ユリアスは仲裁係
情報ギルドにフェルの情報を買いに行ったが空振り。振り出しに戻ってしまったわたしはまた地道に探すこととなった。
マチルカと話した翌日、行きと同じように乗り合い馬車に揺られながらリンドウの町へと戻った。
そこから1週間はギルドの依頼を受けながら、依頼主にフェルのことを聞いては何も得られない。そんな毎日が過ぎていった。
しかし、ちゃんと得たものもあった。
加え、目が見えないわたしへの配慮で、専属の受付嬢をつくことになったのだ。
今日もいつものように、専属受付嬢であるアリスに依頼を探してもらっていた。
しかし、わたしの耳に届いたのはアリスの声ではなかった。
「たしかに困ってるけど、違う依頼受ければいいじゃない!」
「おい、お前の言う助っ人って一体誰なんだよ」
「いいからいいから」
背後から聞こえる口論にも似た会話の中には、聞いたことのある声も混ざっていた。
この声……。
わたしの予想は的中し、彼はわたしの肩に手を置いた。気づいていたため驚きもせず、わたしは後ろへと振り返る。
「久しぶり。突然なんだけど、一緒に猪狩りに行かないか?」
いつもより近くに寄ってくる
すると、突然ユリアスがわたしから離れた。……いや、離された。
「急すぎよ! 相手も驚いて後退りしてるじゃない!」
「おっ、超美少女じゃん! なんでこんな子紹介してくれなかったんだよ〜」
「…………?」
急な出来事に、わたしは呆然と立ち尽くすのだった。
◇◇◇
ギルドのテーブル席が並ぶ場所で、わたし達は机を囲んで座っていた。
急なことに驚いていたが、その後ユリアスからちゃんと説明を聞くことができた。
ユリアスはパーティに所属していたようで、先程ユリアスの後ろから声をあげていた2人はパーティの仲間だという。
「ジークは単純だけど良い奴だから。ルカはズバズバものを言うけど、悪気はないから気にしないであげてね」
そう2人について教えてくれたユリアスは、鞘に収まった剣でルカに頭を叩かれた。
ユリアスは「急になんだよ……」と言うが、ルカは沈黙を通した。たぶん今のはユリアスが悪いような……。
それにユリアスってパーティ組んでたんだ。
そのことについてユリアスに尋ねると、「ああ、それはね」と教えてくれた。
盗賊団の依頼のときは他2人が怪我をしていたらしく、生活費のためお金が必要だったらしい。
わたしも一応自己紹介をし、ユリアスが話をきりだす。
「実は、受けようと思ってる依頼が4人以上のパーティしか受けられないんだ。依頼内容はワイルド・ボア7体の討伐」
「ワイルド・ボアの肉って美味しいんだぜ」
ユリアスに続く形でジークも口を開く。
なるほど、だから猪狩りって言ってたんだ。にしても、ワイルド・ボアのお肉か……ジュルリ。
丸々焼かれた猪肉を想像し、涎を垂らしそうになるのを必死に耐える。
しかし、今までの会話などから不思議に思うことがあった。
他の依頼もあるはずなのに、何故そちらを選ばなかったのか。何故わたしが誘われているのか。
疑問が尽きぬ中、ルカがため息をつきつつも教えてくれた。
「私達は生活費もギリギリだったの。今ある依頼の中で一番稼げるのがこの依頼なのよ。でもリベル討伐の報酬金で、今は余裕があるから他のでもいいじゃないって言ってるのに、ユリアスは全然聞かないし……」
「……」
そう話すルカから、何故か鋭い視線を感じる。まぁ殺意は含まれてないし、気にする必要はないか。
集団戦闘も経験できることから、依頼に参加するという返事をしようと口を開く。
しかしジークが先に話しだした。
「というかユリアス。俺達はまだ何も聞いてないぞ」
「たしかにそうね。何故この子を誘おうと…」
「この美少女の名前は?! てかいつ知り合ったんだよ!! こんなび・しょ・う・じょ・とッ!!」
ジークのあまりの勢いに、ユリアスの座る椅子が床と擦れる音がした。
話しているときにジークに話され始めたルカの頬には力が入り、ピクピクと引きつっている。
ルカは体を震わせ、机から立ち上がろうとした瞬間ユリアスが手を突きだす。
「まあまあ、一旦落ち着こう。ね、ルカ。ジークも後で話すから……」
目の前で繰り広げられる会話を聞いているわたしは、今の状況とは全く関係のないことを考えていた。
前にアミとゲルデンの口喧嘩が起こりそうになっていたとき、ユリアスは自ら仲裁に入ったのだ。
仲裁が上手い理由はいつもこの2人の喧嘩を仲裁してるからなのかな?
そんなカオスな状況が続く中、ユリアスの努力の結果わたしも依頼に参加することとなった。
ルカの鋭い視線がなくなることもなかったけど……。
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