魔術

 ユリアス達がスライムを全て倒しきり、ワイルド・ボアの死体とスライムの魔石回収が始まった。


 一旦ワイルド・ボアの死体を1箇所に集めるため、皆手分けして運んでいる。


「はぁぁ……ひどい目にあった……」


 肩を落とすわたしを前に、ワイルド・ボアを持ち上げるユリアスが苦笑しながら話す。


「あはは、まさかあの数のスライムが集まるとは思わなかったよね。でも無事依頼を達成できたわけだし、お疲れ様」


「ん、ありがと。ユリアスもお疲れ」


 というかこいつらデカくて持ちにくいのに、ユリアス軽々と持つんだ。


 などと関係のないことを考えていると、突然ジークの呼ぶ声がした。


「こっちは終わったぞー。あとはお前らのやつだけだ」


「はーい」


 ジークの声に返しつつワイルド・ボアを集めた場所に着き、持っていたワイルド・ボアを置いた。


 倒した数は、ワイルド・ボアが15体スライムが20体。


「にしても……よくこんなに積み上げたわね、ジーク」


「ん? ああ、死体をぶん投げて積み上げてみたんだ。俺たちより高く積めたぜ」


 そう口にし、ジークは腕を曲げ力こぶに手を乗せた。そして「ニヒッ」と笑う。


「でもこれ1つ1つ解体するんだし、積み上げない方が良かったんじゃないか?」


「ゔっ」


 ユリアスの言葉にジークが狼狽え、ルカは呆れ混じりに苦笑する。


 わたしは死体が山の周りを移動し、日の光が当たらない場所を探していた。


 日陰にいるときの少し冷たい感覚はするが、日の光の暖かな感覚はどこも感じられない。


 だいぶ高く積み上げたんだな、と推測できた。


「まぁそれは置いといて、どうすんのよこれ。こんな量、とてもじゃないけど4人じゃ運べないわ」


 ルカがワイルド・ボアの山を指差す。


 縄などを使わずに、1人が運べる数は1体。持てても2体が限界だと思う。


 でもこの量なら――。


 わたしは手を死体の山の方へと突き出し、死体の山の上に魔術を展開した。


「ワイルド・ボアが、吸い込まれてる!?」


「ノア?! なにやって……」


 ユリアスが驚きながら訊いてくるので、今展開した魔術について説明した。


「これは虚空庫アイテムボックスって言って、収納スキルのストレージを魔術で再現したもの。魔力量の関係でいっぱいはいれられないけど、これくらいなら余裕で入るよ」


 今のわたしはそんなに魔力量が多くないから、魔術はあまり使えなかったんだよね。


 スキルがあれば魔力量関係なく運べたけど、スキルに頼りすぎるのは良くないって言われたし……仕方ないか。


「魔術……? もしかして魔法? ――てことは、ノアは魔法使いだったのか!?」


「えぇ!?」


 ユリアスの言葉に続くように、ルカやジークが驚きの声を上げる。


「スゲェじゃねぇか!」


「たしか魔法は先天性のもの。要するに、生まれ持った才能だったよね」


「あんなに強いのも納得できるわ」


 3人の中で会話が進む中、一応3人の誤解を解くため話題を元の話に戻す。


「わたしは魔法使いじゃないよ。わたしが使ったのは、じゃなくて。全くの別物だよ」


 魔法は決まった形である魔法陣を、詠唱を唱えることで発動するのに対し、魔術は言っちゃえばイメージの具現化。


 魔力をイメージ通りの形にできるので使い勝手がいいが、魔法と違って魔力操作がある程度できないと失敗することが多い。


 わたしはフェルに叩き込まれたので、問題なく使えているというわけだ。


「魔法の他に魔術ってものがあったのね。あ、だからいつも身軽だったんだわ」


「剣術できて体術もできる。それで魔法……じゃなくて魔術まで使えるとか、ノアさんって本当に何者なんだ?」


 なんかわたしが常識知らずみたいなこと言われてるのは気のせいかな。


 この世界のことはフェルに叩き込まれたはずなのに……何故?


 会話を繰り広げながら虚空庫アイテムボックスに死体を入れていっていたので、全て入れ終わった。


「そんじゃ帰るか。町に着く頃には夕方だよな、たぶん」


「そうだね、日も落ちてきたし」


「こんな身軽な帰りなんて、まだ冒険者になったばかりの頃以来ね」


 ルカはそう口にすると、体を上に引っ張るように伸びをした。


「この依頼で大分稼げたと思うし、今日は久々に豪華なご飯にしようぜ!」


 ジークの言葉を聞き、ルカがルンルンな様子でジークと共に先へ歩いて行く。


「お~にくっ、お~にくっ、久しぶりのお肉〜っ♪」


 お肉……ジュルリ。


 ルカがお肉と連呼するので、わたしは思わず大きな骨付き肉を想像してしまう。


 そんな皆の様子に、ユリアスは苦笑しながらついて来る。


 先を行くルカがくるりと振り返った。


「あ、そうだノア。パーティに入る気はない?」


「パーティ?」


「そう。私が言うのはあれかもだけど、私達の仲間にならないかって話」


 仲間……か。


 わたしは物心つく前ににフェルと拾われていて、記憶の中ではまともに話した人間はユリアスが初めてだった。


 フェルは、『単体で強い個体もいるが、人間は集団でこそ力を発揮する』と言っていた。


 単体戦はフェルとも沢山やったし、集団戦も学んだ方がいいかもしれない。


「入る。ルカ達のパーティ」


 皆といるのが楽しそう――…。


 わたしが彼らのパーティに入ることにした、一番大きな理由がそれだ。


「やった! これからよろしくね、ノア」


「うん、よろしく」


 わたしがパーティに入ることが決まった途端、叫ぶ者が1人。


「おっしゃぁぁあああああああああっっ!!!! 絶世の美少女と同じパーティだぁぁああああああああっ!!」


 欲を隠す気のないジークだった。


 今まで静かな方だった気がするけど、これが本当のジークなのかな。まぁ面白いし気にする必要はないけど。


「ジーク、落ち着こう」


「うっさいわねぇ。ノアはたしかに可愛いけどそんなストレートに叫ぶことないでしょ」


「いいだろ、のお前と違って……はっ」


 ジークがその言葉を口にした瞬間、わたしは思わず肩を震わせる。


 ユリアスなんて2人から距離を取っていた。


 いつの間に……。


「誰の、どこが、小さいって?」


「え、いや、その……えっとぉ……」


「お前は1回死ねぇぇえええッ!!」


 そしてルカの拳で、ジークは宙を舞うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る