情報ギルド
「あら――…久しぶりですね、ハウスさん」
そう柔らかく話すのは、情報ギルドのギルドマスター。
「久しぶりですね。そして、ここにいるのが手紙でお伝えしたノアです」
わたしは時前にハウスに言われた通り、ギルドマスターの女性に向かって深くお辞儀をする。
わたしとハウスは冒険者ギルドで待ち合わせをし、乗り合い馬車に揺られ情報ギルドへとやってきた。
移動の際、これから会う情報ギルドのギルドマスターについて色々説明されていた。
『あいつは貴族の出だからか、いい意味でも悪い意味でも疑い深い奴なんだ。あと敬語を使った方がいい。細かいところまで見られるから、正しい情報を安く手に入れたいのなら信用を得られるような行動をするんだな』
そうハウスに言われてたのだが、どうにもわたしは敬語が苦手だった。
人間の言葉は難しいのに、敬語となると更にややこしくなるからだ。
ハウスは敬語じゃないことを黙認してくれているが、彼女に対してはダメだと言われた。
もちろん彼女の目の前でハウスに普通に話しかけようものなら、彼女からの信用を得られる可能性はゼロになると釘をさされている。
「ようこそ、アリシア情報ギルドへ。それにしても、可愛らしいお客様ですね。ハウスさんに変なことなどはされていませんか?」
「何故そうなるんですか?! 俺は何もしてませんよ」
「フフフッ」
柔らかい口調で話す彼女を前に、ハウスのいうような人には見えなかった。
それにハウスとは昔ながらの付き合いらしく、仲が良さそうな雰囲気である。
だが、油断してはいけない。
ゲルデンによるとこの女性は、「蛇がとぐろを巻いたように、内側が真っ黒で見えない」と言う。
たぶん蛇が彼女の体内に住んでるから、いつ襲われてもおかしくないという意味なのだろう。
わたしも充分警戒しておかないと……!
「そういえば自己紹介がまだでしたね。
「わたしはDランク冒険者のノア……です。よろしくお願い、いたしまス!」
よし、言えた!
わたしは無意識にドヤ顔になっていた。だからかハウスは小さく息を吐いていた。
あれ、正しく言えてなかった……?
「一つ質問をしてもよろしいでしょうか?」
わたしが彼女の問いに頷くと、マチルカは「ありがとうございます」と口にし質問を投げかけた。
「あなた――ノアさんは、 “情報” や “知識” をどんなものだと思っていますか?」
マチルカは変わらず柔らかい声でいうが、少し鋭い視線も感じる。
ハウスの「またか……」という呟きが気になるのだが、わたしは正直に答えた。
「わたしは強さだと思…います。例えば、ある情報を持っているか持っていないかで生死がはっきり別れる。知識を多く持つことで、生き残ることができるようになる。知識は身体能力や技能と同じくらい重要なものだと、わたしは思ってる……デス」
「そうですか、答えてくれてありがとうございます。それではそろそろ本題へと移りましょうか」
わたしは先程の質問は何だったのだろうと思うも、考えても仕方がない。
なので、マチルカの言う通り本題についての思考へと切り替えた。
「わたしは、3ヶ月前に消えた育ての親を探して…いまス。名前はフェルなんだけど、知って……ますカ?」
「特徴とかはわかりますか? 例えば種族とか」
「種族はわからない、です。えっと、あとは大きくて、フワフワしてて、賢くて強い! ……です。あと声が低かった……デス!」
「そう…………」
マチルカは考えているのか、顎にを指で挟み黙り込んだ。
しばらくし、彼女は顔を上げ口を開いた。
「ごめんなさい、今はその情報はないみたいです。何か情報が入ったら伝えますわ」
マチルカは本当に申し訳無さそうな声で言う。
情報専門のギルドでも、フェルの情報は無かった。
あとはどこに行けば、誰に聞けば情報が手に入るのか。
考えても考えても、今のわたしでは思いつくわけはなく、また振り出しに戻ってしまったのだ。
地道に探すしかないのかなぁ……。
そして、絞り出すように言葉を返した。
「そう、デスか。ありがとう……ございましタ」
わたしは立ち上がるとマチルカに対してお辞儀をする。
そして失望したわたしはふらふらとギルド近くの宿に向かったのだった。
ふらふらと部屋から出ていくノアを見送ったハウスとマチルカの2人は、まだ帰る様子はなかった。
「さっきの言葉、あれ本当なんですか? 情報ギルドでも1つも情報がないなんて、ありえないと思ってたんですけど……」
「あれは本当ですよ。
ハウスの言葉に、マチルカはきっぱりと断言する。
ノアと話していたときのような柔らかい笑みはなく、横に長の吊り上がった綺麗な目がハウスを捉える。
「珍しいですね。一度会っただけで人を気に入るなんて」
「ええ。あの子は純粋だけど、しっかりと自分を持っていました。あなたの手紙で聞いていた通り、信用に値する人物だと判断いたしましたの」
ノアと話す前にギルド員が入れてくれた紅茶を一口含み、飲み込んだ後にカップを置く。
貴族出身ならではの綺麗な所作で動く様は、未だ貴族のオーラを醸し出していた。
「真偽がわからなくなりそうな環境下でも、見る目までは落ちていませんわ」
そう口にし、マチルカの綺麗な顔には不敵な笑みが浮かぶのだった。
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