胸
盛り上がりを見せた歓迎会は終わり、女子組と男子組で分けたそれぞれの部屋へと移動していた。
「あ~お腹いっぱ〜い」
「沢山食べてたものね」
ベッドに倒れ込むわたしに、ルカが微笑しながら隣に座った。
わたしは今まで泊まっていた宿を出て、ルカが1人で使っていたこの部屋へと移ったのだ。
「ほらそのままで寝ない。シワになるしちゃんと着替えなさい」
「う〜……はーい」
わたしはベッドの上で起き上がり、着ていた服を脱ぎ始める。
ルカはベッドから立ち上がり、クローゼットから服を取り出していた。
すると戸を叩く音が聞こえる。
「身体を拭くようの
「はーい。私出るから、ノアは待ってて」
扉の方へと向かい、ルカが宿の人から桶とタオルを受け取る。
わたしは特に気にもせず服を脱ぎ続ける。
森では川で水浴びして、たまに魔物が来るから裸で戦ってたな〜。
でも今は警戒しなくてもいいんだよね。
感覚鈍っちゃいそ〜……。
わたしは裸でベッドに倒れ、溶けそうなほどぐでっと脱力した。
「身体拭いてあげようか……きゃあ!?」
こちらに戻ってきたルカはわたしを見るやいなや突然甲高い声を上げる。
わたしはボソッと「どうしたの?」と漏らしながら、ダルそうに起き上がる。
「胸……」
「胸?」
胸と言われたって、特に思い当たることがない。
はっ。
フェルから聞いた話だと、女の人間は胸の大きさを気にする人がいるらしい。
目が視えないから見比べることはできないけど、わたしの方が大きかったのかも。
「ルカ、あんまり気にする必要なんてないよ」
「いや気にしない方がおかしいわよ!」
そんなに?
胸の大きさってそんな大事なのかな。
「なんで胸に石が埋まってるのよ! しかも意外とでかいし!」
ああこれのことか、とわたしは自分の胸にある石に触れる。
実は、わたしの胸には魔石が埋め込まれているのだ。
全て埋まっているわけではないので、見たり触ったりすればあるのがわかるレベルには出ている。
「これは魔石だよ」
「それって、魔物の体内にある?」
ルカの言葉に頷き、また魔石に手を添え話を続ける。
「わたしの魔力って多いんだって。それで魔力をこれに閉じ込めて、暴走しないようにしてるの。少しずつ閉じ込める量を減らしていって、全てコントロールできるようになればこの魔石は取るけどね」
「あ、たしかに100年くらい前、魔力を暴走させた魔法使いが国を1つ滅ぼしたって……」
だんだん声が小さくなるルカは頭を振り、怖気づくような様子で訊いてきた。
「……ちなみに、今どのくらい制御できてるの?」
「ん~今は3分の1とかかな。この魔石が壊れちゃったら暴走する可能性はあるけど」
笑うわたしにルカは小さな悲鳴を上げた気がするけど、小さすぎて自分の笑い声もありよく聞こえなかった。
「ちょっとやそっとじゃ壊れないから、安心して大丈夫だよ」
「そ、そう。なら良かったわ」
わたし達はお互いに手の届かないところは拭き合ったりして体を綺麗にし、新しい服に見を包んで布団へと潜り込んだ。
「おやすみなさい」
「ん、おやすみ」
ルカに挨拶を返し、わたしも静かに目を閉じた。
「きょうはなんのまじゅつをおしえてくれるの?」
わたしがまだ小さかった頃。フェルがまだ、わたしの近くにいた頃のこと。
「今日は前回までの簡単な魔術ではなく、少し難しい魔術を教える。そのためにはまず、魔力操作ができるようになる必要がある」
「まりょくそうさはもうできるよ」
「お前が操作できる魔力量を増やすということだ。今その魔術を教えお前が使えば、お前は自分の魔力に呑まれることになる」
「ふぅん、そっか」
フェルの言う魔力操作は、小さな頃から続けていた。
全ての魔力をコントロールできるわけではないが、徐々にその量は増えてきていたのだ。
「なにからやればいいの?」
地面に伏せて座るフェルに、わたしは体を向け聞く体制をとった。
「自分の身体の周りに魔力を広げ、風が渦を巻くようにコントロールしてみるんだ」
「わかった!」
わたしは言われた通りに魔力を広げると、肩までの髪が風になびくようにふわふわと浮く。
その魔力をわたしを中心に回るようイメージ。
全身に魔力が巡る感覚がする。
「たのしいね! フェル!」
魔術は最初は苦戦したものの、コツさえ掴めばあとは感覚でできた。
自分の思い通りに魔力が動く魔術は、小さいわたしにとっては楽しい以外他になかった。
――しかしわたしの、子供の無知な好奇心が顔をだしてしまった。
さらにまりょくをふやしたら、もっとたのしくなるのかな。
フェルにほめてもらえるかな。
そんなワクワクした気持ちで、わたしは外に出す魔力を増やしていく。
「っ!? ノア止めろッ!!」
「ひゃ?!」
突然フェルが叫び、それに驚いて更に魔力を放出してしまう。
後から出された魔力はコントロールしていた魔力と混ざり、そよ風程度だった魔力の風は吹き荒れ巨大な竜巻にまで成長した。
わたしは魔力が抜けていく感覚と共に、温かな眠気に勝てず意識を手放した。
「ノアっ、大丈夫か?」
「んん……」
目が覚めたわたしは上体を起こす。
風に吹かれ木の葉が擦れる音も、魔物達の鳴き声も、さっきまであった当たり前の音は綺麗さっぱり消えていた。
後でフェルに訊くと、わたしは魔力を暴走させあたりを吹き飛ばしたらしい。
全ての魔力を操作できるようになるまで、わたしの胸には魔石を埋め込むことになった。
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