まくら投げ

 パジャマパーティーで昔話をしたわたしは、ニコニコと笑みを浮かべ質問を待っていた。


「他に何か質問みたいなのある?」


「いや…もう大丈夫よ」


「ノアの話、すげぇ面白かったぜ!」


「う…うん。僕達とは全く違う環境だから、新鮮な感じだったよ」


「そっか、そう思ってくれてるのなら良かったよ」


「「「……っ」」」


 3人が満足してくれたようで、わたしはほっと胸を撫で下ろす。


 わたしの昔話なんて面白くないと思ってたけど、皆がそう言うのなら良かった。


 わたしの言葉にユリアス達は少し顔をしかめるが、わたしは彼らの言葉を信じているため気にしていなかった。


「まくら投げしようぜ!!」


「まくら投げ?」


 突然立ち上がり宣言したジークに、わたしは驚きぽかんと口を半開きにする。


 その様子に気づいたのか、ルカはまくらを手に取り説明してくれた。


「文字通りまくらを投げ合うっていう遊びよ。とりあえず相手にまくらをぶつければいいの。こうやって……ねっ!」


「うぶっ」


 最後に、ルカがジークの顔面にまくらを投げつける。


 ジークはそのままベッドに倒れ込んだのだが、その顔には笑みが浮かんでいた。


「とまぁこんな感じで、まくらを投げ合えばいいのよ。…きゃっ!?」


「へへっ、仕返しだ!」


「この…っ」


「おわっ!?」


 ジークとルカの投げ合いが始まりあちこちにまくらが飛び交った。


 ルカの言う通り2人は相手に向かってまくらを投げ、投げられたら避けたりするというシンプルな遊びだった。


 わたしにとって命に触れず身体を動かす遊びは初めてで、ワクワクとした気持ちが募っていく。


 不意にルカがこちらに振り向き、わたしに手を伸ばして誘った。


「ほら、ノアも一緒にやろ! …わぷっ、ちょっとジーク!」


「よそ見してたルカが悪いんだよーだ」


 そう言うジークは「ニヒッ」と笑い、ルカは頬を膨らます。


 その様子を見て笑うユリアスは、立ち上がりこちらに顔を向けた。


「僕達も混ざろうよ。絶対楽しいよ?」


「やるっ」


 わたしとユリアスも混ざり、女子チームと男子チームに別れて対戦することになった。


 ワクワクとした気持ちが溢れるわたしの前では、ルカとジークがピリピリとした視線を交わしていた。


「絶対負けないんだから!」


「こっちだって負けねえぞ!」


「ノア、絶対勝つわよ!」


「ユリアス、絶対勝つぞ!」


 何故か対抗心を燃やす2人は、息ぴったりに宣言する。


 2人とも仲が良いんだな〜。


 そんな呑気なことを考えているわたしを含む4人での、まくら投げが始まった。


 先攻は女子チームから始まり、一進一退の攻防が始まった。


 わたしがユリアスに投げ、ユリアスは難なくキャッチ。


 それをジークと同時にルカへと投げ、1つはルカが、もう1つはわたしが取った。


 使えるまくらは全部で3つ。


 1つは男子チームの場所に、もう2つは女子チームの手にある。


 ルカがジークに向かってまくらを投げる。


「やぁっ!」


 それをかわさずにキャッチすると、隣にいるユリアスに投げ渡した。


「ユリアス!」


「任せて」


 ユリアスはそれを受け取ると、流れるようにこちらにまくらを投げた。


 投げられたまくらはルカの方へと真っ直ぐに飛んでいく。


「ノア!」


「なっ!?」


 まくらはキャッチするものだと思い込んでいたわたしは、横に飛んでまくらを取った。


 空中姿勢のままユリアスに向かってまくらを投げるが、ジークが瞬時にわたしわ狙って投げてくる。


 わたしは空中で身をよじりそのまくらを避け、思ってもみなかった攻撃にユリアス。


「うわぁ!」


「ユリアスッ!」


 ユリアスはベッドに沈み、ジークは焦ったように彼の名を呼ぶ。


 ルカはテンションが上がっているのか笑みを浮かべ、部屋には彼女の高笑いが響いた。


「ふふふ……あはははははっ! 1人死んで、これで2対1ね。しかもこっちにはノアがいる。これで勝ったも同然よ!」


「クソっ……。ユリアスは死んだが、まだ俺は生きてる。これで勝ったと思うなッ!!」


 ジークが振りかぶり、ルカに向かって投げる。


 わたしは取りに行こうとするがシーツがズレ上手く動けなかった。


 ルカは飛んでくるまくらを上手くキャッチし、まくらを胸に笑みを浮かべた。


 それを見たジークはばっと身構える。


「俺はまだ死なない! ユリアスの分まで生きて、絶対あんたらどっちかは倒すんだ!」


「いいえ、私達が無傷で勝つのよ!」


「勝つのは俺達だ! 先に死んじまったユリアスの分まで……色んな景色を見るために!!」


 涙目で言うジークの、話す内容がどんどん大きくなっている気がする。


「僕死んでないんだけど……」


 ユリアスもそれに気づいたのか、呆れたように呟いていた。


「最後の一撃ーッ!」


 ルカが大きく振りかぶって投げる――。


「なにをやってるなの?」


 直前、ドアの方から聞こえる子供ローラの声が。


 ルカは振りかぶった状態で固まり、ジークもユリアスも動かなくなってしまった。


「わたくしもやりたいの!」


「おや、まくら投げですか。しかしお嬢様、そのネグリジェ姿では動きにくいと思われますが。それにそのお姿で人前に来たのは淑女として…」


「いいなの! わたくしも遊ぶの!」


「……では私めも参加するので、負けたら今後そのような行動はお控えくださいませ」


「わかったなの!」


 2人の間で勝手に話が進み、今の戦況でそれぞれのチームに2人が加わる形でまくら投げは再開した。


 再開早々わたしがジークにまくらを当て、男子チームはニコラス1人に。


「ニコラスさーん!」


「頑張ってくださーい!」


 2人の声援を受け、ニコラスは「お任せを」とだけ返した。


 まくらは全て男子チームニコラスが持っており、こっちは避けるしかない。


 ニコラスはまくらを両手に持ち、わたしとルカに向かって投げる。


 わたしは避けられたが、ルカは足場の悪いベッドでバランスを崩し当たってしまった。


「ローラ、様と…ノア。あとは、お願い…ね……」


「ルカ…」


 託す言葉を最後に、ルカはベッドに沈んだ。


 ローラはルカを倒したまくらを手に取り、ニコラスに向き直った。


 ローラは見様見真似で大きく振りかぶり、掛け声と同時にまくらを手放す。


「えいなのっ!」


 ニコラスに飛んでいくまくらは、ふわりと弧を描き飛んでいく。


 誰でも避けられそうなまくらに、ニコラスは避けようと反応した。


 しかしニコラスは動かず、逆にまくらに向かっていった。


 キャッチするつもりか!


 わたしの予想は外れ、ニコラスはキャッチするどころか手も出さずに当たった。


「ぐわああああ」


 わざとらしいうめき声を上げながらベッドに沈み、彼はそのまま動かない。


 その様子を見ていたローラは、一つの間を置き嬉しそうに跳ねた。


「やったーなのー!!」


「従者が主人に勝つことはない、ってことだね」


「クソおおおおおッ!」


 ジークの悔しがる声が響き、まくら投げは女子チームアウローラの勝利で幕を閉じたのだった。

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