ギルドマスター
盗賊の討伐依頼を達成したわたし達は、何故かギルドに呼び出しを受けていた。
戦闘から1週間が経っているためユリアスの怪我も完治し、集まった3人はギルトの1室に通された。
誰か、いる?
部屋の中には人が立っており、わたし達に気づくとこちらに体を向けた。
「急に呼び出してすまないな」
男性が持つの低い声だが、ゲルデンよりかはいくらか高く、少し歳を感じさせる声だった。
その姿を前に、ユリアスとゲルデンの体には力が入る。
「俺はギルトマスターのハウス。報酬の件と、少し聞きたいことがあって集まってもらった」
ギルトマスターってたしかギルドの中で偉い人のことだよね。だから2人は体が強張ったのか、緊張で。
ハウスと名乗る男は「座っていいぞ」と口にしながら、気の椅子に腰を下ろす。
わたし達は素直に、前に入った部屋にあったような椅子に座った。
「まずは依頼達成お疲れ様だな。いや〜、本当に助かった。リベルにはこちらも手を焼いていたからな」
ハウスは変わらず優しそうな雰囲気で話を続ける。たぶんその表情は明るく、笑みを浮かべているのだろう。そんな声色だった。
「報酬だが、最初に言った通り銀貨5枚だ」
ハウスは硬貨が入った袋を3つ取り出し、近くに控えていた受付嬢に手渡した。
受付嬢はその袋をわたし達3人に配り、「失礼します」と言い残して部屋から出ていった。
扉が閉まると、ハウスが口を開く。
「じゃあ早速聞くか。――奴らは誰が倒した?」
「リベルを倒したのはこのバーティですが……」
何故こんなわかりきったことを聞くのだろう。もしやこの功績を誰かから横取りしたと疑われているのか?
ゲルデンはそんなことを思っているのだろう。
ハウスの問いに答える際、ゲルデンの声から疑問を抱いているよう感じた。
ゲルデンが言ったことは、質問の答えになっていない。ハウスが訊いていることはたぶん違かった。
「――ノアですよ。盗賊団は全て、ノアが1人で倒しました」
ユリアスの言葉を聞いたゲルデンは、試されていたことに気づいたのか黙ってしまった。
しかし、なんで試すようなことしたんだろ。
ただでさえ人間の言葉はややこしくて難しいのに、わかりにくい言葉で言う必要ある?
もっとわかりやすいよう言えばいいのに。
「試すようなマネをしてすまなかった。この話を聞いたとき、あのリベルを壊滅にまで追い込んだのなら頭も回る人なのかと勝手に推測していてね。少し訊いてみただけなんだ」
微笑するハウスに対し、わたしは本来の目的である情報ギルドについて訊くことにした。
同じギルドっていう名がついているんだし、ユリアス達より詳しそう。そんな単純な理由だった。
わたしは手元にある報酬が入った袋を持ち上げ、指さした。
「このお金があれば、情報ギルドから情報って買えるの?」
「(ノアッ、敬語!)」
小声で注意をするゲルデンを止め、ハウスは質問に答える。
「いい、いい。情報の価値によるが、それだけあれば買えるだろう。なんだ、何か探しものでもあるのか?」
ハウスの言葉に、わたしは小さく頷いた。
「3ヶ月くらい前に消えた育ての親を探してるの。フェルっていうんだけど……知らない?」
「すまん、聞いたことがないな。特徴とかはわかるか?」
「えっと……あったかくて、フワフワしてて、大きくて、頭が良くて、すごく強い!」
「……要領を得んな。見た目でわかる特徴はないのか?」
「わたし目が見えないから何も言えないよ」
「…………は?」
途中、ハウスは固まり動かなくなってしまった。
なんで皆同じ反応するんだろ。わたし、何かおかしなこと言ってるのかな。
ハウスはゆっくりユリアス達の方へと顔を向ける。そして2人は、ハウスに向かって頷いた。
「まさか、目の見えない少女がリベルを倒すとはな……。本当に見えていないのか? 見えているようにしか思えないのだが……」
ハウスは疑いの目を向け、一つ息をついた。
「まあ、それが本当だったら情報ギルドに行っても困るだろう。あそこは殆ど文字しかないからな。まだ話したいこともあるし、俺が連れて行ってやろう」
わたしの表情は更にパッと明るくなり、口角を釣り上げ笑顔を見せる。
「ありがとーごさいます!」
ハウスと一緒に情報ギルドへ向かう約束をし、わたし達はギルドから帰された。
ゲルデンとは先に別れ、ユリアスとは宿の帰り道が途中まで同じだったことから送ってもらうことになったのだった。
「ゲルデンさん、いい人だったね」
「そうだね」
ユリアスの言葉に、同意の言葉を返す。
ゲルデンは言葉がキツかったものの、最初の態度などは危険から遠ざけようとしてくれていたのだろう。
まぁ最初は気づかなかったけど。
「あ、もしかしてここ?」
「ん、ありがとう」
「じゃあまた明日」
そう言い残し、ユリアスは自分の帰路についた。
ユリアスはわたしに何か話があるそうで、明日も会おうと約束したのだ。
夕食のいい匂いが漂い多くの人間で賑わう1階を抜け、2階に続く階段を上がる。
「……3ヶ月もかかった……」
わたしは自分の部屋へと入り、整えられたベッドに倒れ込む。
「……やっと、手がかりが見つかるかもしれない……」
わたしの口からは、思わず「フフッ」と笑いが溢れる。
そして、まだ重たくもない瞼をゆっくりと、静かに閉じたのだった。
「待っててね、フェル――…」
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