始まり

 校舎裏に一人ぽつんと座り込む一人の少女。

 目を赤く腫れさせ、ぼうっと物思いに耽っている。

 少女____実里は、先程までの会話を思い出していた。




「泣き止んだかな?」

「っはい、もう大丈夫です。迷惑でしたよね……」

 実里は先輩の前で泣いてしまったことに恥ずかしさを覚え、俯く。

「ううん、好きって言ってくれて、俺の為に泣いてくれたのは凄く嬉しかった。ありがとう」

 その言葉に、また涙がこぼれそうになるが、ぐっと堪える。

「__じゃあ、俺は行くね。本当に、ありがとう」

 そう言い残して久原先輩は去っていった。

 久原先輩を好きになって良かったな。

 心の底からそう思い、その場に座り込んだ。




 は、と気付くと日がかなり傾いてきていた。

 時計を見ると、もうすぐ六時になりそうだった。

「わ……時間やば……」

 そう呟いて立ち上がり、ぱん、と軽く頬を叩く。

 帰ろうかな、と一歩踏み出した途端、足元にサッカーボールが転がってきた。

 ボールを広い、後ろを振り返ると、

「あれ、清水しみず?」

クラスメートの三井みついに声をかけられた。

「あ、ボール貰っていいかな……って、目赤いけど。どうした?」

 近づいてくる三井と、後退りする実里。

 実里は手で顔を覆い隠し、

「見ないでよ」

「なんで、心配じゃん」

 むっとした顔でそう言った三井にはっとする。

「あ、ごめ……」

「いや、大丈夫。謝ることじゃないし、俺もデリカシーなかったな。ごめん。とりあえず、俺が勝手に心配しただけだから」

 その言葉にどきっとする。

 三井は実里が抱えているボールの方に手を伸ばし、

「ボール貰ってもいい?」

と尋ねてくる。

 は、と気付いて、はい、とボールを手渡すと、三井は少し考えて、口を開く。

「何があったかは知らないけど、なんか辛いことあれば俺に相談しな。話聞くくらいなら出来るから」

 そう言ってにかっと笑い、走り去っていった。

 __どくり、どくり。

 だんだん顔が熱くなっていく。

 実里は、自分の心臓の鼓動が大きくなって行くのを感じていた。




    〈了〉

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終わりと始まり エイト @slb_04

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