王立図書館
王立図書館はアリシア王国が管理する巨大な施設であり、国中の多くの本が集まる場所である。
王族達が住まう城の敷地と比較すると、王立図書館の敷地は城の半分ほどの大きさがあった。
施設内に入ると、目の前には本がぎっしり納められた本棚がズラリと並んでいるらしい。
「うわぁ……!」
「す、スゲェ」
「本がこんなに……」
そんな光景は圧巻なようで、3人は開いた口をパクパクさせたりしながらキョロキョロと見回していた。
ローラは初めて来たわけではないようで、皆を置いて先に行ってしまった。
「さあ、さっそく調べるの!」
「では皆様、こちらにどうぞ」
すでに何冊かの本を手にしたニコラスがわたし達を机へ座るよう促す。
ニコラスはイスを引きローラを座らせると、持っていた本を机の真ん中に置いた。
「とりあえず何冊かをピックアップしてきましたので、こちらを置いておきます。他もこれから探しに行って参りますので、少々お待ち下さい」
言い終わるとニコラスは一礼し、広い館内へと消えていった。
「さすが王族に仕える執事ね。仕事の速さが違うわ」
「せっかくニコラスさんが持ってきてくれたんだし、早速調べようか」
ニコラスに対し感心したように呟き、ユリアスの言葉で各々が目の前の本に手を伸ばす。
わたしも皆と同じように本を手に取るが、ある大事なことに気がついた。
わたし、本読めないんだった。
目が視えないのに字が読めるはずもなく、森にいた頃はフェルに読み聞かせてもらっていた。
最近は本を読むこともなく、冒険者になったばかりの頃は依頼を受けるため受付嬢に訊いたりしていたが、最近はユリアス達が探してくれている。
つまり、字に触れる機会がほとんどなくなっていたのだ。
も、盲点だった……!
どうしようか。
「ノア、どうしたなの? 全然ページ進んでないなの」
字が読めないことに困っていると、隣で本を開いていたローラが心配そうに尋ねる。
「わたし目が視えないから、本読めなかったんだよね。だからどうしようかなって」
「なら、わたしがよみきかせしてあげるなの」
そう口にしたローラは自分の本を机に置き、わたしの膝の上に収まった。
そしてわたしが持つ本を読むが、段々と眉間に力が入っていく。
「むむむ……よめない字が多いの……」
頑張って読んでいるようだけど、読めない字を飛ばしているのか意味不明な言葉が連なっていく。
さっきまで普通に読んでたってことは、ニコラスがローラのレベルでも読める本を選んだのだろう。
ここに着いてから時間全然時間経ってないのに……。
ローラとわたしの様子に気づいたルカが、席を立ちこちらに歩いてきた。
「どうしたの、ローラ様? 眉間にしわなんか寄せて」
「ノアがご本をよみきかせてあげようとしたんだけど、このご本わからない字が多すぎるなの」
「そう、ローラ様は優しいのね。せっかくだけどその役、私が代わりましょうか?」
「むぅ、仕方ないの」
ローラは渋々わたしの上から飛び降り、自分の席に戻り本を開く。
ルカはローラがいない方の隣に座り、丁寧に読み聞かせてくれた。
その後もニコラスが次々と本を持ってきてくれ、皆は頑張って探してくれていた。
王立図書館は本を守るため、窓を作っていない。
太陽の光による劣化と、盗難を防ぐためなのだそう。
なので、太陽の向きで時間を把握するわたしにとって、どのくらいの時間が経ったのかわからない。
体感で長い時間が過ぎると、皆疲労が出てきたのかページをめくる手をピタリと止めた。
「だあ〰〰、全っ然見つかんねぇ」
「フェンリルが出てきても、どれも似たような内容ばかりだったね」
ジークはイスに寄り掛かるようにしてのけぞり、ユリアスも目が疲れたのかグリグリと擦っていた。
ローラは早々に限界が訪れ、今の今まで寝息をたてている。
「それでも、少しはフェンリルについてわかったわ」
「ありがとう、ルカ」
フェンリルは、この世界に三種しかいない神獣の一つだという。
神獣はそれぞれ
天にいるとされる神々と同じ瞳の色だという言い伝えがあった。
フェンリルは狼のような姿をしており、その大きさは地から天に届くとさえ言われている。
『それが動けば大地震が起こり、その脚は木々や生き物を押し潰す。その尾は山をもなぎ払い、その鼻息は地を吹き飛ばす。その鋭い瞳は目の前の命を萎縮させ、その爪は海を引き裂く。その牙はいつか、神々をも噛み殺すのではないだろうか』
本にはそう記されていたが、なんとも恐ろしいイメージが湧いてくる内容だった。
フェルの正体が本当にフェンリルなのか、怪しく思えてきてしまう。
フェルは強く、賢く、優しくて温かかった。
対し本に記されているフェンリルは、強く、恐ろしく、神をも殺すとさえ言われている。
まだ情報が足りない可能性もあるため、フェルがフェンリルではない、フェルはフェンリルである、と言い切ることはできない。
ならば、もっと調べる必要があるだろう。
「ニコラス。これらの他に、もっと詳しく書かれてる本とかはないの?」
「神獣についてはわかっていないことが多いので難しいでしょう……。ここの本以外ですと――
「え?」
ニコラスは顎に生える短い髭を撫でながら、眉間に少ししわを寄せ答えた。
ニコラスは執事として働いているが、歳も重ねている。
子供がいてもおかしくはない。ましてや孫がいると言われても信じられる年齢だろう。
しかし彼は『娘が知っているかもしれない』と答えた。
国中の本が集まっても得られなかった情報を、なぜ1人の人間が知っているのか不思議でならないのだ。
というか、最初からその人に聞けばいいのでは?
そんな疑問も浮かんだが、とりあえずその娘についてニコラスに尋ねる。
「ニコラスの娘って誰?」
「
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