試験 (Sideハウス)

 ノアをAランクに上げる。


 それは、ノアがリベルを倒したと聞いたときからずっと言ってきたことだ。


 だが、周りはそれを許さない。


 登録して2ヶ月の新人がたった一つの功績だけでAランクに。


 そんなことになれば、他の冒険者達から反感をかうのは目に見えていた。


(彼女のような人材はそうそういない。さっさと高ランクにすればそれだけ助かる命もある。なのに周りはそれを認めないだろう…………そうか)


 ――ノアが功績を積めばいい。


 だがそんな思う通りにいかないのが現実だった。


 大きな功績を積めるような事態はそうそう起こらない。


 それも魔王が攻めてきたり、魔物達が暴走したりでもしなければ。


 なら次の手を考えるしかなかった。


 そんなとき、ノアと共に戦った経験のある冒険者がAランクになったという情報が流れてくる。


 それを知ったハウスは、ニヤリと笑みを浮かべたのだ。


 ノアに試験の内容を伝え、今日、その日が来たのだ。


 ノアの戦いを直接見るのは初めてだったハウスは、少なからずわくわくとした気分で今日を迎えた。


 本人達は試合場の隅で、会話を交えながら武器を選んでいる様子だった。


「20年以上もかけてAランクになったのに、まさか3ヶ月で並びそうになるとは思ってなかったな」


「あはは。ゲルデンも頑張ってAランクになったんでしょ? それでいいじゃん」


「しかし……まあ、そうだな。今日はお互い頑張ろうな。少なくともリベルの時よりは強くなってるはずだ」


「うん、よろしくね」


 ゲルデンは机に並ぶ武器の中から大斧を手に取り、試合場の中心へと歩き出した。


「わたしはこれでいいかな」


 ノアはそう口にすると適当に剣を手に取る。


 彼らの準備が整ったようなので、ハウスはユリアス達を連れ上の観客席に移動した。


 階段を登る途中、後ろを歩くユリアスに声をかけた。


「お前は、ノアが勝てると思うか?」


「え」


 急なことにユリアスは一瞬固まる。


 しかし、考える素振りも見せずにユリアスは答えた。


「勝てると思います。今のゲルデンさんの実力はわかりませんが、勝てるような気がします。まぁ勘なので確証はないですがね」


 そう言うユリアスは苦笑する。


 ユリアスとの会話を聞いていたのか、ルカとジークが会話に入ってきた。


「ノアさんなら絶対勝てますよ! あのリベルも1人で倒したらしいし、ワイルド・ボアを一蹴りで5体も倒したんですから」


「私は3体しか倒せなかったわ……」


「俺達なんて2人で5体だぞ」


「まぁノアなら大丈夫だよ。それに最初ノアがEランクって聞いたときは驚いたし」


「そのときから知り合ってたの?! なら私のところ連れてきてくれれば良かったのに」


「だよな〜。ズリぃぞユリアス」


 ノアの話題で盛り上がる3人を見ていると、ハウスはどこか懐かしい気持ちになっていた。


 それと同時に、何故か安心している自分がいた。


(まだ仲間になったばかりと聞いていたが、これほどまで信頼されているのだな)


 観客席に着いたハウス達は試合場を見下ろす。


 そこには、ノアがユリアス達に向かって手を振る姿があった。


 それを見ているゲルデンは呆れたような表情を浮かべている。


 どこかほんわかした空気に居心地の良さを覚えるが、仕事中なのは変わらないので器を引き締める。


「これより、ノアのAランク昇格試験を始める。準備ができた者は構えよ」


 ハウスの声に2人は同時に構えた。


 そこに先程のようなほんわかした空気は……あるが多少マシになっただろう。


 ゲルデンが真面目に構える中、何故かノアの周りにはあの空気が残っている。


 特に気にする必要はないので、ハウスは合図の意味で右手を高く上げ開始の言葉と共に振り下ろす。


「始めっ!」


 ノアのAランク昇格試験が始まったのである。


 先に動き出したのはゲルデンだった。


「知り合いだからと手加減はしないぞッ!」


 ゲルデンは重そうな大斧を両手に勢いよく駆け出し、一気にノアとの間合いを詰める。


 ノアはというとぼーっとしているのか動く様子はない。


「避けようとしていない……?」


(いや、なにか間合いに入ったら剣を振るような剣術なのかもしれない。たしか東の小国にそんな剣術があると聞いたことがある)


 ノアの行動が読めないのはゲルデンも同じらしかった。


 進むスピードこそは変わらないが、その顔には疑惑の念が浮かんでいる。


 ゲルデンが斧を振るうと、やっとノアが動き出し剣で斧を滑らせ上手く横に避けた。


 その後もゲルデンが押す形で斬り合いが始まった。


 その隙にハウスは、同じくこの試合を観戦するユリアス達を一瞥する。


「あれ、ノア大丈夫なのかしら?」


「たしか本人は頑張るって言ってよな」


「でも押され気味だし……」


 三人かははなにやら不安そうな会話が聞こえてくる。


 さっき聞いてた話では大きく信頼する声が多かったので、さすがに詳細が気になる。


 ゲルデンがノアを押すような攻防を繰り広げる中、ハウスは困惑の表情で彼らに尋ねた。


「ノアに何か、いつもとは違うおかしいところでもあるのか?」


「ああ、いや。ちょっとノアの動きが鈍いんですよ」


「いつもはのにね」


「視えない?」

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