歓迎会
階段を上がり、初めてハウスにあった部屋へと歩を進める。
前回は知らなかったとはいえ呼び出しは2度目。
今回はどんな内容かな?
わたしがドアノブに手をかけ、部屋の中へと足を踏み入れる。
「お、やっと来たか。少し話したいことがあってな。とりあえず座れ」
「はーい」
言われるがままふかふかのソファへと体を沈め、顔と体の向きはちゃんとハウスに向ける。
目が視えず目を合わせられないなりの聞く姿勢だと、耳にタコができるほどフェルに言われていたからだ。
「早速だがノア、お前のギルドランクを上げようと思ってる」
「そっか。……でも、そのことを言うためだけに呼び出したわけないよね。ただランクを上げるだけじゃないんでしょ?」
わたしの現在のランクはD。
まだ下から数えた方が速いランクなので、上げるだけで呼び出すのは不自然な気がした。
今までだって、ランクが上がるときに呼び出しはなかったのだから。
「ご名答。1か月ほど前、お前達がリベル討伐の依頼を受けたのは覚えてるか?」
勿論覚えている。
リベルの人達と戦ったのは、(あの人達と戦ったのはわたしだけだけど)初めてみんなで挑んだ依頼だったから。
「リベルのリーダーであるリグル。奴はレベル50を超えると聞く。レベルだけだと、Aランク手前くらいだ。それをお前は倒した。俺が言いたいことはわかるか?」
「わたしをAランクに上げるってこと」
「そう。だが、ただ上げるだけだと
そう口にすると、ハウスは苦笑した。
わたしはなかなか話の要点を言わないハウスを急かす。
「笑ってないで早く教えてよ。この後ユリアス達と美味しいご飯食べるんだから」
「ふっ、悪い悪い。だからAランクに上げるにあたって、Aランク冒険者と試合をしてもらうことになった」
リグルより強いAランク冒険者。
ならもしかして魔術使うことになるかな。
そこまで強い人間は知らないけど、【魔境】では身体強化を常に発動してないと死んじゃうし、まだ油断できないか。
「相手はお前も知っている」
「?」
ハウスの言葉に、わたしは首をかしげる。
ハウスが「入れ」と扉に向かって言うと、1人の男が入ってきた。
「失礼します……って、ノア!? まさか試験の相手って……」
「もしかしてゲルデン?」
まさな人物の登場に驚いていると、ハウスは微笑しながら言った。
「そういうわけだから、試験は1週間後。どちらも頑張れよ」
◇◇◇
「ノアのパーティ加入を祝して、乾杯ッ」
「「「カンパーイッ!!」」」
「カンパーイ…?」
妖精の泉亭にて。
ジークの掛け声と共に各々の飲み物が注がれたグラスを頭上高く持ち上げる。
そしてグラス同士を軽く当て、耳に響くような高い音がした。
カンパイの意味をよくわかっていないわたしは、言われるがままに皆と同じ行動をする。
が、やはりわからない。
なんで「カンパイ」と言ってグラス同士をぶつけるんだろう?
「はぁ〜、やっぱりここの料理は美味しいわね」
ルカが温かいスープを口に運び、そう口にした。
ジークは骨付きの焼いた大きな肉を、口を開きかぶりついている。
妖精の泉亭は初めて来たわけではなく、ユリアスと初めて会ったときに共に訪れた場所だった。
今回は前に来たときとは別のメニューを注文した。
「そういえば、前にユリアスに勧められてここ来たけど皆は来たことあるの?」
わたしの問いに答えたのは、肉にかぶりつくジークだった。
「むぐ?
「そっか…?」
「食べるか喋るかどっちかにしなよ」
まだ口に肉を残したまま話すジークの言葉はよくわからず小首をかしげる。
そんなジークに、ユリアスが苦笑しながら注意するのだった。
「あいよ。ご注文のバイソンのシチューさ」
そう口にし、この宿の女将が机に料理を置く。
「ありがとう」
「あったかいうちに食べなさいね。これには隠し味でアッポルっていう果実を使ってるから美味しいと思うよ」
すると、女将はからかうように笑った。
「てかあんたら、随分可愛い仲間が増えたもんだね。男子群は大喜びじゃないのかい?」
「ノアは強いんですよ。すごく心強い仲間です」
「おやまぁ絶賛じゃないか。ふふっ邪魔して悪かったね。美味しいうちに食べるんだよ。うちの自慢だからね」
「はい、美味しくいただきます」
人が良さそうにユリアスと話す女将は、そう言って厨房に戻っていった。
女将を見送り3人がわいわい話す中、わたしはそっとスプーンでシチューをすくった。
熱い湯気と共に、シチューのいい匂いが鼻を通る。
すくったスプーンを口に運ぶ。
「んむ?!」
ひと噛みすれば、熱い肉汁が溢れ出し、野菜の甘みと素材の様々な味が混ざったシチューの味と匂いが口にいっぱいに広がった。
何これ美味しい!
脂が少なくて食べやすいし、硬すぎず柔らかすぎでもない。
森で食べてた肉と比べたら雲泥の差と言えるほど肉汁が溢れ出していた。
前まではお金をあまり使わず、食べれればいいやって感覚で食事をしていた。
要するに、食にこだわりや執着がなかったのだ。
「ノア、それはパンを浸しても美味しいわよ」
瞳をキラキラさせながら味を噛み締めていると、ルカが情報を追加した。
「やる!」
急いでパンを手に取り、先っぽをシチューへと静かに沈めていく。
しばらく漬けた後、また一口。
「ん〰〰〰〰っ!!」
わたしは他のも合わせ、全ての料理を綺麗に完食したのだった。
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