終わりと始まり
エイト
終わり
「……先輩のことが、好きです」
今日こそは、想いを伝えたかった。
____たとえ、叶わぬ想いでも。
先輩に出会ったのは、入学式の次の日だった。
職員室を探して一階をうろうろしていたら、
「大丈夫?そのネクタイの色、一年生だよね。もしかして迷った?」
そう、話しかけられた。
この高校は、ネクタイの色で学年がわかるようになっている。一年生の赤のネクタイを着けていた実里に話しかけてくれた先輩は、三年生の証である緑のネクタイを揺らし、首を傾げる。
「あ、はい、あの、職員室ってどこですか?」
「あぁ、それならこっち」
そう言って二階にある職員室まで連れていってくれた。
「ありがとうございました」
用事を済ませた
「ううん、大丈夫だよ。じゃ、俺は行くね」
「はい、本当にありがとうございました」
そう言って先輩と別れた。
放課後のグラウンド。
「あの、すみません。テニス部の見学に来たんですけど……」
「はいはーい……あれ、さっきの子じゃない?」
たまたま声をかけた相手が、さっきの先輩だった。
久原と名乗った彼は、一つの部室を指差して
「女テニの見学だったらあそこで着替えてきてね」
「わかりました」
見学には二時間ほどかかったが、実里は充実感を覚えていた。仲良くなった女の先輩と話していると、
「あ、えーっと、確か、実里ちゃんだよね?」
と後ろから声をかけられた。
「あ、はい、そうです。久原先輩」
「お、覚えててくれたんだ。よければ一緒に帰らない?」
「はい、是非!」
久原先輩について行く。他愛ない話をしていると、コンビニが見えてきた。久原先輩は
「ちょっと待ってて」
と言うとコンビニに入っていった。
暫く待っていると、
「はいこれ、食べて」
とアイスを手渡してくれた。
「え、これいいんですか?」
「うん、俺の奢り」
「わー、ありがとうございます。いただきます」
二人は近くの公園でアイスを食べながら、話に花を咲かせた。
それから数ヶ月。
実里はクラスでもテニス部でも充実した日々を過ごしていた。
特に久原先輩とは仲良くなった。気付けば、好きになっていた。
__でも。
「俺さ、好きな子出来たんだよね」
そう言われてから、必死に諦めようとしてきた。でも、諦められなかった。だから。
「先輩に好きな人がいるのは知ってます。だから……振ってください」
久原先輩は驚いたように目を見張って
「まさか実里に告白されるとは思わなかったな」
と独り言ごちた。
そして、ふ、と息をつくと、
「ありがとう。告白は凄く嬉しい。けど……ごめんね」
絶対に泣くもんか。そう思っていたのに。ぽろぽろと涙が
久原先輩は実里の涙を拭って、何度もありがとう、と呟いた。
二人の間を、秋の風が通り抜けていった。
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