報告

「あ、ノアさん。先程の皆さんも。お疲れ様です」


 ギルドの入り口の扉をくぐると、わたしを見つけたアリスがカウンターからこちらに手を振る。


 アリスはわたしの専属受付嬢で、受付嬢の中でも特に背が小さい。


 スカートを揺らしながら駆け寄ってくるアリスだったが、途中足が自分の足に引っかかってしまう。


「依頼はどうでし……ふびゅっ!」


「……大丈夫? アリス」


「す、すみません。大丈夫です」


 仕事熱心で優秀な受付嬢なのだが、アリスはいわゆるドジっ子だった。


 今まで会ってきた人達より更に弱々しいアリスに、時々反応に困ってしまうことがある。


 しかし色々サポートしてもらっているので、信頼しているし頼りにもしている。


「依頼達成の報告と、素材の買い取り頼んでいい?」


「もちろんです! とりあえず報告書を書いてくるので床に素材を置いといてくだ……あれ、本当に依頼達成したんですよね?」


「ちゃんと依頼達成したよ」


「でも荷物が少ないですし。たしかワイルド・ボアってすごく大きかったですよね。後ろの皆さんも持っていないようですし……」


 そう言い、アリスはわたしの横から覗くようにユリアス達を見る。


 そういえば、いつもは魔物も大きくないので手で持って帰って来ていた。


 少ない魔力を使うのは勿体なかったからなんだけど、アリスにも言っとこうか。


「今回はアイ…」


「ストーップ!!」


「もご!?」


 アリスに魔術のことを言おうとした瞬間、ルカが後ろからわたしの口を覆う。


「すみません、マジックバッグに入っているので、書きにいっていいよ。後で床に出すから」


「わ、わかりました……?」


 ユリアスに促され、よくわかからないといった状態でアリスはカウンターへと戻っていった。


 アリスが離れると、ルカはやっとわたしの口から手を離す。


「ぷはっ……急にどうしたの?」


「それはこっちのセリフよ! こんな大勢人がいる中で…」


「はいはい、ルカも一旦落ち着けって」


 ジークにたしなめられ、ルカは声量を落とし「ごめん」と呟く。


 そしてユリアスがわたしの名前を呼ぶので、ユリアスの方に向き直った。


「あまり魔術のことは言わない方がいい。魔法が使える存在が重宝されているように、似たことができるとなればトラブルに巻き込まれやすくなると思う」


「わかった」


 魔法は魔術と違って殆ど才能に左右される。


 魔力量があっても魔法陣の式を間違えれば失敗に終わり、威力や効果などもその人のセンスや潜在能力に依存する。


 フェルから魔法が使える人は少ないって聞いてたけど、そんなにすごい人って印象はなかったんだけど。


「お待たせいたしました。どうぞここに素材を出してください」


「今日はいっぱいあるけど平気?」


「ギルドの建物を広くて大きいので問題ありません!」


 アリスが自信満々な様子で言うので、わたしは言われた通りワイルド・ボアを取り出していく。


 勿論かばんに手を突っ込んで引っ張り出す。


 運んでたときは重かったけど、勢いで出す分には意外と軽かった。


 1頭、また1頭と少しずつ積み上げていく。


 5体を出し終えたところで、アリスが口を開いた。


「すごい! 5体も倒せたんですね。ではもう1人くらい人手を読んでくるので…」


「何言ってるの、まだあるわよ? ほら、よく見てみなさい」


「へ?」


 ルカに促され、アリスはカウンターに向いていた体をこちらに戻す。


 わたしは構わずまた1頭と出していて、ちょうど7頭目を出し終えたところだった。


 その後も出し続けるのをアリスは大人しく見守り、周りはざわつき始めた。


「あのマジックバッグ、どのくらい入るんだよ」

「ある程度は値が張ったんだろうな」

「てかどのくらい倒したんだよ。10頭超えなんてAランク間近の俺達でもやったことないぞ」

「マジかよ」


 10頭を超えたあたりから、アリスの頬を引きつき始めたけど気にせず出し続ける。


「じゅ、15頭……ですか」


 絞り出すように言うアリスは、そのままワイルド・ボアの死体を眺め始めた。


「状態もいいですし、まるで死んだばかりのようですね。これは高価買い取りがお約束できそうです! 人を呼んで買取価格を決めましょう」


 嬉しそうに跳ねながらカウンターへと向かうアリスを全員で見守る。


 ちなみに周りの声は収まっておらずに集まる視線も増えた気がする。しかしアリスがカウンターへと向かうと幾らか静かになった。


 これがよく読み聞かせてもらってた本の、物語に出てくるようか癒やしキャラなのかな


「――おおノア。ちょうどいいところに」


 突然の野太い声に、話をしていた周りの冒険者が静まり返る。


 ユリアス達も体に力が入り、声の主の方に視線が集中する。


「話したいことがあるから前の部屋に来い。あ、用はノアだけだからお前だけでいいぞ」


 声の主であるハウスは視線を気にすることなく、そう言い残し部屋に入っていってしまった。


「行っていいよ、ノア。換金とかはこっちでやっとくから」


「せっかく同じ宿に泊まることになったんだし、今日はノアの歓迎パーティーよ!」


「いいなそれ。俺も賛成ー」


「わかった。じゃあ宿でね」


 ハウスに言われた通り部屋へと向かおうとするが、魔石を渡すのを忘れていたので引き換えした。


「スライムの魔石渡すの忘れてた。はいこれ」


「う……ん!?」


 ユリアスに魔石の入った袋を手渡すと、彼の手から袋が滑り落ちる。


 ドスッといった低く重たいような音がし、わたしはそれを片手で拾い上げた。


「あ~ちゃんと持たないとダメだよ。割れちゃうかもしれないし。まぁとりあえず行ってくるね」


「う、うん……」


 今度こそちゃんと手渡し、わたしはハウスのいる部屋に向かうのだった。

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