防具

 ユリアス達のパーティに加入してから約1週間が経ち、その間着々と依頼を重ねお金も大分溜まってきていた。


 ハウスに言われたAランク昇格試験の前日。


 突然、ユリアスがこんなことを言い出した。


「今日は防具を調達しにいこう」


 あまりにも唐突な話だったので、怪訝そうにルカやジークが尋ねる。


「防具って、誰のを買いにいくのよ。2週間くらい前に傷ついた防具を買い替えたばかりじゃない」


「それに金が溜まったとはいえ全員分の防具を買う金なんてないだろ」


 わたしは基本お金の問題などには参加していない。


 わたしは後から入った身なこともあり、そういうことなどは把握してないからだった。


 聞けばいいんだけど、別に聞く必要もないためほぼ彼らに任せている。


 今回もわたしが入るような話題ではないので、静かに会話を聞いていることにした。


「調達するって言ってるのは僕達のものじゃないよ」


「じゃあ他に誰がいるのよ」


「みんな防具は付け……」


「「あ」」


 仲良く2人で同じ反応をし、何故かわたしの方に顔が向いている。


 もしかして、買いに行く防具ってわたしの?


 たしかにわたしは今まで剣だけで戦ってきたけど、防具なんて重いし動きにくくて買うのをやめたのだ。


 身軽な方が戦いやすいし、動きにくい防具を付けていたって避けちゃえば付けている意味はない。


 正直言ってわたしはフェルから貰ったこの剣だけでいいんだよね。


「もしわたしの防具を買うならいらないよ」


 わたしは胸の前で両手を振り、いらないことをアピールする。


「でも……」


「動きにくいし、わたしは避けるから意味ないんだよ」


「Aランクに上がるのなら今までより強い魔物とも戦うし、避けられるとは限らないよ。それも【魔境】にいるような強力な魔物とも戦うかもしれないし」


「大丈夫だか……」


「念のため、な?」


 食い下がるユリアスに、わたしは諦め頷いた。


 でもただでつけるのは嫌なので、少し条件を付けさせてもらおう。


「わかったから、買うにしてもAランクになったらにしよう。今から買っても動きにくいだけだよ」


「よし! じゃあまた今度調達しにいこうか」


 ユリアスはいつも宥める側にいるので、押しが強い一面を知り少し驚いていたのだった。



   ♢♢♢



 今日は例の試験の日。


「まさかノアさんがAランクになるのかぁ」


「まだ私達と同じDでしょ。でも、ノアだったら余裕なんじゃないかしらね」


「でもSランクよりはあれだけど、Aランクも狭き門だっていうよね」


「ノアさんなら大丈夫っしょ。な、ノアさん」


「相手はゲルデンだし、今はどのくらい強くなったのかわからない……ふあぁ」


 昨日の夜中は外で魔力操作の練習をしていて、調子が良かったせいかつい遅くまでやってしまった。


 しかも朝早くにルカに起こされたこともあり、あくびばかり出てくる。


 今は約束の時間よりも1時間早くギルドに向かっていた。


「ゲルデンって、あのリベル討伐の時の?」


「そう」


 BランクだったゲルデンはAランクとなり今日わたしと戦う。


 ゲルデンと共に戦ったユリアスは驚いた顔をしていた。


 しかし、ルカとジークはゲルデンのことを知らない。


「ゲルデンさんAランクになったのか。すごいな〜」


「ゲルデンって誰のことよ」


「その人ってもしかして、前に言ってたBランク冒険者の人?」


「そうだよ。ゲルデンさんは大きな斧で戦うんだ。すごい頼りになる人だよ」


「へぇ」


「出た、ユリアスの誰でも褒めるポジティブ思考」


 わたしはあくびをしながら3人の会話を聞く。


 重いまぶたを閉じないよう擦りながら歩いていると、しばらくしてギルド前に着いた。


「あ、ノアさん達来たのですね! お相手の方はまだいらっしゃらないので、ギルドマスターも居られるあのお部屋でお待ちください」


 アリスに案内され、もう何度も行っているあの部屋へと入る。


 ユリアス達も多少慣れたのか、最初の頃よりは身体の力が抜けていた。


 どうしよう、めっちゃ眠い。


 試合で寝ちゃわないといいんだけど。


 そんな不安を抱くわたしを他所に、ハウスが声をかける。


「おう、よく来たな。あ、そこに座ってくれて構わんぞ。……それにしても、ノアにしては早く来たと思っていたんだがお前らが連れ出してくれたのか、ワハハ」


 いつもより目に見えて上機嫌なハウスに、ユリアスが苦笑しながら相槌を打つ。


 それぞれいつものソファに座ると、ジークが机に両手を起き前のめりになった。


「てゆうか、ギルドマスターみたいなお偉い人がこんなところにいていいんですか? 王都とかそういう場所にいるイメージだったんで」


「ギルドマスターだから王都にいろとかいうルールは無い。何かあったら駆けつける必要があるが、特に行動は制限されないぞ」


「ギルドマスターって少し憧れるわ」


「こんなんやったって楽しくないぞ」


 そう口にし、ハウスは疲れたように息を吐いた。


 わたしは皆の会話に参加せず、朝から続く睡魔と戦っている。


 わたしがあくびをしていることに気づき、ハウスが話を振ってきた。


「ノアお前眠いのか? 珍しいな、いつもは元気で周りは驚いたり振り回されている印象なんだが」


「なんでも、夜更かししたらしくてあまり寝れてないそうですよ」


 ルカが呆れたように言う。


『なんで大切な試験前なのにちゃんと寝てないのよ?!』


 と、朝にも怒られたっけ。


 わたしが我慢できずにもう一度あくびをすると、同時にアリスが扉を開く。


「ゲルデンさんが来たので、いつでも試験を始められますよ」


「はえ?」


「なら移動するか」


 ハウスの言葉で一斉に動き出し、皆でギルド敷地内の試合場へと向かう。


「頑張れよ、ノアさん」


「絶対勝つんだからね」


「ノアなら大丈夫。絶対Aランクになれるよ」


 口々に贈られる応援の言葉に、わたしはニコッと笑みを浮かべ頷くのだった。

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