リベルの対策会議 (Side ギルドマスター)

 ギルドとは、全ての国に点在し、国が強く干渉できない唯一の組織である。それはそれぞれ用途に分かれており多種多様に存在する。


 その中の魔物討伐から雑用まで、幅広い仕事を請け負い、「なんでも屋」とまで呼ばれている冒険者ギルド。


 その一つでアリシア王国の王都にある、アリシア冒険者ギルド本部。そこではギルドマスターと幹部の人達が集まり、会議が開かれていた。


 大きく長い机は四角く並べられ、皆向き合った状態で座っている。


 ギルドマスター含め、皆重々しい表情を浮かべていた。


「まさか……たかが盗賊ごときで冒険者ギルドの重鎮が、揃うことになるとはな」


 1人の幹部の男が、不愉快そうに呟く。他の幹部の男達もその呟きに乗っかり始めた。


「仕方ないじゃないか。今まで10組もの冒険者を送り込んでも返り討ちにされ、被害は更に広がるばかり。そんなこと言ってられない。懸賞金の額も増える一方だ」


 そこに不満を口から漏らす彼らを、ギルドマスターが鋭い目で睨みつける。


「私語は慎め。これは盗賊に対する対応を考えるための会議だ。雑談の場ではない」


 話をしていた彼らは慌てて頭を下げ、部屋にはピリついた空気が流れる。


「さすがギルドマスターですね」


「はい、1ミリも笑わないです」


「俺、ギルドマスターが笑ったところ見たことないかもしれないです」


 お茶を出すタイミングを失い、部屋の前で除き見ていたギルド職員達が静かに話していた。


 真逆に、部屋の中では静粛な雰囲気が場を支配していた。


 その空気に物怖じしながらも、報告のため職員の男は口を開く。


「――…で、では、近況報告を致します。盗賊団…改めリベルは現在、王国の南西辺りに広がる森に、拠点を作った可能性があると報告が入りました。そのため被害も拡大しています。拠点は未だ見つかっておらず、森に近づいた商人や冒険者をターゲットにしているようです。リンドウ支部では冒険者を募り、その森に向かわせたと聞きました。以上となります」


「ご苦労。意見がある者は挙手をしてから述べるように」


 ギルドマスターの言葉に、1人の男性幹部が手を上げ立ち上がる。


「森に冒険者を向かわせたとて無駄なのでは? 現に送り込んだ冒険者達の中で、生きて帰って来たのは数えるほどしかないですよ」


 その男の言葉を皮切りに、他の幹部達も皆手を上げ意見を述べる。


「たしかにそうだが、このままでは一向に状況は変わらん。相手の戦力を削るのは最適ではないのか?」


「いや、その方法ではこちらのダメージが大きい。ただでさえ上位冒険者が少なく、皆手が回らないほど忙しいというのに。リーダーがあのリグルじゃなければ……!」


 先程の幹部の話から、皆いい案が浮かばないのか唸り始めてしまった。


 農民のレベルが10、ベテランの冒険者でも40。


 しかし、リグルのレベルは50を超えると聞く。


 あいつに太刀打ちするなど、低ランク冒険者には不可能と言っていい。


 だが、今は人手不足で高ランク冒険者は出払っている。


「はー……どうしたもんだか……」


 ギルドマスターが大きな溜め息をついたとき、会議室の扉が勢いよく開かれた。


 扉を開けたギルド職員が慌てた顔で叫ぶ。


「ギルドマスター! お耳に入れたいご報告が!」


「今は会議中だぞッ!」


 幹部の1人が職員に対して怒鳴りつける。


 だが、あの慌てようはただ事ではない。


 ギルドマスターはその幹部を制止し、幹部の男は押し黙る。


 そしてギルド職員に、報告の内容を尋ねた。


「それで、報告とはなんだ?」


「それが――」



「なんだとっ!? それは確かなのか!」


 報告によると、今まさに会議の内容となっていたあのリベルが壊滅したらしい。


 リベルとは様々な悪さをして周り、そのリーダーであるリグルは数々の高ランク冒険者を葬ってきた。それは一般市民にも被害が及んでいる。


 そんな最強の盗賊団リベルが壊滅したということだけでも信じがたいが、寄せ集めのパーティによって壊滅させられた――と職員はいうのだ。


「そのパーティメンバーのランクはなんだ!」


 話を聞いた幹部の1人が慌てた様子で立ち上がった。


 その勢いに気圧されながらも、職員ははっきり答える。


「Bランク冒険者が1人、Cランク冒険者が2人、Eランク冒険者が1人です。しかし、Cランク冒険者の女はリベルの仲間だったそうです」


「…………」


 ここに集まる幹部やギルドマスターは口を半開きにし、威厳も何もない、信じられないものを見たときのような顔をしていた。


 その静寂を破ったのは、ギルドマスターの呟きだった。


「まさか、こんなことがありえるのか……」


 ギルドマスターは眉間にしわを寄せ指を当てた。


 一度大きな溜め息を吐き、表情を切り替え元の威厳を取り戻す。そして駆け込んできた職員に命じた。


「あちらからここに来させるには時間がかかる。俺が向かうから知らせておけ」


「ハ、ハイ!」


「なっ、ギルドマスター自らが向かうのですか!?」


 会議の場はザワつきながらもギルドマスターが退室したことにより、会議は急遽終了となった。


 ギルド本部の廊下を、ギルドマスターは足早に進んでいく。


「あの職員は、パーティで死者や重傷者が出たとは言っていなかった。だが相手はリベル。絶対におかしい……」


 ギルドマスターはぶつぶつと呟きながら、職員の報告内容を思い返していた。


「Bランク冒険者が強かったのか? いや、リグルに勝てるほどの実力があるのなら有名になっているはずだ……」


 ギルドマスターはある言葉が頭に浮かび、速めに動かしていた足を止めた。


 そして頭に浮かんだ言葉を口にする。


「………Eランク冒険者、か?」


 真剣な顔つきで呟く。しかし、すぐに鼻で笑った。


「駆け出しの冒険者がそう勝てるわけでもないな。だがまあ…――会えばわかるか」


 そう口にし、ギルドマスターはまた足を進める。


 その表情には、笑みが浮かんでいたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る