第2話

如月さんと私が出会ってから1ヶ月。

あれから毎日のように、放課後は一緒にイヤホンで音楽を聴いていた。


もちろん、私はイヤホンを貸してもらっていて、如月さんはまた別のイヤホンで音楽を聴いているから、聴いている曲は違うけれど。


でも放課後になる度に、教室や渡り廊下、コンビニの前や駅のホームで一緒にいながら音楽を聴いていると、なんだかどんどん親しくなっていくような気がして嬉しかった。


私にとってイヤホンで音楽を聴いている時間は、とっても刺激的で新鮮。

最初に聴いたときは耳から脳髄を震わせてくるような衝撃を覚えた。次に聴いたときは聴き取りきれない程の大量の音が一気に私の心臓まで入ってくるみたいで、気分がこれ以上ないくらいに高揚した。


前から気になっていた如月さんとも一緒にいる時間が増えて、今はもう友だちのような感覚。


それに出会った当時より、如月さんは笑ってくれることが増えた。

プリクラを撮ったこともなければ友だちと遊びに行ったこともない私に如月さんは「マジで?」と驚きながら笑っていたのを覚えている。


でもあれはもしかして、どちらかと言うと苦笑に近かったのかな?


「おはよう、如月さん!」


如月さんは制服のスカートがよく似合う。スタイルが良くて、理想のプロポーションだ。


「もう放課後だけど」


「今日は朝会えなかったから。遅刻してきたみたいだけど、どうしたの?」


如月さんは少しダルそうに片方だけイヤホンの位置をずらしそのまま頬杖をつく。


「保健室登校」


その一言で全て察しろと言わんばかりの表情で。


でもそういえば確かに如月さんは登校頻度がまばらだった気がする。私と音楽を聴き始めてから最近はずっと登校しているけれど、どちらかと言うと誰とも仲良くしない不登校気味な暗い子だった。


誰とも仲良くしない、のところは如月さんに「特大ブーメラン」って言われそうだけど……


「今日はコンビニ寄る。コンビニ前の駐車場でいいよね」


「うん!大丈夫だよ」


そうして2人で一緒にコンビニに行く。

そういえば、1ヶ月もこうしていると気付くことがあった。


如月さんはたまに、その横を通る人にひそひそと悪口を言われている。如月さんはそれに気付いていないようだけれど……少し気になる。


「この期間限定のフラッペ、美味しいから飲んでみなよ」


そうこうする内にコンビニに着く。


「あ……うん」


「どうしたの?」


返事が微妙だったことに気付かれたのか、それとも顔に出ていたのか心配されてしまったみたいだ。


「如月さんって……」


言っていいものかどうか迷って、下を向きながら小さな声で漏らす。


「何、そんなに小さい声だと流石に聞こえない」


尚もイヤホンを付けたままの如月さんは顔を近づけてくる。


他にもコンビニにたむろしている同じ学校の学生たちの声が妙に大きく聞こえる。この1ヶ月間放課後はイヤホンをしていたから気付かなかった。


私以外の人の声って、けっこう大きい。それなら、どうりで私の声が聞きづらいわけだ。


「えっと……ううん、何でもない」


「何、気になる」


片方イヤホンを外し、如月さんは私に問いかける。

会ったその日と同じようにそのイヤホンは結構な音量で音漏れしている。


「えっと……友だちとフラッペ飲むのなんてまだ慣れてなくて、すごく嬉しくて」


もちろん、今言ったことも本心。本当は違うことを言いたかったんだけど、やっぱり言えなくてちょっと誤魔化す。


「……羨ましい」


「え?」


「薫子と私って、同級生なのに全然違う。薫子は経験すること全部が初めてで、物珍しくて、新鮮で……私なんか薫子みたいに笑顔になったことなんてない。初めてのことなんて、もうずっと小さい頃に経験しちゃって、まるで私だけおばあさんみたい」


目を伏せて如月さんが悲しそうな顔をする。


「……如月さん、あのね」


できるだけ小さい声で言う。


「何、また聞こえないんだけど」


如月さんはまだ片方付けていたイヤホンを外した。






















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