いざ王都へ

「ご、ご主人様って……どういうこと?」


「アタシに"フォルン"って名前をくれたでしょ? だからご主人様」


「???」


 フォルンの言葉の意味が理解できずに首をかしげていると、ユリアスが助け舟を出そうと会話に入る。


「ノア達が何を話してるかわからないけど、僕でよかったら聞くよ」


「ユリアス……! 実は、フォルンって名前を付けたらわたしのことをご主人様って呼ぶの。理由を訊いても名前をくれたからって」


「もしかして、名前を与えることがなんらかの契約だったんじゃないかな。『ご主人様』って呼ばれるのなら、2人の間に主従関係が生まれたってことだと思う」


 ユリアスがそう言い、そうなの、と聞くようにわたしはフォルンへ顔を向けた。


「そういうこと。アタシはアナタの従魔ってことになるわね」


 魔物を隷属させるスキルがあることは知っている。


 しかし今回は、ただ名前を与えるだけで契約が成立したのだ。


 フェルからも教えてもらってないし、人間が勝手に名付けても契約は成されたとは聞かない。


 ――フォルン自身が受け入れた、ってことかな。


 フォルンの言葉から始まった謎に対し考え込んでいると、ルカがしびれを切らしたように言う。


「何を話してるのかわからないけど、早く出発しないといつまで経っても着かないわよ? 王都までは早くても2日もかかるんだから」


「なら、アタシが連れてってあげる」


「うわぁっ」


「ノア!?」


 ルカの言葉で本来の目的を思い出すも、フォルンに腕をくわえられ空に放り投げられる。


 空中では踏ん張る場所がないため、重力に身を任せた。


 わたしは何回転かしながら、フォルンの背に跨がるようにして着地する。


 その様子を見ていた3人は慌てていたものの、無事に着地すると彼らから小さな拍手が送られた。


 フォルンは他の3人も背に乗せると思いきや、3人を置いてそのまま駆け出す。


「フォルン!? 皆も一緒に…」


「ちゃんと連れてきてるわ」


 フォルンのサラサラなたてがみと首に触れ話しかけるも、フォルンは慌てることも驚くこともなくそう答えた。


 わたし達の横や後ろから、微かに3人の声が聞こえる。


「キャアアアアアアアアアッ!!!」


「おお、スゲェ!! 景色がどんどん後ろに流れてくぞ!」


「う、浮いてる。これがユニコーンが使うという力? 角が光るのも本当だったなんて」


 ルカの絶叫が聞こえてくるけど、どうやって運んでるんだろう……?


 わたしが心の中で呟いた問い対し、フォルンは答えるように教えてくれた。


「ユニコーンは重力や空気を操るのが得意なの。あの人間達を空気の膜で包んで運んでるのよ」


「たぶんわたし達もそれで覆ってるよね」


 ジークが言うように、たぶんフォルンはすごいスピードで飛んでいる。


 なのに風圧や強風が襲ってこない。


 草原で佇んでいるときのような、優しい風が吹き通るだけなのだ。


 なんならフォルンの長いたてがみが当たらない。


 空気の膜で、風圧や風をしのいでいるのだろう。


 風圧が少なくなれば、更に素早く動けるんだ。


 新たな発見もありつつ、フォルンのおかげで3日ほどかかる予定が半日で到着した。


 ルカは喉が枯れないかと心配になるほど叫び続けた。


 地面にへたり込み、必死に肩で息をしている。


 ジークやユリアスは余裕な様子で、ジークはとてもはしゃいでいた。


「大丈夫?」


「だ…大丈夫じゃ……ない、かも……ゴホッゴホッ」


 ルカの背を擦りながら問うも、ルカは掠れ掠れに答える。


 叫び過ぎて疲れちゃったのかな。


「ルカ〜、大丈夫か? 咳してるし、声ガラガラだぜ? まぁ仕方ないよな。めっちゃ叫んでたし」


 さっきから走り回っていたジークが、心配そうな口ぶりでルカに笑いかける。


 その言葉の後、何故かジークが肩を震わした。


「怖くて叫びすぎたのよ。悪い?」


「い、いや……あ、そうだ! 俺ユリアスに用事があったんだった!」


 ジークは不自然なくらい大きく言い、そのまま駆け足でユリアスのもとへ去っていった。


「また感じ悪く言っちゃった……」


 ジークが去った後、ルカの呟きを聞き思わず驚いた。


 キツい言葉を吐くときも多いけど、ルカは根は優しかった。


 それに口を直す素振りもないため、特に気にしてないのかと思いわたしも気にしていない。


 だけど本当は気にしてたんだ。


「さ、早く行くわよ。日が沈み始めてきたし、宿とらないと」


 立ち上がったルカはいつも通りに戻っており、わたしの手を引いて立ち上がらせる。


「ふと思ったんだけど、フォルン…だっけ。その子はどうするの? このままじゃ中入れないけど」


 ユリアスの言葉で、フォルンの問題が浮上。


 角があるし、確実に魔物だって気づかれて騒ぎになる。


 首輪も持っていないし、ユニコーンなんて絶対人だかりになるよ!


「人間、安心して。要は角を見えなくすればいいんでしょう?」


「おお! 角が消えた!」


「どうなってるの……?」


「ふっ、空気を操れば造作もないこと。これならアタシも人間の町に入れるわね」


 ドヤ顔で言ってそうな口調で話すフォルンの言葉を、言い方を少し変えジーク達にも伝える。


 それを聞くと、3人から「おお」と感心の言葉が漏れた。


「あとフォルン。ユリアス達はそれぞれユリアス、ルカ、ジークっていう名前がある。『人間』って呼ばずに、ちゃんと名前で言って」


「わ、わかったわ。ごめんなさい」


 渋々承諾したような気もするけど、本人が言ったんだしそれでいっか。


「速く中に行こうぜ!」


 ハイテンションなジークが、王都へ入ろうと催促していた。


 その勢いを落ち着かせようとユリアスが対応し、皆歩き始める。


「あ、そうだノア。魔物と話せることとか、宿でちゃんと教えてもらうからね」


「はーい」


 抜かりのないルカに、わたしは苦笑する。


 わたし達は門でギルドカード提示し、王都に一歩、足を踏み入れたのだった。

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