敵意
「それで? ちゃんと話してくれるわよね?」
ワイルド・ボアの討伐依頼で、わたし達は被害のある農村に向かっていた。
妙に威圧的に話すルカに、ユリアスは困ったように苦笑いを浮かべていた。
「ちゃんと話すから、その握ってる剣を腰にしまおう。ね? …………いえ、なんでもなかったです」
何故か萎縮した様子のユリアスだったが、約束通りちゃんと訳を説明した。
「ノアはリベル討伐のときに一緒に戦った人の1人で、初めて会ったのはたしか……Dランクになったばかりの頃かな。今はお金があってもそのうち尽きるし、今のうちに稼げないかなって思ったんだ。ノアはすごく強いし、助っ人として心強いと思ったん、だけ、ど……」
説明をしながらユリアスの声は段々と小さくなっていった。
遠くに行っているのかと思ったが、足音も聞こえないし匂いもあるので首を傾げる。
「はぁ、とりあえずわかったわ。それでー……ノア、だっけ? あなたってたぶん貴族出身よね。その容姿で貴族じゃなけりゃどこ出身なのよ」
ルカは訝しむような視線を向けてくる。
さすがにずっとこんな視線を向け続けられると思うものもあるが、別に怒るようなことでもないので気にしないことにした。
ていうかなんでこんな、色んな人に怪しまれるんだろう?
「ユリアスには話したけど、わたしは【モルス神殿】っていうところで育ったんだ。それで、ルカの言う“貴族”ってどんな場所?」
ルカは頬を引きつらせ、ジークは大笑いし、ユリアスは笑いを堪えているのか口元を押さえプルプルと震えている。
ルカの視線は先程までより更に鋭くなり、声のトーンも落とす。
「それとね、あんた人と話すときくらい目を見て話しなさいよ。それとも隠したいことでもあるの? そんななんにもわからな〜いみたいなキャラ意味わからないんだけど」
出会った当初から敵意剥き出しなルカに、さすがにわたしも戸惑ってしまう。
「ルカっ、さすがに言い過ぎだって」
「……ねぇユリアス。本当に大丈夫なの? あんな子、とてもじゃないけど信用できないわ」
「う〜ん…ノアのことを知れば信用できるようになるよ。まぁ、人より感覚ズレてるとこあるけど……」
「……ふぅん」
ユリアスの言葉にルカは素っ気なく返し、会話は終了してしまった。
ジークは明るく話しかけてくれ、ユリアスとジークの3人で話しながら歩いた。
ジークの勢いには驚いたけど、悪い人間ではなさそうだった。
そんなピリついた空気が流れる中、とうとう目的地である農村に到着したのだった。
「今回は依頼を受けてくださりありがとうございます。畑を荒らされ、農作物が十分育たぬ状況でして……。ワイルド・ボアの討伐、よろしくお願いいたします」
頭を下げそう話すのは、依頼主でありこの村の村長である。
そんな村長を前に、ユリアスは柔らかな声で返す。
「任せてください。ワイルド・ボアなら倒せるでしょう」
「ありがとうございますっ」
実際に被害が出た畑の近くにある、まだ荒らされていない畑へと村長が案内してくれた。
「さて、着いたはいいが……どうやって誘き出すんだ?」
周りにあまり被害を出さずに討伐するには、ワイルド・ボアを探すか誘き出すしか方法はない。
高威力の攻撃で戦おうものなら農作物が全てダメになってしまう。
だがワイルド・ボアを一体ずつ探すのも骨が折れるので、いっぺんにおびき出そうという話になったのだ。
「わたし誘き出せるよ」
「おお!」
わたしが暮らしていた森で、暇なときはよく魔物達を呼び出して遊んでいたのだ。
同じ方法なら皆寄ってくるはず。
わたしは体内を巡る魔力を外側に放出し、その魔力をワイルド・ボアがいると思われる木々の中まで広げる。
これは生まれながらに持つ【スキル】とは違い、体内にある魔力を操作し現世で超常現象までも引き起こすことができる――【魔術】。
この地上に存在するものには全て魔力が宿っている。
その魔力を感じ取ることができるスキルもあるらしいが、生憎わたしは持っていない。
なのであちらから来てもらおうというわけなのだ。
強制探知を発動していると、地を削るような勢いの足音がところどころから聞こえて――…はこなかった。
「あれぇ?」
「……ノア、まだ来てない?」
来たるワイルド・ボアに備え警戒するユリアスが、わたしの声を聞き不安げに訊いてきた。
ユリアスの言葉に、わたしは静かに頷く。
すると、ルカがここぞとばかりに口を開いた。
「誘き出せてないじゃない。あ、そっかぁ、嘘ついたんだ。私は嘘つきを信用しないわ。それはあなたでも理解できるでしょう?」
敵意剥き出しなルカは、わたしに対して鋭い言葉を投げてくる。
だが、その鋭い言葉は矛先を失っていったような気がした。
「素顔を晒さずわからないことが多い人を、命を預ける仲間として信用なんてできない。期待もしない。夢や希望を見るだけ無駄。元々人を増やして依頼を受けるなんて、ずっと反対し続けてきたのに……なんで…………」
積み重なっていく言葉は、わたしではなくルカ自身に言い聞かせてるような、そんな感じがする。
終いには頭を両手で押さえ、ルカはうずくまってしまった。
思わずユリアスへと顔を向ける。
ユリアスの眉間には力が入り、ルカは歯を食いしばっているのだった。
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