パピー……盆栽の家凄いな……うちとはえらい違いだ……」
ひなのが萎縮してしまうのも無理は無かった。
マンションだと言うのに信じられない程の広さで、敷き詰められた絨毯はおそらく俺達のような平凡なサラリーマンには想像もつかん値段だろう。
「ここまで来ると羨ましく思うのもおこがましいかもな。江本……お前一体何者なんだ……?」
江本が何やらネットの有名人で、Vtuberの事を教えて貰えるかからここ来たんだが……
こいつは予想以上の人物かも知れん。
俺の質問に江本は答えた。
極めて不機嫌そうに。
「前にも言いましたし思い出せば良いんじゃないですかー。どーっせ私の事なんか興味無いんでしょうけど」
「なに拗ねてんだよ」
「……別に拗ねてません」
「拗ねてるだろ。それにな、俺はお前に──」
──カタン。
俺の言葉を遮るようにリビングの奥から物音が聞こえた。
「な、なんの音だ?」
「あれ……先輩の娘さんは……?」
「あ!あのバカ!今度は何をやらかすつもりだ……!!」
「ま、待って先輩っ!そっちは──」
俺は物音がする方へ走って行くと、すぐにひなのを見付けた。
「こらひなの!お前人様の家……で……」
「……ひょえぇぇえ~……」
「……遅かったか……」
後ろからやって来た江本は、リビングの奥にあったもう1つの部屋を見て固まっている俺達の背中をつついた。
「はぁ……人様の家を勝手に覗くとかサイテーですよぉ」
「す、すまん……だけどお前これ……!」
「すみませんでした盆栽」
「良いですよ……あと盆栽言うな。やれやれ──」
俺達が目の前にしたのは積みに積み上げられた札束の山。
部屋一面を埋め尽くす程大量の現金は、俺が一生掛かっても手にすることはないであろう額だった。
「総額およそ3000億。私が今手元に置いている現なまです。先輩、小娘、これを知ったからには生きて帰れると思うなよ……???」
※
小さめの部屋の中に積み上げられた現金を見て、ひなのが江本に敬礼のポーズを取った。
「い、今までのご無礼どうかお許し下ちゃい!」
……こいつ、将来長い物に巻かれるタイプにならんか心配だ。
今まであんなに大物感を出してたのに……
対する江本は魔王のような悪い顔でひなのを見下ろしていた。
「はっはっは!我の力を思い知ったか!!」
「ははーーーっ!!」
なんだこの茶番。
お前ら意外と相性良さそうだな。
いやだがそれにしたって5000億だって……?
そんな額、現金化出来るものなのか?
しかもこんな部屋に丸ごと置いちゃって……
「お前……これこんなとこに置いてて良いのか?盗まれたりってのもるが災害で失くなるかも知れないのに……」
「良いんですよ。私、超現金主義者なんでこれ見てると落ち着くんです。それに別に失くなっても良いんです」
「こ、こんな大金がか?」
「えぇ。働かなくても生きていける貯金はきちんと別の所に入れてありますし。これは私の精神安定剤みたいなものなんです」
「へぇ……」
ならなんでうちの会社で働いてんだ?
そうも思ったけどそれがこいつのポリシーなんだろう。
まだ20代なのに末恐ろしい奴だよ。
佐々倉さんもいつかこの額を稼ぐようになるのだろうか。
夢しかねぇな……
俺達がひとしきり驚いた後、江本は両手を軽く叩いて今日の目的を聞いてきた。
「さてと、そろそろ先輩達がうちに来た理由を教えて下さいよ。ちゃんとした理由ならきちんと帰してあげますから」
「それ、理由が不真面目ならどうするつもりなんだよ」
「決まってるじゃないですか~!」
江本は
「お子さんの前じゃ言えないような事ですよ……♡」
「あーパピー!!浮気は許さんぞーー!!」
「か、勘弁してくれ!!」
※
「Vtuberとして売れるには、ですか?」
俺は江本の家の高級そうなソファに腰掛けて隣に座る彼女に相槌を打った。
「そうだ。お前Vtuber事情に詳しいんだろ?もし撮影とかもしてるならその様子とかも見せて欲しいんだ」
俺が今日ここに来たのは恐らく佐々倉さんよりも人気のある、こいつのVtuberとしての活動を見せて貰う事だった。
ここまで稼いでるんだ。
俺の期待は膨らむばかりである。
だが江本は疑うような眼差しで膝の上に肘をついて俺を見上げた。
「先輩、Vtuberにでもなるんですか?」
「い、いや俺はならんけどちょっと……な」
「……じーーー……」
なんだよそんな睨んで。
江本はため息を吐く。
「はぁ……言っておきますが"MiyaBi"の為という事なら協力しませんよ」
「な、なぜ……?」
「先輩分かりやすっ。いやそもそもですね?一視聴者でしかない先輩に何が出来ると言うんです?」
「うっ」
まさか江本に"MiyaBi"の正体はこの前会ったJKでその子が困っているから知恵を借りに来たとは言えん……
いやまぁ言っても良いんだが、こいつVtuberみたいだし……ほら何て言うか微妙じゃん?
それにしたって何で"MiyaBi"の手伝いは嫌とか言うんだろ。
まさかアンチか!?そうなのか江本!?
「……何か失礼な事考えてるでしょ」
「め、滅相もない」
「とりあえず嫌と言ったら嫌です。先輩、用はそれだけですか?」
「……そう……だけど」
江本はすると俺の肩をポンポン、と叩いてにこやかに笑った。
「なら先輩、私と一緒に配信してみましょっか!!」
俺はその言葉にこう返す事しか出来なかった。
「はい???」
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