本当はどっち?

 Bランク冒険者に絡まれたことから始まったあの1日から、1週間ほどが過ぎたある日。


 突然、ユリアスが思い出したかのように言ったのだ。


『ノアの防具を買いに行こう!』


 それからの3人の行動は早く、すぐ様ギルドに向かいアリスに相談する。


『王都のグランツさんのお店なんかどうですか? 目立たないところにありますが腕は確かで、所謂いわゆる隠れた名店ってやつです!』


 王都までは徒歩で1週間かかるのに対し、馬車は3日で着くことができる。


 だが王都行きの馬車は意外と値が張るらしく、わたし達は馬車を断念し徒歩で行くことにした。


 諸々の準備を整え、いざ出発!


 ……と思った矢先、意外な相手と再開する。


「ノア?」


「バトルホース!」


 わたしの名を呼んだのは、1週間前に精霊から助け出したバトルホースだった。


 バトルホースはパカパカと軽い足取りで近づいてくるので、わたしも彼女の方へと駆け寄る。


「1週間ぶりだね。あの後何かあったりしない?」


「もう大丈夫よ。改めて礼を言うわ」


 バトルホースは一歩下がり、静かに頭を下げる。


 柔らかくゆっくりなお辞儀をし、彼女はまたゆっくりと頭を上げた。


「ノアさん…その魔物って……」


「まさか……」


 いつの間にか遠くにいる3人は、どこか震えた声で何か言っていた。


 それを不思議に思いながら、わたしはバトルホースの首に触れ彼らに紹介した。


「この子はバトルホース。1週間くらい前に友達になったの」


「あの人間たち誰?」


「ユリアス達はわたしの仲間だよ。右からジーク、ユリアス、そしてルカ」


「ふうん」


 バトルホースに3人を紹介するも、彼女は素っ気なく返す。


 1週間前とどこか変わったバトルホースに、わたしは小首を傾げた。


「どうしたの? なんか1週間前と雰囲気変わったよね」


「アタシは元々こうよ。あ、あの時はびっくりして混乱してただけで…」


「そっ、そっかぁ」


 う〰〰ん、やっぱり変わってる気がする。


 でもまぁ、本人が元々だと言ってるんだしそうなのだろう。


 ほぼ蚊帳の外にいたユリアスが、引き気味に手を上げた。


「ノア……その魔物って……」


「? だからバトルホースだって」


「いやそういうことじゃなくてね…? その魔物ってBランクのバトルホースじゃなくて」


 え、この子はバトルホースでしょ?


 ユリアスは何が言いたいの?


 おかしなことを言うユリアスに、わたしは眉間にしわを寄せる。 


 そして次の瞬間、ユリアスは更におかしなことを言ったのだ。


「――Sランクの、だよね」


 『ユニコーン』ってたしか、物語に出てくるような伝説みたいな生き物だよね。


 見惚れるくらい綺麗で、額から一本の立派な角が生えてる。


 それにすごく脚が速い、四足獣の魔物。


 いやいや、本人がバトルホースって言ってるんだし、そんなのあり得るわけないよ。


「…………」


 わたしはバトルホースの頭に手を伸ばし、サラサラなたてがみに手を絡める。


 それを伝い、わたしの手は一本の太く硬い何かに触れた。


「立派でしょ? アタシの自慢の角」


 自慢気に言う彼女を前に、わたしはぐるぐると頭を混乱させていた。


「な、なんでバトルホースって名乗ったの?」


「何言ってるの、アタシはバトルホースよ。まぁ他のバトルホースよりは角が大きいけれどね」


「ん……?」


 目が視えないわたしにとって、周りの言葉でしかものがわからない。


 動きはわかっても見た目はわからない。


 特有の匂いや音がするものなら判断できるが、どんな姿なのか、何色なのかなどは全くわからないのだ。


 そのためこの場合、彼女がバトルホースなのかユニコーンなのか、わたしには判断ができないということ。


「ちなみにジークとルカもユリアスと同じ意見?」


「ああ、俺もユニコーンだと思う。すっごい綺麗で皆で思わず見惚れてたし。まぁ、最初は驚いて逃げたけど」


「はぁ…………」


「え、ルカ?」


 普通に答えたジークの隣で、突然息をつくルカ。


 頭は下を向いていて、ゆっくり顔を上げると同時に大きく息を吸った。


「真っ白で細いのに筋肉質な身体。量があるのにサラサラストレートで真っ白なたてがみ。動くたびに優雅に揺れる綺麗で長いしっぽ。太く立派なのに先は細くその身体に似合う黄色がかった角。どれをとっても美しすぎるわ。しかもその溢れ出る気品。真っ白に輝く身体に対して、足先が黒く染まっているのも更に魅力的に見える。紫色の瞳は吸い込まれそうなほど神秘的で本当に本から出てきたみたいっ! いえ、それ以上に素晴らしいわ!!! ふふっ…ふふふっ…!」


 ここまでものすごい速さで言い切ったルカは、肩で息をしながらも幸せそうに笑っている。


 ルカってユニコーン大好きだったんだ。


 会ったばかりの頃は置いといて、ルカはなんか大人びてる印象があった。


 ユニコーンはその神秘的な雰囲気からか子供に人気があって、ルカが好きだなんてなんか意外かもしれない。


 ルカの気迫に、わたしを含めここにいる皆が苦笑い を浮かべてるだろう。


 未だ興奮気味に息を荒くするルカに、ジークは背中を擦っていた。


「とりあえず、バトルホースはバトルホースじゃなくて、本当はユニコーンだったってこと?」


 わたしは後ろで震える彼女に訊いてみるも、本人もその事実に驚いているようだった。


「アタシってユニコーンだったの? 小さい頃に親を亡くして、バトルホース達と一緒に育ったから知らなかったわ。というかあの人間怖い……」


 本当にユニコーンなら、なんて呼べばいいのかな。


 バトルホースって呼んでたけど本当はユニコーンで、本人もバトルホースだって思い込んでたから今更ユニコーンって呼ぶのも違和感あるだろうし……。


「う〰〰ん」


 わたしが唸りながら悩んでいると、ユリアスが「どうしたの」と声をかけてくる。


 それに対し、わたしは素直に悩んでいることを話した。


「なら名前をつければいいんじゃない?」


「お願いするわ」


「なら――フォルン。フォルンってどう?」


「フォルン……いい名前ね。じゃあこれからよろしく、


「……え?」


 突然のフォルンの言葉に、わたしピタリと固まるのだった。

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