スパルタ特訓
「ノア、俺達を鍛えてくれ!」
「へ?」
今日は特に予定もないため、わたしはフォルンのブラッシングをしていた。
するとユリアス達がやってきて、急に頼み込んできたのだ。
「ほら。私達ってノアと比べると、すごく弱いじゃない? いつも受ける依頼だって、ノアが柱になってるし」
「俺達はノアさんみたいに強くなりたいんだ」
「そうすれば、ノアにかかる負担が少なくなるんじゃないかって皆と話してたんだよ」
「みんな……」
わたしは驚きで少し目を見開く。
「わかった。幼少期のわたしと同じ厳しい修行になるけど、それでもいい?」
その覚悟を確認するように、わたしは3人に問う。
「ああ、バッチコイだぜ!」
「当たり前じゃない。生半可な覚悟で頼んだりしないわ」
「
修行が始まってからしばらくして。
ユリアス達はぜえぜえと息をしながら、絞り出すように弱音を吐いていた。
「キッツ……」
「始めてからっ……っどのくらい経った…?」
「えーっとね、15分くらい?」
「まっ、まだ15分……」
一番に始めたのは、沢山走ること。
体力がなければ何をしても続かないし、どれも土台にあるのは自身の体力なのだ。
わたしは魔物と遊んだりすることで体力が付けたけど、始めはやはり走らされた。
ユリアス達に言ったのは、4時間走り続けること。
わたしが小さい頃にやったことと同じ特訓方法だ。
これを言ったときには顔を引きつらせていたが、3人はやると言った。
そしてわたしはフォルンの背に乗り、3人を追いかけている。
わたしも一緒に走ろうとしたが、フォルンが『運動不足だから背に乗って』と押し切られてしまったのだ。
そんなフォルンは楽しそうに走っており、結果的に良かったんだと思う。
「ノア。ユリアス達の走るスピード、落ちてきてるわ」
走り始めてから20分ほどが経ち、フォルンの言葉で3人の変化に気づく。
3人とも疲れてきたのか、姿勢が丸まり脚を上手く動かせていなかった。
でもまだ脚は限界じゃないし、過呼吸になるほどでもない。
そんな3人に、わたしは殺気を全開にし威圧した。
ユリアス達は肩を跳ね上がらせ、姿勢も良くなり走るスピードも上がる。
「よしよし」
「ねぇ……今の殺気はなに……?」
震える声で訊いてくるフォルンに、わたしは説明する。
この殺気は、走るスピードが落ちてきたときに元のスピードへ戻すために使っている。
生き物は皆本能で、死を恐がり死から逃げようとする。
それを利用した方法だと、フェルから教えてもらった。
わたしも特訓でよくやられ、走っている間はずっと殺気を送られ続けていた。
さすがにそれはキツい気がするので、遅くなってきたときに一瞬だけ送ることにしたのだ。
走り始めて50分ほどが経つと、彼らの脚が悲鳴を上げ始めていた。
いつも動いているとはいえ、こんなに動かし続けることはない。
脚からはギシギシと骨の
そろそろ限界かな。
だが、走るのを終わらせはしない。
「えっ!?」
「急に足が軽くなった……!」
わたしは3人の脚に
だが脚が治っても、削られた体力は回復されない。
この方法は体力をつけるには一番効率がいいが、やっている本人達は辛いはずなのだ。
しかし最初は弱音を掃いていたユリアス達も、しばらくすると弱音を吐かなくなった。
真剣に取り組んでいるのか、疲れて話す気力も失せたのか。
わたしにはわからないが、皆は最後までやり切ることができたのだった。
「お疲れ様。20分休憩した後、魔力操作とか色々教えるね。その特訓をしながらまた走ろっか」
「戦ってるときみたいな笑顔になってる……」
ユリアスが掠れ気味な声で呟くが、わたしにはその意味がわからなかった。
わたしはフォルンの背から降り、フォルンを撫でてやる。
ユリアスとルカは地面に伏せて脱力している。
あれ?
ジークがいない。
わたしは皆から離れジークを探した。
「はっ、やっ、ふっ」
少し離れた場所で、木に剣を振るっているジークを見つけた。
「ジーク、休憩しないと後でバテちゃうよ」
「ノアさん」
わたしに気づいたジークは剣を振るのを止め、こちらに体を向ける。
わたしは少し気になっていたこともあったため、わたしは木の下に座り手招きした。
ジークは素直に来てくれ、隣に腰を降ろす。
「走ってるときさ、1人だけずっと黙ってたよね。しかも休憩の時間なのに剣振ってるし、どうしたの?」
走っているときユリアスやルカは弱音を漏らしていたが、ジークは一つも口にしなかった。
それどころか、4時間走った後に剣を振っているのだ。
ジークもユリアス達くらいの体力しかないと思うので、今はほぼ気合で動いていたのだろう。
「俺は強くなりたいんだ。皆を守れるくらい。誰にも負けないくらい、強く」
ジークの答えに、わたしは驚きと疑問が浮かぶ。
彼は基本明るく、いつも楽しく生きている印象だった。
女性は好きだが1人に執着しない、
しかし、根は優しくていい人間だと思っている。
一つのことにあまり執着しないジークが、ここまで強さに執着する理由がわたしにはわからないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます