第4話 新たな仲間
街へ帰って来た俺たちは、晩飯を取ることになった。
もう疲労困憊だ。
「ねえ、マサツグ。私気づいたことがあるんだけど」
冒険者ギルドの一角で、対面に座るオリビアが真剣な表情を見せる。
「なんだよ、改まってさ」
「私たちって弱すぎない?」
「気づくのがおせーわ! 一歩間違えたら全滅してたぞ」
俺の怒声に動じることなく、先程運ばれてきた定食を次々と口に入れるオリビア。
今だに生きて帰れたことが信じられず、水も喉を通らない俺をよそに、オリビアは幸せそうな顔で二つ目の定食に手を伸ばしていた。
死にかけた後に、よくそんなに食べれるな⋯⋯って、それ俺のじゃね?
「はぁ⋯⋯、何かてっとり早く強くなれる方法でもあればいいんだけどな」
「ふぁがまのあたままらひひじゃはぁい」
「全然何言ってるのかわからねーから、食べるのか喋るのかどっちかにしろ」
「もぐもぐもぐもぐ」
「⋯⋯食べるの優先かよっ! そこは飲み込んで喋れよっ!」
リスのように頬を膨らませたオリビアは食事を選択した模様。
うん。メンバーもたった二人しかいないのに、驚くべき団結力だな。
そんなことを考えていると、オリビアが食事を終えて、
「仲間を集めましょうよ」
おそらく食事中に言いたかったことを言う。
「おいおい、いきなり他力本願かよ」
「効率を考えなさいよ。私たちが強くなるより、強い仲間を加える方が圧倒的に早いじゃない。まあ、低脳ヒキニートのマサクズにはちょっと難しい話だとは思うけど」
「そりゃ強い仲間が入ればいいけど、自称女神とフリーターのパーティーに入ってくれるやつなんていないだろ。あと、クズやめろ」
仮に強者から申し入れがあったとしても、逆にこちらから頭を下げて断ってしまいそうだ。
だって、さすがにこのパーティーだと場違い感がすごすぎないか。
「マサツグのフリーターは置いといたとしても、私は正真正銘の女神なのよ。誰しも女神と一緒に旅ができるなら、しっぽを振って付いて来るに決まってるでしょ! ほら分かったなら、後でちゃんと足のマッサージをしなさいよ。女神は美を保つことも仕事の一つなんだから」
鼻を高くするオリビアをよそに、俺は希望に満ちた未来は描けなかった。
「さて、結構人はいるみたいね」
翌日。俺たちはギルドではなく近くの広場で、募集をかけることにした。
何でもギルドの掲示板に募集の紙を張るには、広告費がかかるらしい。
何をするにも金がかかると言うのは、どこの世界でも同じようだ。
今の俺たちには、そんなお金は残されていない。そう⋯⋯びた一文もな!
オリビアはふぅーと息を吐くと、広場の中央にある噴水の腰掛けに飛び乗った。
「この広場に集いし冒険者諸君! 私はこの世界を統治する女神オリビアよ。神である私と旅に出たい者は名乗りを上げなさい。共にこの世界を、魔王(仮)の手から取り戻すのよ!」
道行く人々がみな一斉に立ち止まって彼女を見つめる⋯⋯なんてことは起こらず、オリビアの声はどこまでも真っ青な空へと吸い込まれていった。
それより、魔王(仮)ってなんだよ。
それから半日以上経過しても、一向に名乗りをあげる者はいなかった。
それどころか、こちらに興味を示すものさえほとんどいないではないか。
冷静に考えてみれば、当然と言えば当然かもしれない。
いくらオリビアの顔が良くても、こんな広場で自称女神を謳って仲間を集めようとする奴なんて怪しすぎる。
俺が逆の立場だったら、目すらも合わせないだろう。
それこそ目が合ったものを石にしてしまうゴーゴンと戦う時のように。
「おかしいわね。やっぱりパーティーにヒキフリーターがいるからかしら」
オリビアがこちらを睨む様に見つめて来る。
「自称女神の方が、どう考えてもやばいだろっ! そんなことより、ここままだと本当に誰も仲間になってくれな⋯⋯」
発言の途中で、ふと奇妙な悪寒に襲われて視線を移すと巨大な人影が⋯⋯と思っていたら、先程までオリビアがしていた様に噴水の腰掛けを台にして仁王立ちする少女が一人。
「クックックッ⋯⋯、ついにこの時が来たのじゃな。待ち侘びておったぞ!」
口元から八重歯を覗かせて、彼女は叫んだ。
濁り一つない金髪ショートと、血を彷彿とさせる⋯⋯と言って欲しそうな真紅の瞳。
腰掛けの上に乗っているから見上げる形になっているが、実際の身長は俺より頭一つ分は小さい気がする。
黒いチョーカーと、これまた黒いワンピースを見に纏った姿からは、夜の眷属を彷彿とさせる⋯⋯と言って欲しそうな印象を受ける。
見た目だけならかなり年下に見えるな。
そうか、分かったぞ。
オリビアが「自分は女神だ」と叫んでいたから、きっとごっこ遊びだと勘違いしたのだろう。
全くこんな幼い子にまで迷惑をかけてしまうなんて申し訳ないな。
後でオリビアにはしっかり注意しておこう。
何せ当の本人は、不貞腐れた様子で明後日の方向を見つめているのだから。
俺はゆっくり彼女に近づくと、肩に手を乗せて軽く微笑む。
「ごめん、ごめん。また今度、時間が空いた時にでも付き合ってあげるからさ。今日はもう帰りなさい」
「なっ、我は本気じゃぞっ!」
彼女は半分涙目になりながらも必死に訴える。
「言っとくけど、遊びじゃないんだぞ」
「そんなこと知っておるのじゃっ!」
うーん。どうにも図りかねる。
見た目は幼い印象を受けるが、凛と見据えた瞳からは強い意志を感じなくもない。
「と、とりあえず君のことについて教えてもらってもいいかな?」
俺の言葉を聞くと、彼女は口元の八重歯を光らせて両手を大きく広げて、
「我が名は、ティアナ=エルク=ド=ローゼンメイデン。誉れ高きヴァンパイアにして夜の支配者なのじゃ!」
「⋯⋯はいっ?」
思わず声が裏返ってしまう。
なんだ、なんだ。こっちの人は名前が長いのが普通なんだろうか。全然覚えられなかったぞ。
「あらあら、ヴァニラちゃん。今日は友達と遊んでいるのかしら」
ふとそばを通りかかったおばさんが、自称ヴァンパイアに微笑みながら声をかけていった。
「⋯⋯名前は、ヴァニラでいいかな?」
「クックックッ⋯⋯。ヴァニラはあくまで、仮の名じゃ! 我が真名はティアナ=エルク=ド=ローゼンメイデン。あの有名なローゼンメイデン家の末裔にして最強のヴァンパイアなのじゃ!」
おばさんの横やりのせいか、先程より少しだけ声が小さくなっている。
「あっ、ヴァニラのお姉ちゃんが、またヴァンパイアごっこやってるよ」
「ほんとねー。あなたはそんな風になっちゃダメよ」
少し離れた距離から、親子と思しき会話が聞こえてくる。
「じゃ、じゃから⋯⋯」
彼女の目が先程よりもうるうるしているのは気のせいだろうか。
その後も、似たようなやりとりが数回行われた。
まさに地獄のような光景で、俺は固まることしか出来なかった。
「ひぐっ⋯⋯えぐっ⋯⋯私は、ヴァニラです」
「まさか泣いてしまうとは」
「泣いてなどおらぬわっ!」
必死に講義するヴァニラ。
いやどう見ても泣いてるだろ、これ。
「そんなに我を信じれんと言うのなら、いいじゃろう。特別に、我が力を見せてやるのじゃ!」
目元の涙を拭って、自称ヴァンパイアは再度声を張り上げた。
どうして俺の周りはこうも自称が多いのだろうか。
あれ、そういやオリビアは本物だったっけな?
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