第8話

「火の管理はオレに任せな! 熱を操る異能を持つこのオレにな!」

「か、関係なくないぃ……?」

「ノリだよ、ノリ!」


 妙に張り切っている檜垣先輩が率先してBBQを取り仕切る。これも彼女さんへのアピールだろうか? 葛山先輩の反応を見るに若干空回り気味だが……。

 二年生カップルの二人に軽い挨拶と自己紹介をした後は、特に手伝うべきことも残っていないようだったので、俺はもっぱら同じく手隙の北条先輩と雑談に興じた。


「私さー、参加者全員と友達になろうと思ってこのサマーキャンプにきたんだよね。これで君と友達になれたから、あとは二人!」


 少し話した程度だが、もう友達認定をしてもらっているらしい。まあ、どこからが友達で、どこまでが知り合いなのか、そこに決まった線引があるわけでもない。グイグイと距離を詰めてくる北条先輩に若干戸惑いつつも、ひとまずは俺も彼女を友人と思って接することにした。


「二人ってのは……ああ、それならアドバイスでもしましょうか?」

「アドバイス?」

「ええ。たぶんですけど、その二人というのは二宮と雨沢でしょう?」


 二宮はずっと体調不良で寝込んでいたし、雨沢はさっきまで俺といた。

 思った通り、北条先輩は「そうだよ」と頷いた。


「その二人と接する時、ちょっとした注意点がありまして……」

「え、そんなに気難しい子たちなの?」

「はい。そりゃあもう」


 俺は冗談めかして、本気のアドバイスをする。


「二宮は、下の名前の『はあと』で呼ぶと嫌がるので、名字で呼ぶと良いですよ。どうも、所謂キラキラネームぽいってことを結構気にしてるみたいですから」

「あー、なるほど。二宮ちゃん、ね!」

「そして、雨沢ですけど……アイツには絶対に『人見知り』と言っちゃ駄目ですよ。――ほら、あんな風に心を閉ざしちゃうので」


 BBQ開始から三十分、ようやく雨沢が広場に姿を現した。やっぱり、まだ怒っているみたいで、俺の方を何度かちらちら見るものの、こちらには近寄ってこない。

 北条先輩が苦笑しながら雨沢と俺を交互に見る。


「あー。地雷、踏んじゃったんだ」

「みたいです」

「仲直りは早めにした方が良いよ。これ、お姉さんからのアドバイスね」


 ウィンクを一つして、北条先輩は「挨拶してくる」と雨沢のもとへ駆けていった。案の定、人見知りを発動してアタフタと応対する雨沢を遠巻きに見ながら、俺は焼き過ぎて焦げてしまった肉を齧った。


(まあ、BBQが終わった辺りで雨沢に声をかけてみるかな)


 ほんの少しの不和を孕みつつも、BBQはおおむね和やかに恙無く進行していった。


 そして――今、BBQが終わろうとしている。


(おかしい……)


 BBQの開始から一時間弱。食べ終わった串や食器も大方片付けられた。

 火も、そろそろ消そうかという話になっている。

 だというのに。


(絶対、おかしい……!)


 いつまで経っても、南先輩が広場に姿を現すことはなかった。

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