第15話 佐々倉みやび
時刻は既に20時を越え、諒太さんのお家からとぼとぼと歩いて帰るこの足がやけに重いです。
「……はぁ」
つい溢れてしまうため息。
私の頭は今色々な事でぐちゃぐちゃです。
まずリスナーさんへの状況説明。
これは正直何とでもなります。
いわゆる"親フラ"と似たような状況ですし。
ストーリーはこうです。
いつもと同じように、ひなのちゃんは親戚の子でマミーと言うのはこの子の亡くなったお母さんで、まだ5歳にならない子供だからお母さんの事が恋しくて……
と、まぁこんな所でしょうか?
今回の事は子持ちVtuber(JK)という肩書きが一人歩きしてるだけで、ネットのオモチャにされかけてる現段階では炎上と言う訳ではありません。
大体、子持ちVtuber(JK)って何も悪い事じゃありませんし。
次の問題は私とコラボをしてくださる、憧れのVtuber"Emo"。
つい先程DMが来て事情は説明したのですが、とりあえず私からリスナーへの釈明をするまではコラボは待とうとなりました。
……ショック過ぎる。
で、でもコラボが流れるという事にならなくて良かったです!
プラス思考プラス思考!
……ですがここで最後の問題です。
とてもじゃないですけどプラス思考にはなれない、最後の問題……
──それがお母さん問題です。
先程電話があった際に言われたんです。
『帰って来たら話をするから』
と、短く……
こんな心臓に悪い物言い、許されるものでしょうか!?
言いたい事がある時、私ならもっと優しく、丁寧な言葉で伝えますよ!
まぁそれはさておき。さておけるかも置いておいて。
結局私の頭を悩ませているのは母さんの話がなんなのか、この一点です。
母さんの言い振りでは今回の騒動の件は知っているのでしょう。
一体どこから嗅ぎ付けて来たのか……
私の頭は中にはいくつもの"もしも"が浮かんできます。
もしも──
──今回の事で諒太さん達に迷惑を掛けているのならもう行くなと言われたら。
──相手方の家の状況に問題があるとか言って諒太さん達に迷惑を掛けたら。
──これがきっかけでVtuberを辞めろと言われたら。
嫌だ。
どんな事があっても、Vtuberを辞める事だけは嫌だ……!!
……どんな事があっても。
先月までは、あの人と出会うまでは絶対にそう言っていました。
だけど、今の私は果たして同じ結論に辿り着けるでしょうか。
例えば、例えばの話です。
もしも私は諒太さんと会えなくなるか、Vtuberを辞めるか、2択を迫られたらどうする??
──答えは自宅のドアを開けても出る事はなかった。
※
北川みやび17歳、名前は平仮名で書く。
O型で身長155cm体重41kg。スリーサイズはまた今度ね。あ……ヒップは知られてるんだった。
幸福な家庭に産まれ、すくすくと成長したらしい私に現在父親は居ない。
私が小学校に上がる前に離婚したみたいで、ほとんど父の記憶はない。
一度だけ、母に父の事を聞いた事がある。
──どんな人だったのか。
その問いに母はあまり多くを語ってはくれなかった。
ただ短く、"父親としては0点、だけどミュージシャンとしては100点の人だった"と教えてくれた。
今もテレビに出れるくらいには活躍してるらしく、母は音楽番組を毛嫌いしている。
私は父がなんて名前で活躍しているかも知らない。
だけど、不意に映った音楽番組の男性に母が凄く複雑そうな顔をしているのを見て、もしやと思った人はいる。
別に私自身父に興味はないし、それ以上知りたいとも思わなかった。
母と二人、幸せに暮らしていければそれで良かったから。
でも中学2年生のある日、私の人生に転機が訪れる。
動画サイトにアップされた一本の歌動画。
バズりにバズって一躍時の人となったその人の歌が、私の中にある音楽への扉を開いた。
自分の歌でこれほどの衝撃を与えられるんだ……!
稲妻が落ちるような衝撃を、きっと父も受けたんだろうとこの時に知った。
この先、私にあるかも知れない幸福で普通な人生、その全てを失ってでもこの人のようになりたい。
そこからは早かった。
中学3年生になる頃には"歌ってみた"動画をアップしそれなりに様々な人に聴いて貰えるようにはなった。
最初は数字が一つでも上がる度に心が踊った。
それでも段々伸びは頭打ちになっていく。
当然だけど、あの人のようになる為の壁は分厚かった。
けれどそこでまたあの人が新しい道を示してくれた。
今までは顔を出さず歌動画だけを出していたのに、突然Vtuberとしてデビューしたんだ。
配信で話す彼女は等身大の女の子で、これなら私にでも出来るんじゃないか。
自分の中にあるもう一人の自分を解放させれるんだ……!
気付けば高校に入学する頃には私はVtuberになっていた。
私の高校は一応は進学校なので1年生から進路相談がある。
先生に私の夢を話したら当然止められた。
高校で出来た友達にも「え、さすがにきつくない?」と、引かれたっけ。
皆の言う通り現実は厳しくて、最初は今まで私の動画を見てくれてた人が少し覗いてくれる程度だった。
けどあの人と同じように、ゲーム配信や雑談、色々な人とのコラボなどで次第に"MiyaBi"の知名度は上がっていった。
問題はそんな時に起こってしまう。
母に私の活動がバレてしまった。
母は地方公務員として働く真面目な人だ。
少々厳しい面があり、私たちはあまり親からの愛情というものを知らずに育った。
それでも母親はきちんと私の目を見て、話を聞いてから叱る人だった。
決して理不尽には怒らない、理屈が通ってないものを正す、そんな人。
そんな母が初めて私を頭ごなしに叱った。
『そんな何の人生の得にならないもの、真剣に取り組んで……父親のようになりたいの!?今すぐ辞めなさいっ……あなたはもっと普通に生きなさいっ……!!!』
と。
私は激しく抵抗したよ。
『母親なら娘の夢を応援してよ!大学だって行かなくてもこれで私は生きていく!!』
そう言って私は家を出た。
そこからは……ふふ、なんて言えば良いんだろう。
まだ1か月も経っていないのに、私は
だから諒太さん、もう一つ私にくれませんか?
母と戦う勇気を──
「ただいま、母さん」
「お帰りなさい、みやび」
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