第16話 後輩が動き出した。


 8月12日の午後。


「いやぁ~良く寝た」


 風邪でぶっ倒れた俺は午前中も起きる事が出来ず、結局太陽が照り付ける昼過ぎ体を起こした。


「パピーーーー!!!」

「お、ひなの!」


 俺の気配に気付いたのか、ベッドに座る俺の元にひなのが走って来た。


 愛しい愛娘を抱き上げ、優しく抱き締める。


「心配かけて悪かったな」

「ふっ、仕方ないパピーだぜ」


 ひなのは短い腕を懸命に伸ばして俺にしがみついてくる。

 口では生意気言ってるが俺が倒れて相当に寂しい思いをさせた筈だ。


「本当、ごめんな。あれ、そういや今日は佐々倉さんは……?」


 ふと、いつもならすぐに駆け付けてくるあの子が居ない事に気付いた。


 ひなのは目覚めてから今日は彼女が来ていない事を教えてくれた。


「じぇーけーな、昨日とーっても落ち込んでた!そのせいじゃないけ?」

「……俺のせいかな……」

「パピー、早く謝って来い」

「ま、それもそうだな」


 俺が倒れてる間に本当に色々世話になったからな。


 とりあえずメールを開いて──


「ん?」


 スマホを開くと、どうやら午前中に来ていたらしいメールが2件貯まっていた。


 1件は江本から。

 内容は1日遅れてすみませんから始まり、一緒に飲みに行けて嬉しかった事とキスについての謝罪だった。


 意外にマメな奴だな。

 あいつが謝るくらいだから本当に気にしないで欲しいって事なんだろうな。

 俺もあの件は忘れてやるか。


 さて、もう1つのメールだがこっちは深刻だな……


 送信元には佐々倉みやびの名前が。


 そこには短く、『本当に申し訳ありません、もう諒太さんとは会えません』の文字が。


「……一体何があったんだよ……」

「パピー、どうかしのけ?」

「ん……俺にもさっぱり……」

「?」


 ひなのにもどう説明したものか……


 この短いメールだけじゃ彼女の真意はさっぱり分からん。


 だからと言って俺から出来る事も──


「あ、そうだ」

「おぉ?」


 俺は思い付くままとある人物に電話を掛けた。





 お盆休みの昼下がり、私のスマホに一本の着信が入る。


「も~……誰~……──先輩!?」


 昨日は遅くまで配信していた為、寝ぼけ眼の私は電話の主に気付くのに遅れてしまった。


 すぐに電話に出た私は、必要もないのに前髪を整えながら「も、もしもし」と先輩の声を待った。


『わりぃ江本、休みなのに』

「い、いえ!私なら大丈夫ですよ!」

『なら良かった。それでなんだけどさ』


 い、一体こんな休みの日に何の電話だろ?

 

 も、もしかしてこの前の私の告白をやっぱり真に受けちゃったりして──


『あのさ、1つ聞きたい事があるんだがお前何かネットで結構人気なんだろ?ちょい調べて欲しい事があるんだよ』


 ……期待なんてしてないもん。


「……はぁい……で、何を調べろとー……」

『あからさまにテンション下がってるよなぁ!?』

「……そんな事ないっすよぉ……愛しの先輩のお願いなら喜んで何でも引き受けますともー……」

『い、愛しのとか言うな!……で、調べて欲しい事なんだけどさ……』

「……へぇい……──え……?」


 先輩からの頼み事というのは最近私が推しているVtuber"MiyaBi"についてだった。


 と言うか先輩、私がVtuberだって事完全に忘れてるな……1年前くらいに教えてあげたのにー!


 会社では課長と先輩にしか言ってないのに!!


 ネットでちょっと有名程度にしか記憶してないとは。むむむー……


『でさ、その子最近俺がハマってる子でさ。ここ数日何か事件みたいなのって無かったか?』


 いや何で自分の推しの近況知らないの?


 ま、まぁ先輩らしいけど……


 にしても"MiyaBi"ねぇ、そう言えばこの前……

 

「……その子、確かこの前子供が居るとかで騒がれてましたよ。まぁたぶん親戚の子とか何でしょうけど配信切り忘れて小さな女の子が出て来たとか──」


 私は説明をしていて少し引っ掛かる部分を感じた。


 じぇーけー……小さな女の子……親戚の子……?


 んー、最近何か私の周りでそんなワードを聞いたような……?

 い、いや別に違和感を感じるような言葉じゃない、忘れよう。


 先輩はどうやら私の説明に何やら納得したようで、後は自分で調べると言って電話を切ろうとした。


『助かったよ江本!それじゃ盆休み楽しめよ──』

「ま、待って下さい!!」

『え?』


 せっかく先輩が電話してきてくれたんだ。

 このチャンスを逃す訳にはいかない!


「せ、先輩、Vtuberに興味あるんですよね?だったら今度私の家に来ませんか?色々教えてあげれますよ!」


 ど、どう!?結構攻めた事言った気がする!!


 が、しかし。


『え?Vtuberに興味?別に──あ、あぁそ、そうだな!知りたい知りたい!また今度な!』

「……何今の間。超怪しい……」

『あ、怪しくねぇよ!じゃな江本マジ助かったわ!!』

「あ、ちょっと!!」


 私の制止も聞かず、先輩は電話を一方的に切ってしまった。


「なんなのよ……」


 それにしても先輩がVtuberに興味を、ねぇ……


 あの機械音痴でいつもパソコン関連は私に聞いてくる先輩が。


 それも私の推しでもある"MiyaBi"に……


「ちょっち調べてみるか」


 私は当時の配信の様子を調べるべくパソコンを開いた──

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