第19話 りょーたへ。


「……ごくり」


 深夜、仏壇の前。


 見付けたあかりの遺したらしい手紙を手に取った俺はしばらく動けずに居た。


 中身もまだ見ちゃいない。


 そもそもこれは本当にあかりが書いた物なのか?


「……どう見てもあかりの字なんだよなぁ……」


 あいつの綺麗な字は良く憶えている。


 まだ結婚する前、記念日にかこつけてよくラブレターを書いてくれてたんだが、その時と同じ字だもんなぁ。


 間違いない、これはあかりの遺した物だ。


 だがここで一つ疑問が生まれる。


 あいつはいつ、どのタイミングでこれを仏壇の、しかも自分の遺影の裏なんかに入れたのか。


「……ホラー過ぎるだろう」


 お盆だからってイタズラしに帰ってきたのかよ。


 いや、そんな事はある筈ない。


 幽霊なんか居やしないんだよ。


 俺は絶対に居ないって断言してやる。


 もしも……もしも居るなら会わせてくれよ。


 言ったろ?

 幽霊でも良いから俺はあかりに会いたいんだよ。


 これまで一度だって会えた事はないんだ。


 だから否定してやる。


 ──幽霊は居ないと。


 だからこの手紙はあれだ、ひなのが俺の持ってるあかりからの手紙を勝手にここに置いてたとか、そんな所だろう。


 ……この便箋に見覚えは無いが。


 ま、いつまでもこうして居ても仕方ない。


 中身に見覚えのある物だったらそれで良し。


 見覚えの無い物なら……それこそ天国からの手紙と言う奴だ。

 俺が今日から幽霊を信じるってだけの話で終わる。


「良し……!」


 俺は躊躇いながらもゆっくりと手紙を開いた──





 りょーたへ。


 この手紙を読んでいる頃は~ってやつ、本当に出来ちゃったわぁ、ひひ。


 一応言っとくと、これを書いてるのは病院に一時帰宅を許された日だよ。

 今日のりょーた、泣きすぎておもしろかった~!!


 はてさて、一体この手紙を読む頃にはりょーた達は何歳になってるのかしら。

 わっかんないとこに隠したからなぁ~。


 ズバリ、当ててあげよっか?


 ひなのがそろそろ5歳になる頃くらいでしょ!


 良い線行ってると思うんだけどどー?


 あたしが居なくなって寂しくなり出したりょーたが、女連れ込んでその女がこれを見付けると予想してるんだけど当たってる?


 当たってたらそーだなー……

 こっちに来た時2発くらい殴ってもいい?

 もう殺せないだろうし。


 ひひっ、冗談だけどね。


 りょーたはあたしが居なくなっても、ずっとあたしを心に決めてるとか言って独り身で居そうだし。


 さ、りょーた君。

 いい加減あたしの事は忘れて前を向きたまえよ。


 ひなのの為にも母親は居た方が良いしね。


 ……あー、やっぱり手紙に嘘を書くのは良くないかな。


 本当は、本当はさ……りょーたをどこの女にも取られたくない。

 ひなのの為だからってそんなの許せない。


 ……だけどりょーたが一人寂しく過ごしてるのも同じくらい嫌かも。


 りょーたはさ、あたしにいーっぱい、本当死んで悔いなしってくらいに幸せをくれたからさ、あたしと同じくらい幸せになって欲しいの。


 あ、でも無理か?

 あたしが貰った幸せを越えるなんて絶対できっこないもん!


 だからねりょーた。

 

 今までいっぱいありがとう。


 あたしが死ぬ時にお礼を言える状態か分かんないしここにちゃんと書いたからね!

 何も言われてねぇ……とか拗ねんなよ!


 でもね……悔いはあるんだ。


 それはあなた達2人を置いて死んでしまう事。


 りょーた、ひなのをりょーた一人に任せてしまって本当にごめんなさい。

 

 約束、あたしが破っちゃったね……


 出来る事ならりょーたと2人でひなのを幸せにしたかった……!!


 もっと……もっとずっと一緒に居たかった……!!


 あたしもひなのの隣でりょーたと3人でさ、幸せに……!!


 ……ごめん、愚痴ばっかり書いちゃった。


 まだまだ書きたい事、伝えたい事いっぱいあるのに……


 でも書き出したら止まらないや。

 

 ……良し!


 これはあたしからの最期のメッセージだもんね。りょーたの為になる事書いて終わりにするね!


 今これを読んでるりょーたは幸せかい?


 どーせぼろぼろに泣きながらこれを読んでるんだろうけど幸せから来る涙なら許す!思いきり泣けい!!


 寂しさとか後悔から来る涙なら早く止めてよね。

 あたし、りょーたのそんな姿見たくないから。


 きっとこれを読むまでに辛い事大変な事いっぱいあったよね。そしてこれからも……


 あたしはずっと見てるから。

 てか、見なくても分かってるからね。

 そして信じてる。


 りょーたはひなのをあたし以上の幸せ者にしてくれるって!!

 あー大変だ。頑張れ、りょーた!!


 辛くなったらまたこれを読みな。

 そしてすぐに泣き止め。


 そんで……もしも、りょーたが守りたいと思えるような女の子を見付けたら、必ずその子を守ってあげなさい。これはあたしからの最期のワガママ。


 いつだってあたしはりょーたの幸せを願ってるから、あたしのワガママ必ず叶えてよね。


 そうそう、もう1枚手紙を入れてるでしょ?

 ひなの用だから大きくなったら渡してあげて。 そうさね、JKを卒業する頃くらいに!

 その頃には忘れちゃってるかもだけど(笑)


 さ、長くなっちゃった。

 そろそろ死人はおとなしく去ることにするよ。


 りょーた、いつまでも、ずっといつまでも、愛してる。


 りょーたのあかりより♡

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